第3話:悪魔の救済案
「やあやあ、お困りのようだねえ、お嬢さんたち」
胡散臭い笑顔を浮かべたその男の胸元には、間違いなく『GGG』の金色のバッジが輝いていた。
突然の訪問者に、社長が血相を変えて立ち上がる。
「あ、あなたは……GGGの幹部……! なんでウチに……っ」
「君たちの抱えたその莫大な違約金……我々が綺麗にチャラにしてあげるよ。簡単な『ゲーム』に勝てば、審査員の証言も嘘だったと公表してあげようじゃないか」
男は社長を完全に無視し、ソファで身を寄せ合う私とサラに向かってそう言い放った。
「ゲーム……?」
「そう。麻雀だよ」
男の提案は、あまりにも唐突で、そして不気味だった。
「ルールは簡単。一局のみの勝負で、最終的に『最下位』だった者が、今この事務所が抱えている違約金と損害賠償をすべて被る。もし君たちのどちらかがトップになれば、借金はゼロ。審査員にも正式に謝罪会見を開かせよう」
甘すぎる条件だった。
どう考えても裏がある。
あの悪意に満ちた週刊誌の報道も、審査員の嘘の証言も、すべてはこの男――GGGが私たちをこの「ゲーム」に引きずり込むための布石だったのだ。
だけど、私たちに拒否権なんてなかった。
このままでは、私たちを妹のように可愛がってくれた社長が、一生かけても返しきれない借金を背負うことになる。
「……やるわ。私たちが勝てば、本当に全部無かったことにしてくれるのね」
「サラ!」
「ユラ、やるしかないわ。私たちがやらなきゃ、社長が……」
サラの悲痛な決意に、私はギュッと唇を噛み締め、深く頷いた。
こうして私たちは、社長を残し、GGGの幹部に連れられて、彼らが所有するという窓の無い地下施設へとやってきたのだ。
◆ ◆ ◆
タバコとカビの混ざったような淀んだ空気。
薄暗い部屋の中央には、冷たい光を放つ全自動麻雀卓がポツンと置かれていた。
そして、その卓の向かい側に座っていた対戦相手を見て、私たちは怒りで爪が食い込むほど拳を握りしめた。
「おっそーい。待ちくたびれたわよ」
「クスクス……まさか本当にノコノコやってくるなんてね。馬鹿な双子」
キララとシズクだった。
やっぱり、全部こいつらが仕組んだ罠だったんだ。
「あなたたち……っ! よくもあんな卑劣なマネを!」
「卑劣? 何のことかしら。私たちはただ、事務所の指示で麻雀を打ちに来ただけよ?」
ニヤニヤといけ好かない笑みを浮かべるキララ。
その横で、GGG幹部が冷酷な声で開始を告げた。
「では、これより特例の清算対局を始める。くどいようだが一局勝負。最下位がすべての負債を背負うデスゲームだ。……席順はすでに決めてある。親はサラ君、南家はユラ君。西家と北家にウチのタレントが入る」
言われるがまま、私たちは卓に着いた。
ゴロゴロと不気味な音を立てて牌が洗われ、卓上に四角い壁がせり上がってくる。
勝つ。
絶対に勝って、この理不尽な罠をぶち壊して、日常を取り戻してやる。
私は祈るような気持ちで、配られた13枚の牌を開いた。
――その瞬間、私の心臓は早鐘のように激しく鳴った。
(嘘……っ!? なに、これ……!)
私の手牌には、一、九、字牌が綺麗に1枚ずつ並んでいた。
『国士無双13面待ち』。
麻雀をやっている者なら誰もが一生に一度は夢見る、奇跡のダブル役満のテンパイが、最初から完成していたのだ。
チラッと隣を見ると、親であるサラも手牌を見て僅かに目を見開いていた。
サラの配牌も、どうやらものすごく良いらしい。
(もらった……! どんなイカサマを仕掛けてくるつもりか知らないけど、この配牌なら絶対に勝てる!)
この時の私は、これから自分たちが引きずり込まれる『フリテン地獄』の恐ろしさを、まだ何も分かっていなかった。




