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第40話 閉鎖

 村長の家へ戻るまでの間も、村では何も騒ぎになっていなかった。


 畑では男が土を返し、家の前では女が洗った布を取り込んでいる。道を横切った子供たちは、戻ってきた七人を珍しそうに見ただけで、そのまま走り去った。


 つい先ほどまで、自分たちも同じ景色を何の疑いもなく見ていた。


 村長はまだ家の脇にいた。軒下に吊るした豆の束を籠へ移していた手を止め、七人を見る。


「どうした。もう帰ったと思っていたが」


「帰れなかった」


 ラウルが答えた。


 村長の眉が寄った。


「何かあったのか?」


「村から出られない」


「……出られない?」


「ああ。入口まで戻った。道も森もそのままだ。だが、俺たちが通ろうとすると、何もないところで止まる」


「道が塞がったのか?」


「何もありません」


 リュシアが続けた。


「杖や剣、矢は向こう側へ通りました。魔法も境を越えています。ですが、私たち自身だけが先へ進めません。七人全員で確認しました」


 村長は返事をしなかった。


 ラウルからリュシアへ、さらに残る五人へと視線を移す。冗談を言っている者がいないことを確かめているようだった。


「待ってくれ。あそこは普通の道だぞ」


「ああ」


「今朝も村の者が森へ出てる。昨日来ていた旅人だって、朝には帰ったはずだ」


「だから確かめたい」


 エルディアスが言った。


「今も村の人間なら通れるのか」


 村長はしばらく入口のある方角を見ていた。


「……俺が行けばいいのか?」


「ああ」


「分かった。見せてくれ」


 籠を軒下へ戻し、家の中へ一声掛ける。


 七人は村長とともに、再び来た道を引き返した。


 受付の前を通ると、少女が足音へ顔を向けた。


「村長さんも一緒なのですか?」


「ああ。入口を見てくる」


「先ほどのお話ですね」


「聞いたのか?」


「はい。皆さんが村から出られないと」


 村長の足が一瞬止まった。


「……本当なら、ずいぶん妙な話だな」


「俺たちもそう思ってる」


 ラウルが答え、先へ進む。


 鐘楼を過ぎると、岩壁の切れ目が見えた。


 そこには先ほどと変わらず森がある。踏み固められた道も続いており、その少し先にはニルスが投げた矢が落ちたままになっていた。


「ここだ」


 ラウルが言った。


 村長は切れ目へ近づいた。


「何もないぞ」


「俺たちにも見えない」


「……行ってみる」


 村長は慎重に一歩を踏み出した。


 何も起きなかった。


 二歩、三歩と進み、そのまま森側へ出る。


 七人の間から声が消えた。


 村長は道の上まで進んでから振り返った。


「出られるぞ」


「ああ。見えてる」


「戻ればいいのか?」


「頼む」


 村長は同じ場所を通って戻ってきた。


 歩調に変化はない。何かに触れた様子もなかった。


「本当に、ここなのか?」


「見せた方が早い」


 ラウルが村長と入れ替わる。


 同じ位置まで進み、さらに一歩を出そうとした。


 身体が止まった。


 村長の顔から、残っていた疑いが消えた。


「……何だ、それは」


「分からん」


「力を入れてるのか?」


「ああ」


 ラウルが身体を前へ傾ける。それでも足は進まない。


 村長は横から境界を見た。地面へしゃがみ込み、足元まで確かめたが、当然そこにも何もない。


「ちょっと待ってろ」


 立ち上がると、鐘楼へ顔を向けた。


 先ほど七人を村へ案内した男が、壁際で縄をまとめている。


「おい。少し来てくれ」


「何だ?」


「森へ出てみてくれ」


 男は怪訝そうに眉を上げた。


「今から?」


「ああ。すぐ戻ってきていい」


「何なんだよ」


「いいから頼む」


 村長の声に押され、男は縄を置いて歩いてきた。


 七人を一度見てから、そのまま岩壁の切れ目へ入る。


 何も起きない。


 村長と同じように森側へ出た。


「ここまででいいのか?」


「ああ。戻ってくれ」


 男が戻ってくる。


「だから、何をしてるんだ?」


 村長はすぐには答えなかった。


 男が通った場所と、まだ境界の前に立つラウルを見比べる。


「この人たちだけ、ここから出られんらしい」


