第45話 四日
――今日は何日目だ。
明けの鐘の余韻が、まだ旅人用の家の中に残っていた。
エルディアスは寝台へ腰掛けたまま、隣で外套を手に取ったリュシアを見る。昨夜決めた通り、先に何も教えていない。
リュシアはわずかに首を傾げた。
――村へ着いた日を一日目にするのであれば、三日目です。
エルディアスは返事をせず、その答えだけを頭に置いた。
昨日の朝。
同じ問いに、リュシアは二日目だと答えた。
――昨日は何をした。
――朝に入口を確認しました。村の方は普通に通れましたが、私たちは出られませんでした。その後、村長さんが連れてきた三人の方から、昔この村へ来た旅人について話を聞いています。
――三人は。
――杖をついた痩せた方と、小柄な女性、それから大柄な男性です。
迷いはない。
――その後は。
――岩壁を調べました。途中でクラリスさんが、手を切った方を治療しています。昼前には、私は先ほどの女性に頼まれて食事作りを手伝いました。セルマさんは竈を見ていました。
――何を作った。
――煮た豆と野菜です。私は材料を切ったり、鍋を混ぜたりしただけですが。
エルディアスの記憶と一致している。
赤い仮面が正面を向いていた日の出来事だった。
――セルマの竈は。
――奥に灰が溜まりすぎていたそうです。掻き出したら普通に燃えるようになったと聞きました。
――午後は。
――村の中を見て回りました。井戸や家畜小屋、畑、それから岩壁沿いです。夕方にもう一度入口へ行きましたが、出ることはできませんでした。
朝から夕方まで、一日の流れが繋がっている。
昨夜のリュシアには存在していなかった一日だった。
エルディアスは次の確認へ移った。
――子供の頃、枝を削って木剣を作ったことがあるな。
リュシアの手が止まった。
ゆっくりと、エルディアスを見る。
――……なぜ、それを知っているのですか。
――何度か振って、折れた。家の裏の大きな木の根元に埋めた。
リュシアは何も言わなかった。
家の中では、ほかの五人も起き始めている。ラウルが剣帯を締め、ガルムは大盾の革帯を確かめていた。セルマとクラリスは朝食に使う袋を開き、ニルスは寝台の脇に置いていた記録板を取っている。
その中で、二人だけの会話が続く。
――父にも母にも話していません。
――それも聞いた。
――誰からですか。
――お前だ。
リュシアの眉がわずかに寄った。
――私は、エルに話した覚えがありません。
――昨夜のお前から聞いた。
今度は、返事がしばらくなかった。
――昨夜、私はエルと二人で話したのですか。
――ああ。
――何を話しましたか。
――まず、今日と同じことを聞いた。何日目だと思ってるか。
――私は何と?
――二日目。
リュシアの視線がわずかに動いた。
――今の私とは違いますね。
――昨夜のお前は、昨日この村へ着いたと思ってた。
――では、今の私が昨日として覚えている一日は。
――なかった。老人三人も、料理も、竈も、クラリスが治療した男も覚えてなかった。
リュシアは自分の記憶を確かめるように黙り込んだ。
やがて、念話が返る。
――だから、昨夜の私は木剣の話をしたのですね。
――今日のお前が、俺の話を最初から否定しないようにな。
――分かりました。
エルディアスはそこで終わらせず、昨夜話したことを必要な分だけ伝えた。
受付の少女に、以前は叔母が受付をしていたと聞いた日がある。その叔母の家へ行く途中で山羊が逃げ、腐った柵の柱をガルムたちと直した。三神の昔話に詳しい老人にも会った。
その次の日には、同じ叔母と老人へもう一度会った。だが、向こうは前の日に七人と会った様子を見せず、リュシアも《暁星》の五人も、その前日のことを覚えていなかった。
――その二日を、今のお前は。
――覚えていません。
リュシアの答えは早かった。
――叔母さんに会ったことも、山羊を戻したことも、そのお爺さんから昔話を聞いたこともありません。
――昨夜のお前も同じだった。
――ですが、今の私には、その前に昨日があります。
――ああ。
老人三人から話を聞いた。
クラリスが男の手を治した。
リュシアが料理を手伝い、セルマが竈の灰を掻き出した。
昨日までとは、そこが違う。
「朝飯の前に入口を見てくる」
