第4話:勝ち確の配牌、最悪の罠
運命の第一局目がスタートした。
親であるサラが、第一ツモ(牌を引くこと)を行う。
サラは引いてきた牌を一瞥すると、不要だったのか、そのまま無言で『二萬』を河(捨て場)に捨てた。
次は私の番だ。
私は震える指で、牌山からツモ牌を引き寄せた。
(……来たっ!)
指先に触れた感触。
引き当てたのは『東』。
文句なしの私のアガリ牌だ。
配牌の時点からテンパイし、最初の自分のツモでアガる『地和』。
それに『国士無双13面待ち』が加われば、役満すら超える『トリプル役満』になる。
点数にして9万6000点。圧倒的な大勝利だ。
「ツ――」
「ツモ」と宣言しようと口を開きかけた瞬間、私の頭の中に、氷水を浴びせられたような恐ろしい計算がフラッシュバックした。
(待って……私がここでツモアガリしたら、点数の支払いはどうなる……?)
麻雀のルールでは、子がツモでアガった場合、親が点数の半分を支払い、残りの子が4分の1ずつを支払う。
もし私がトリプル役満をツモってしまえば、親であるサラは『4万8000点』という莫大な点数を一人で支払う(親被りする)ことになる。
キララとシズクの支払いは、半分の2万4000点ずつで済む。
つまり。私がここでこの最強の手をアガってしまえば、サラの点数が一番低くなり、最下位が確定してしまうのだ。
(そんな……っ! 私がアガれば、サラがすべての借金を背負うことになる……!?)
ハッとして前を見ると、対面に座るキララとシズクが、肩を震わせて声を殺して笑っていた。
気付いたのだ。
この、奇跡のような『国士無双13面待ち』の配牌すらも、GGGの全自動卓によって完全に仕組まれた罠だったということに。
「……っ!」
私は唇を噛み切り、ツモ宣言を飲み込んだ。
もしここで私が勝てば、私は助かる。
でも、その代償として、一番大切な姉が地獄へ突き落とされる。
そんなこと、絶対にできるはずがない。
私は手が千切れるような思いで、引いてきたアガリ牌である『東』を、そのまま河に叩きつけた。
「パチン」という乾いた音が、冷たい地下室に響き渡る。
「え……?」
その瞬間、サラの表情が凍りついた。
目を見開き、血の気を引かせた姉の顔を見て、私は最悪の可能性に思い至った。
(もしかして、今の『東』はサラのアタリ牌でもあったの……?)
当然、サラも「ロン」と宣言することはしない。
「ロン」してしまえば、今度は私からの直撃となり、私の最下位が確定してしまうからだ。
アガリ牌を、自分たちの意思で見逃した。
この時点で、私たちは麻雀の絶対的なルールである『フリテン』状態となり、もう他の誰かがアガリ牌を出しても、自分の順番が回ってくるまでは「ロン」と言ってアガることはできなくなった。
最強の盾であり矛であるはずの国士無双。
それが、私たち姉妹の「互いを思いやる心」を逆手に取り、縛り付けるための、最悪の鎖に変わった瞬間だった。
「クスクス……どうしたの、残念そうな顔して? なんか嫌なことでもあったの?」
西家に座るキララが、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら自分のツモ牌を引き寄せた。
そして、私とサラに見せつけるように、ゆっくりと河へ牌を落とした。
「はい、『南』」
それは、私にとってのアガリ牌。 喉から手が出るほど欲しい。
これを「ロン」と言えば、キララから全額点数を奪い取り、この地獄から抜け出すことができる。
しかし、私は声を発することができない。
フリテンの呪縛に囚われた私は、ただ唇を噛み締め、目の前に置かれたアガリ牌を黙って見逃すことしかできなかった。