「は?」


「俺も今見た」


 男の顔からも笑みが消えた。


「そんなことあるのか?」


「だから分からんと言ってる」


 村長はもう一度境界へ手を伸ばした。何もない空間を左右へ探るように動かし、そのまま森側へ出す。


「何もない」


「ああ」


 ラウルが境界から下がった。


「それなのに、あんたらは通れないのか」


「七人ともだ」


 村長は森へ続く道を見たまま黙り込んだ。


 風が岩壁の間を抜ける。森側から流れてきた枯れ葉が、何にも遮られず村の中へ転がってきた。


 その一枚を、村長は目で追った。


「……気味が悪いな」


 小さな声だった。


 誰も否定しなかった。


「こんなことは今までなかった。少なくとも俺は聞いたことがない。旅人が帰れなくなったなんて話もない」


「今日、村から外へ出た人はいるのですか?」


 クラリスが尋ねる。


「いる。薪を採りに出た者もいるし、猟へ行ったのもいる。もう戻ってきた奴もいるはずだ」


「何か変わったことを言っていた者は?」


「聞いてない」


 村長は鐘楼の男を見る。


「お前は朝からここにいただろう。何かあったか?」


「何もないぞ。何人か普通に通ってる。鐘を鳴らした時もいつも通りだった」


「そうか……」


 答えを聞いても、村長の表情は晴れなかった。


 むしろ、自分たちだけが通れると分かったことで、余計に分からなくなったようだった。


「……あんたら、村へ入ってから何かあったか?」


「何もない」


 ラウルが答える。


「受付をして、広場を通って、あんたと話した。それだけだ」


「具合が悪くなった奴は?」


「いません」


 クラリスが七人を見回す。


「少なくとも、身体に異常がある方はいません。私自身にもありません」


「そうか」


 村長は額を擦った。


「朝から、いつもと違うことなんて何もなかったはずなんだがな……」


 口にしてから、自分でも確信が持てなくなったように村の方を見た。


「年寄り連中にも聞いてみる。俺が知らんだけで、昔に似たことがあったかもしれん」


「頼めるか」


 ラウルが言う。


「頼まれなくても聞く」


 村長はすぐに返した。


「村の入口でこんなことが起きてるんだ。あんたらだけ出られませんでした、で済ませられる話じゃない」


 鐘楼の男も頷いた。


「俺も今日ここを通った連中に聞いてみるよ。何か妙な感じがしなかったかくらいは分かるだろ」


「助かる」


 ラウルが答える。


 村長はもう一度森を見た後、七人へ顔を向けた。


「それで、あんたらはどうする?」


「まだ決めてない」


「森へ戻れんのだろ」


「今のところはな」


「なら、さっき話した旅人用の家を使え」


 村長は村の方を指した。


「入口の近くだ。七人だと狭いかもしれんが、森で寝るよりはましだろう。何が起きてるか分かるまでは、そこにいてくれ」


「宿代は払う」


 ラウルが言うと、村長は一瞬だけ呆れた顔をした。


「今その話をするのか?」


「泊まるなら払う」


「……分かった。そこは後でいい」


 村長はまだ納得できない様子で境界を振り返った。


「俺は何人かに話を聞いてくる。何か分かったら知らせる」


「ああ」


 村長と鐘楼の男が村へ戻っていく。


 二人が受付の向こうへ消えてから、セルマが森へ顔を向けた。


「ねえ」


 声から、いつもの軽さが消えていた。


「これ、石碑のルールみたいなものじゃないの?」


 エルディアスは境界を見たまま答えた。


「似てはいる」


「やっぱりそう思う?」


「ああ」


 ニルスも記録板を開いた。


「村の人間は通る。物や術式も通る。俺たちだけが通れない。何かの条件で対象を選んでるなら、確かにルールに近い」


「本人がどうしようとしても、結果そのものが成立しないという点も似ています」


 クラリスが言う。


「先ほど押していたラウルさんを見ても、何かに遮られているというより、外へ進むことだけを止められているように見えました」


「でも、ルールだと決めるには足りない」


 ラウルが言った。


「そうだな」


 エルディアスも同意する。


「似てるだけだ」


「なら、どうするの?」


 セルマが尋ねる。


「力ずくはやめる」


 ラウルは即答した。