ラウルの声がして、エルディアスは顔を上げた。
ラウルは剣を腰へ下げている。
「朝になって変わったかだけ確かめたい。ガルム、来るか?」
「ああ」
ガルムも大盾を持ち上げる。
「俺も行こうか?」
ニルスが尋ねると、ラウルは首を横へ振った。
「二人でいい。昨日は全員で見てる。変わってたら戻って呼ぶ」
「なら記録は帰ってから聞く」
「ああ」
「朝食ができる前には戻ってきてよ」
セルマが鍋を出しながら言った。
「入口で何度押しても変わらないんでしょう?」
「押してない。通れるか確かめてるだけだ」
「身体を前に倒してたじゃない」
「確かめるためだ」
「それを押してるって言うんじゃないの?」
「言わん」
「ガルムはどう思う?」
「どっちでもいい。行くぞ」
「逃げたわね」
「朝から付き合いきれん」
ラウルが笑い、ガルムとともに家を出ていく。
エルディアスは閉じた扉をしばらく見ていた。
目の前にいたラウルは、昨日から何事もなかったように続いている。
だが、それは赤い仮面が正面を向く日のラウルだった。
青い仮面の日。
三神像について老人から聞いた後、ラウルは夜に一人で広場へ出た。
エルディアスは、戻ったところを見ていない。
昨夜気づいたことは、朝になっても変わっていなかった。
――ラウルさんですか。
リュシアの声が届く。
エルディアスは扉から目を離した。
――今はいい。
――分かりました。
◇
ラウルとガルムは、朝食ができるより先に戻ってきた。
「変化なしだ」
ラウルが扉を閉める。
「俺は昨日と同じ場所で止まった。村の男が一人、普通に森へ出ていった」
「なら記録は昨日の続きでいいな」
ニルスが板へ書き込む。
「夜を越えても通行不可。村人は通行可能」
「毎朝見るのは続ける。ただ、全員で行く必要はないな」
ラウルは席につき、リュシアから器を受け取った。
「今日は昨日聞けなかったところを続ける。まず受付だ。あの子自身が昔の旅人をどこまで覚えているか確認したい。観測者についても、もう一度聞く」
「三神様は?」
セルマがすぐに尋ねる。
「忘れてない。受付で昔のことを知ってる人間が他にいないか聞いてからだ」
「昨日は時間があればって言ったでしょう?」
「今日は行くつもりだ」
「ならいいわ」
「お前は朝からそればかりだな」
「昨日聞けなかったからでしょう?」
「分かったから飯を食え」
セルマは何か言い返しかけたが、器を見て先に口をつけた。
昨日。
ラウルもセルマも、その言葉を当たり前に使っている。
クラリスも、昨日治療した男についてリュシアから尋ねられると、傷の場所と深さをすぐに答えた。ニルスの記録板にも、老人三人から聞いた内容が昨日の記録として残っている。
リュシアだけではない。
この五人も、赤い日の続きを生きている。
「俺とリュシアは別で動く」
ラウルが食事の手を止めた。
「何か見るのか?」
「昨日、村でやったことが今日どうなってるか見たい。料理と竈、それからクラリスが治した男だ」
「役目をこなした結果か」
「ああ。役目をやれば出られるって線は薄い。それでも、何か残ってるかは見ておきたい」
「それなら分けた方が早いな」
ラウルはすぐに頷いた。
「俺たちは受付へ行く。前の受付をしてた人間まで辿れそうなら、そっちも当たる。昼にここへ戻って合わせよう」
「ああ」
「二人だけで入口を壊したりしないでよ」
セルマが言う。
「何で俺たちが入口を壊すんだ」
「エルは岩壁を調べる時に壊す話をしてたでしょう?」
「壊さなかった」
「ラウルに止められたからね」
「必要がなかったからだ」
「同じことよ」
「違う」
リュシアが二人を見る。
「今日は竈と治療した方の確認です。岩壁を壊す予定はありません」
「リュシアがそう言うなら大丈夫そうね」
「俺の答えと同じだろ」
「信用の差よ」
「その話はもういい」
ラウルが苦笑した。
「昼に戻れ。それでいい」
◇
五人と別れ、エルディアスとリュシアは広場の反対側へ向かった。
三神像の前を通る。
正面を向いているのは赤い仮面だった。
エルディアスは足を止めずに念話を送る。
――昨日も赤だったか。
――はい。
リュシアは像へ一度目を向けた。
――少なくとも、向きが変わったとは思っていません。
それも予想していた答えだった。
