第11話:絶対的な支配者
「イカサマを訴えるなら……その『現場』をおさえなさいよね」
私とサラが放った特大のブーメランが脳天に直撃し、キララとシズクは糸が切れた操り人形のように、その場に力なくへたり込んだ。
私のホンロートー・七対子(6400点)と、サラの親のダブル役満(9万6000点)。 合わせて10万2400点という致死量の直撃弾。
この一撃で、キララの点棒はマイナスへと深く沈み込み、文句なしの最下位が確定した。
「……っ、あ、あり得ない……。私たちが、負けるなんて……」
シズクが虚ろな目で宙を見つめながらブツブツと呟く。
しかし、隣に座っていたキララが、突然弾かれたように顔を上げ、血走った目で私たちを睨みつけた。
「ふ、ふざけるなっ! こんなの無効よ!」
バンッ! と卓を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、キララは甲高い声で喚き散らした。
「あんたたちみたいな底辺の小娘に、私たちが負けるわけないじゃない! だいたい、ここはGGGの息のかかった施設よ! なんだかんだ言ったって、ウチの事務所が私たちを守ってくれるんだからね!」
負けを認めず、自分たちの後ろ盾である巨大組織の威光を傘に着てキャンキャンと吠えるキララ。
その見苦しい姿に、私が呆れてため息をつこうとした、その時だった。
「――何を言っている」
冷たく、一切の感情が籠もっていない無機質な声が、地下室に響き渡った。
部屋の奥の暗がりから、GGGの幹部がゆっくりと歩み出てくる。
「か、幹部さん! こいつら絶対にイカサマをしたんです! 早くこいつらを――」
「先に約束しただろう」
すがりつこうとするキララの言葉を遮り、幹部は虫ケラを見るような目で二人を見下ろした。
「第二回戦の条件は、『最下位となったペアが、我がGGGの奴隷となり、一生かけて負債額を返済する』だ。……今回の件で発生した負債は、すべてお前達の借金だ。今後はずっと、GGGの奴隷として生きるがいい」
「…………え?」
キララの顔から、スッと血の気が引いていく。
シズクに至っては、ガチガチと歯の根を鳴らして震え始めていた。
「ま、待ってくださいよ……! 私たちはGGGの期待の新人なんですよ!? グランプリだって、こいつらが邪魔しなければ私たちが……っ。特別ボーナスをくれるって、さっき……!」
「黙れ。敗者に口出しする権利はない。役に立たない駒には、それ相応の使い道があるというだけのことだ」
幹部が指を鳴らすと、鉄の扉が開き、屈強な黒服の男たちが数人、無言で地下室に入ってきた。
そして、泣き叫ぶキララとシズクの両腕を強引に掴み、引きずり出そうとする。
「いやあああっ! 離して! 私たちは悪くない! こいつらが、この双子がイカサマを――!」
「幹部さん! お願い、助けて! 嫌ぁぁぁっ!!」
扉の向こうの、さらに深い闇へと引きずり込まれていく二人の断末魔のような叫び声が、冷たい地下室の壁に反響し、やがて完全に聞こえなくなった。
「……」
私達とサラは、あまりの展開の早さと冷酷さに、言葉を失っていた。
自分たちをハメた憎き仇とはいえ、同じ事務所のタレントをまるでゴミクズのように切り捨て、躊躇いなく奴隷として別の場所へ送り込んだのだ。
幹部は、キララたちが消えていった扉を一瞥することもなく、ゆっくりと私たちの方へ向き直った。
そして、薄気味悪い笑みを口元に浮かべた。
「サラ君、ユラ君。……素晴らしい戦いだった」
「っ……」
「約束は守ろう。君たちの事務所の借金はすべて帳消しだ。週刊誌の件も、審査員に真実を語らせ、君たちへの誤解もしっかり解くと約束しよう」
紳士的な口調。
しかし、その目の奥には一切の光がない。
私は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
隣にいるサラも、強く拳を握りしめて幹部を睨みつけている。
約束を守らせたと言えば、聞こえはいい。
しかし、この悪魔のような男は――GGGという巨大組織は、今回の件で『何もダメージを受けていない』のだ。
私たちを罠にハメておきながら、結果的に彼らは「莫大な借金を背負った都合のいい奴隷を2人」手に入れただけ。
最初から、私たちが勝とうが負けようが、彼らにとってはどちらでも良かったのだ。
この地下施設という蜘蛛の巣にかかった時点で、彼らは確実に獲物(奴隷)を食らうことができるのだから。
「では、地上へ案内しよう。……君たちの今後の活躍に、期待しているよ」
背を向けて歩き出す幹部の背中を見つめながら、私は底知れぬ巨大悪の不気味さに、ただ息を呑むことしかできなかった。