「もしルールに近いものなら、岩を壊そうが術式を撃とうが意味がない。違ったとしても、何が起きているか分からない状態で強い術式を使う理由はない」


「それは私も賛成よ」


 セルマは杖を肩へ戻した。


「何も分からないものへ火を撃つほど無茶じゃないわ」


 ガルムがセルマを見る。


「塔では壁を温めようとしてたな」


「燃やそうとはしてないでしょう?」


「今はその話じゃない」


 ラウルが止める。


「分かってることだけ残すぞ。俺たち七人は出られない。村の人間は出入りできる。物と術式は通る。入ってきた時には止められなかった」


「入った後に変わったのか、最初から入ることだけはできたのかは不明」


 ニルスが書き込む。


「過去の旅人には、少なくとも村長が知る限り同じことは起きていない」


「俺たちと以前の旅人の違いを調べるしかないな」


 ガルムが言った。


「まず人数か」


 ラウルが答える。


「七人で来たことを、最初から珍しがられていた」


「受付も気にはなるわね」


 セルマが言った。


「役目を見てもらった後に出ようとしたのは事実でしょう?」


「過去の旅人も受付はしてる」


 ニルスが返す。


「だから受付そのものが原因とは言えない。ただ、人数も役目も過去と同じだったかは分からない」


「観測者も記録はしておきますか?」


 リュシアが尋ねた。


「初めて出た役目だと言われた。それは残す」


 エルディアスが答える。


「原因とは書くな」


「ああ」


 ニルスは短く書き加えた。


「違う点の一つ。それだけだ」


「今ここで考えても、それ以上は増えないな」


 ガルムが境界から離れた。


「村長が何を聞いてくるか待った方がいい」


「そうする」


 ラウルも森へ背を向けた。


「今日は予定外に野営した翌日だ。村まで来て、そのまま帰るつもりで歩いてた。まず荷物を下ろすぞ」


「岩壁の方は?」


 セルマが尋ねる。


「村長から崩れやすいと聞いてる。何も分からないうちに登る必要はない」


「それもそうね」


「明日になっても出られなければ、その時に調べ方を決める」


 七人は再び村へ向かった。


     ◇


 旅人用の家は、受付から少し村側へ入った場所にあった。


 平屋の簡素な建物で、大きな一室の壁際に低い寝台が並び、奥には小さな竈と水桶が置かれている。七人分の荷物を置いても歩く余地は残るが、長く暮らすための場所ではなさそうだった。


 鍵を持ってきた村長は、扉を開けると中を一度確かめた。


「しばらく使ってなかったから、少し埃があるかもしれん。水は井戸から好きに汲んでいい。食べ物が必要なら広場か俺の家で聞いてくれ」


「助かる」


 ラウルが答える。


「昔の話は?」


「まだ二人に聞いただけだ。どっちも、旅人が帰れなくなったなんて話は知らんと言ってた。もう少し当たってみる」


「頼む」


「ああ」


 村長は扉のところで一度振り返った。


「何か分かったら、こっちにも教えてくれ。俺たちの村で起きてることだからな」


「分かった」


 村長が出ていき、扉が閉じる。


 七人はようやく装備を下ろした。


 ガルムは大盾を壁際へ立て掛け、ニルスは記録板を卓上へ置く。クラリスも治療鞄を下ろし、肩をゆっくり回した。


「すぐに答えが出る状況ではありませんね」


 クラリスが言った。


「入口でもう一度同じことを試しても、増える情報は少ないと思います。昨夜は森で野営していますし、今日は朝から歩き続けています。一度休んだ方がよいでしょう」


「俺もそう思う」


 ラウルは剣を外し、卓の脇へ立て掛けた。


「村長が聞き回ってくれてる間に、こっちは持ってるものを確認する。出られない以上、帰路の分まで全部使っていいとは限らない」


 その言葉で、七人はそれぞれの荷物を開いた。


 ニルスは縄と塗料、残った杭の数を確かめる。クラリスは治療薬と包帯を並べ、ガルムとラウルは武具に新しい損傷がないかを見る。


 リュシアは背負い袋から食料を出し、一つずつ卓の端へ並べた。


「今日の分は問題ありません。明日も、すぐに不足することはないと思います」


「その先は?」


 ラウルが尋ねる。


「帰路で使う予定だった分と予備があります。ただ、いつ出られるか分からない以上、最初から使い切るべきではありません。村で買える食料があるなら、そちらも使った方がよいと思います」