エルディアスには、黄色、赤、青、黄色、赤と変わって見えている。
リュシアには、その変化自体が残っていない。
――まず婆さんのところだ。
――はい。場所は覚えています。
リュシアが迷わず先へ進んだ。
◇
小柄な老女の家まで、リュシアは一度も立ち止まらなかった。
広場を抜け、道を曲がり、広い軒下に薪が積まれた家へ向かう。昨日来た場所として、道順を覚えている。
「ここです」
「ああ」
戸を叩くと、中から声が返った。
「開いてるよ」
リュシアが扉を開ける。
老女は卓の前に座り、豆の莢を外していた。二人を見ると、すぐに笑う。
「あら。昨日の料理人さんじゃないか。今日は竈の子はいないのかい?」
「セルマさんは、ほかの方と調べ物をしています。昨日の竈がどうなったか気にしていました」
「ああ、よく燃えてるよ。朝から使ったけど、昨日までとは全然違うね」
「また火の回りが悪くなったりはしていませんか?」
「してないよ。あの子が言った通り、灰を溜めすぎてたんだね。毎日使ってたから、少しずつ悪くなってるのに気づかなかったんだ」
「分かりました。伝えておきます」
「今日は手伝っていかないのかい?」
「今日は別のことを調べています」
「昨日は助かったのにねえ。あんた、野菜をずいぶん綺麗に揃えて切るから、ほかの連中が感心してたよ」
「大きさが違えば、火の通り方も変わりますから」
「昨日も同じことを言ってたね」
老女が笑った。
リュシアはその会話自体を覚えているらしく、少しだけ困ったような顔をした。
エルディアスは二人のやり取りを聞いてから口を開く。
「一つ聞いていいか」
「何だい?」
「俺たちが村へ来たのは、いつだと思ってる」
老女が豆を持ったまま眉を寄せる。
「一昨日だろう?」
「昨日じゃなく?」
「昨日はあんたたちのところへ呼ばれて、昔の旅人の話をしたじゃないか。その前の日に来たんだろう。何を聞いてるんだい?」
「少し確認したかっただけだ」
「自分たちが来た日まで分からなくなったのかい?」
「そういうわけじゃない」
「ならいいけどね。出られないのが続いてるからって、あんまり考え込みすぎるんじゃないよ」
「ああ」
エルディアスはそれ以上聞かなかった。
家を出てから、リュシアが念話を送る。
――私と同じです。
――ああ。
――あの方にとっても、昨日は昨日なのですね。
――竈も直ったままだ。
記憶だけではない。
セルマが昨日掻き出した灰は戻っていない。その結果として、竈は今日も普通に燃えている。
――次だ。
――クラリスさんが治療した方ですね。
――覚えてるか。
――はい。こちらです。
今度も、案内を頼む必要はなかった。
◇
男は家の前で薪を積み直していた。
昨日は右手へ布を巻いて座っていたが、今日は包帯が薄くなっている。斧は壁際へ置かれたままだった。
二人に気づくと、男が左手を上げる。
「昨日の冒険者か。治療の人は一緒じゃないのか?」
「今日は別で動いてる」
「そうか。昨日は助かったって伝えてくれ」
「手を見せてもらえますか?」
リュシアが言う。
「手?」
「昨日、クラリスさんが治療した傷です」
「ああ。これか」
男が右手を見せた。
掌の端には、まだ細い傷が残っていた。昨日ほど開いてはいないが、完全に消えているわけでもない。
「痛みは?」
「ほとんどないよ。ただ、今日は斧を持つなって言われてる」
男が壁際の斧へ目を向ける。
「クラリスさんにですか?」
「それもある」
家の中から女の声が飛んできた。
「それもじゃないでしょう! 昨日、今日くらいは休めって言われたでしょう!」
「分かってるよ!」
「分かってるなら斧の方を見ない!」
男は顔をしかめ、エルディアスたちを見る。
「朝からこれだ」
「守っているなら問題ありません」
リュシアが答える。
「クラリスさんも安心すると思います」
「昨日も似たようなこと言われたな」
「私もその場にいましたから」
「そうだったな」
男は当然のように答えた。
昨日できた傷がある。
昨日受けた治療が残っている。
昨日言われた注意も、男と家族の記憶に残っている。
二人は礼を告げ、家を離れた。
◇
広場へ戻る途中、エルディアスは歩調を落とした。
リュシアも隣へ合わせる。
――赤は続いてる。
――はい。
今度の返事には迷いがなかった。
――私たちだけではありません。村の方も昨日のことを覚えています。竈も、傷も、その続きです。
――間にあった二日はない。
――少なくとも、今の私にはありません。
エルディアスにはある。
赤い仮面の次に青が正面を向いた一日。
その次に黄色が正面を向いた一日。
今のリュシアにも、今朝まで一緒にいた《暁星》にも、その二日はない。
そして今日の赤は、前の赤からそのまま続いている。
単に六人が何日かを忘れているだけでは、竈や傷まで説明しにくくなった。
――色ごとに、別の続きがある。
リュシアはすぐには同意しなかった。
――赤については、そう考えるのが自然だと思います。
――青と黄色はまだ確認してない。
――はい。エルが覚えていることは確かめられましたが、それぞれが次の日へ続くところまでは見ていません。
その通りだった。
赤については、今確かめた。
なら。
エルディアスの頭に、昨夜から残っていたものが戻ってくる。
青い日のラウル。
三神像へ剣を振り下ろした旅人の話を聞き、像には傷一つ残らず、剣の刃だけが欠けたと知った。
セルマが、斧でも傷を付けられなかった第二層の塔の外壁に似ていると言った。
ラウルは、その場では似ているとは限らないと答えた。
それでも夜になって、一人で広場へ出ていった。
エルディアスは、戻ったところを見ていない。
――エル。
リュシアの声で、思考が途切れた。
――何だ。
――先ほどから黙っていました。
エルディアスは少し考えた。
今のリュシアに、どこまで話すべきか。
青の日そのものを覚えていない以上、あの夜のラウルについて話しても、確かめられることはない。
――青の日に、少し気になることがある。
――ラウルさんですか。
朝の様子を見ていたのだろう。
――ああ。
――今は確認できないのですね。
――今いるのは、赤のラウルだ。
リュシアは少し間を置いた。
――赤が前の赤から続いているのであれば、青も前の青から続く可能性があります。
――そういうことだ。
それ以上は話さなかった。
◇
昼前に旅人用の家へ戻ると、ラウルたちはまだ帰っていなかった。
エルディアスは卓へ紙を一枚置いた。
黄色。
赤。
青。
黄色。
赤。
これまで自分に見えた三神像の向きを順に書く。
その下へ、今朝のリュシアが覚えていた日を置いた。
入村。
赤。
赤。
「最初の赤が昨日で、今日がその次ですね」
向かいに座ったリュシアが紙を見る。
「ああ」
「昨夜の私は?」
「入村と、黄色の昨日だけだった」
「その前の青も覚えていなかったのですね」
「ああ」
リュシアは紙を見たまま考えた。
「こうして見ると、同じ色の間に別の日が入っているのに、私には入っていないことになりますね」
「赤だけならな」
「明日が青で、青だった前の日の続きを覚えていれば、もう一つ確認できます」
「ああ」
エルディアスは紙を折った。
扉が開く。
「戻ってたか」
ラウルが入ってきた。ニルス、セルマ、ガルム、クラリスも後へ続く。
ラウルはいつもと変わらない。受付で聞いた内容についてニルスと話しながら、午後にどこを当たるかを決めている。
エルディアスはその姿を一度だけ見た。
今ここにいるラウルが無事でいることは、青い夜のラウルが戻った証拠にはならない。
「そっちは?」
ラウルに尋ねられ、エルディアスは視線を戻した。
「昨日やったことは残ってた。竈は朝から普通に使えてる。クラリスが治した男も、傷は閉じたままだ」
「薪は割ってませんでしたか?」
クラリスが先に尋ねる。
「割ってない。斧は置いてあった」
「それならよかったです。治癒術を使っていても、翌日に同じ場所を開けば治りが遅くなりますから」
「奥さんにも止められていました」
リュシアが付け加える。
「それなら私より確実ですね」
クラリスは少し安心したようだった。
「竈は本当に直ってた?」
セルマが身を乗り出す。
「ああ」
「朝から使っても?」
「問題ないそうです」
リュシアが答える。
「灰を取り除いてから、火の回りも戻ったままだと話していました」
「なら、やっぱりそこだったのね」
セルマは満足そうに頷いた。
「私たちの方も少し増えたぞ」
ラウルが椅子へ座る。
「受付の子がやってる五年の間では、観測者はエルが初めてらしい。前に受付をしていた叔母にも会ったが、そっちも心当たりなしだ」
エルディアスは黙って聞いた。
一度聞いた答えだった。
青い日に。
「昔、七人より多い旅人が来たこともあるらしい」
ニルスが記録板を開く。
「正確な人数は分からないが、十人近かった可能性がある。何日か泊まって、普通に帰ってる」
「なら、七人だから閉じたって線はさらに薄いわね」
セルマが言う。
「消してはいない」
ラウルが答えた。
「昔の人数が正確じゃないからな。ただ、人数だけを見る意味はかなり薄くなった」
「三神様の方は?」
リュシアが尋ねる。
「午後だな」
セルマが先に答えた。
「昔話に詳しいお爺さんを教えてもらったんだけど、叔母さんのところで思ったより話が長くなったのよ」
「お前が質問を増やしたからだろ」
ニルスが言う。
「必要なことを聞いただけでしょう?」
「途中から昔の旅人が何を食べてたかまで聞いてたぞ」
「何日泊まったか確認するなら、村で生活してたかも大事でしょう?」
「食事の中身まではいらん」
「分からないじゃない」
「少なくとも今はいらん」
「ラウルは?」
「ニルスに同意する」
「二対一ね」
「人数で決める話じゃないでしょう」
クラリスが静かに言う。
「クラリスはどっち?」
「ニルスです」
「三対一になったわ」
「だから人数で決めるな」
ガルムが低く笑った。
会話を聞きながら、エルディアスは折った紙へ手を置いた。
青の日に聞いた話を、このラウルたちはまだ聞いていない。
その違いも、今は口にしなかった。
「何だ?」
ラウルがこちらを見る。
「いや」
「朝から妙だな」
「考えてるだけだ」
「何か分かったか?」
「少しな。まだ確かめたい」
ラウルはしばらくエルディアスを見る。
「危険に関わることか?」
エルディアスの脳裏に、夜の広場へ向かった青い日のラウルが浮かんだ。
「まだ分からん」
「分かった時点で言え」
「ああ」
ラウルはそれ以上追及しなかった。
◇
午後、ラウルたちは三神の昔話を知る老人の家へ向かった。
エルディアスとリュシアは再び別れ、午前中に確認できなかった村人へ話を聞いた。昨日、七人が岩壁沿いを歩いていたことを覚えている者。夕方に入口へ向かう七人を見た者。誰に尋ねても、昨日の出来事として話が繋がっていた。
日が傾く頃、七人は旅人用の家へ戻った。
新しく分かったことは多くない。
それでもエルディアスにとっては十分だった。
赤い日の中では、昨日から今日へ時間が進んでいる。
人の記憶だけではない。竈も傷も、昨日行ったことの結果を残したまま続いていた。
夕食を終え、今日の記録を合わせる。
入口は変化なし。
観測者について過去の例は見つからない。
人数だけが原因である可能性はさらに下がった。
三神についてもいくつか昔話を聞いたが、今すぐ出口へ繋がるようなものはなかった。
話を終える頃には、外は暗くなっていた。
「明日の朝も入口は見る」
ラウルが言った。
「俺とガルムでいい。全員起きる必要はない」
「私は起きてたら行くわ」
セルマが答える。
「寝てろ」
「どうしてよ」
「二人で足りると言っただろ」
「見たいだけよ」
「結果は戻ってから話す」
「それじゃ今日と同じじゃない」
「今日もそれで困ってない」
「私は少し困る」
「何にだ」
「自分で見てないところ」
「なら早く起きろ」
「起きたら行っていいの?」
「勝手に付いてくるんだろ」
「分かってるじゃない」
ラウルが呆れたように息を吐いた。
やがて灯りが落とされ、家の中が静かになる。
エルディアスはすぐには眠らなかった。
赤い日。
前の赤から、確かに続いていた。
なら、次がこれまでと同じ順番なら青になる。
その時のリュシアが何日目と答えるのか。何を昨日として覚えているのか。
それだけではない。
青い日の夜、ラウルは三神像を気にして一人で広場へ出ていった。
エルディアスは、その後ラウルが戻ったところを見ていない。
黄色の日にも、今日の赤にもラウルはいた。
だが、それは青の夜の答えにはならない。
明日が前の青から続いているのなら。
ラウルがあの夜の後、どうなったのか。
それも確かめられる。
エルディアスは目を閉じた。