「水は井戸から貰えるそうです」


 クラリスが水筒の残りを確認する。


「それだけでも随分違いますね」


「村で食べ物を買えるなら、野営よりは困らないな」


 ガルムが言った。


「でも、ずっとここにいる前提で考えるのも嫌ね」


 セルマは小さな竈の前へしゃがみ込んだ。


「明日には普通に出られるかもしれないでしょう?」


「理由もなく戻るとは思わんが、可能性はある」


 ニルスが答える。


「だから今日のうちから十日先を考える必要もない。何日分あるか分かってれば十分だ」


「なら、今日は持ってきたものを食べる?」


「昼はそれでいいと思います」


 リュシアが保存食を分ける。


「少し休んでから、村で何が買えるのか確認しましょう。長引くようであれば、その時に考えればよいでしょうから」


「料理人がそう言うなら任せるわ」


 セルマが言う。


「役目とは関係ありません」


「でも、料理人でしょう?」


「役目がなくても食料の残りくらいは確認します」


「それはそうね」


「セルマは竈だろ」


 ガルムが言った。


「じゃあ火を付ける役は私ね」


「燃やすなよ」


 エルディアスが言う。


 セルマが振り返った。


「ここ、竈よ?」


「だから中だけ燃やせ」


「分かってるわよ。森で一晩過ごして、村から出られなくなって、それでもまだそこを疑われるのね」


「関係ないだろ」


「少しくらい信用が増えてもいいと思うの」


「野営地は燃やさなかった」


「でしょう?」


「一回増えた」


「一回だけ?」


 ガルムが低く笑った。


「積み重ねなんだろ」


「それ、エルの味方をしてるようで何も褒めてないわよ」


 セルマは不満そうにしながらも竈へ向き直った。


 簡単な食事を済ませ、しばらく身体を休めた。


 森で眠った昨夜とは違い、背中に根が当たることも、水音を聞きながら横になる必要もない。それでも、誰も完全に気を抜いてはいなかった。武器は手の届くところへ置かれ、窓の外で人影が動くたびに一度は視線が向く。


 日が少し傾いた頃、七人は再び卓を囲んだ。


 ニルスが入口で書いた記録を中央へ置く。


「改めて見るぞ」


 ラウルが言った。


「ルールの可能性は残す。ただし、ルールだと決めて動かない」


「似た強制が働いていると考えて、慎重に扱うということですね」


 クラリスが確認する。


「ああ。力で破ろうとするのはなしだ」


「賛成」


 セルマが答えた。


「原因を探すなら、以前の旅人との違いか」


 ガルムが言う。


「それが一番調べやすい」


 ニルスは紙へ項目を書き始めた。


「来た人数。どんな役目が出たか。何日くらい滞在したか。帰る時に何か変わったことがなかったか」


「役目は、村の人にもあるのでしょうか」


 リュシアが尋ねた。


「それも聞いてみるか」


 ラウルが答える。


「受付の子は旅人へ役目を見ていたが、村人についてはまだ何も聞いてない」


「過去に観測者が出たことがないというのは、もう確認できています」


 クラリスが言う。


「それ以上は、今のところ何もありませんね」


「なら、それでいい」


 エルディアスが答えた。


「一つだけ変わってるからって、そこへ全部寄せるな」


「分かっています」


 リュシアが頷く。


「今は、違いの一つとして覚えておくだけですね」


「ああ」


「七人という人数も同じだ」


 ラウルが続ける。


「珍しいとは言われたが、何人から何が変わるのかなんて分からない。明日、過去に多人数で来た例があるか聞く」


「受付の前後で何か変わったかも、今は確かめようがないな」


 ニルスが言った。


「戻ってやり直せないからな」


「なら、今日はそこまでかしら」


 セルマが椅子の背へ寄りかかった。


「考えれば何か出てくる気がするのに、考える材料がないのって嫌ね」


「だから明日増やす」


 ラウルは卓上の紙をまとめた。


「村の人間から聞けることを聞く。出口ももう一度確認する。それから次を決める」


「今日はもう外へ出ないのですか?」


 クラリスが尋ねる。


「村の中を少し見るくらいなら構わん。ただ、調査のつもりで家々を覗いて回るのはやめる。俺たちはここじゃ客だ」


「なら、食料を買いに行くついでに、広場くらいは見られるわね」


 セルマが言う。


「目的を逆にするなよ」


「分かってるわよ」


 日がさらに傾いた頃、村長がもう一度家を訪ねてきた。


 話を聞いた老人は四人に増えていたが、誰も同じような出来事を知らなかった。今日森へ出た者にも確認したが、行きも帰りも異常はなく、入口で違和感を覚えた者もいないという。


「役に立たん話ばかりで悪いな」


 村長が言う。


「何もなかったことも情報だ」


 エルディアスが答えた。


「そういうものか?」


「ああ」


「ならいいが……」


 村長はまだ腑に落ちない顔だった。


「明日は、昔来た旅人のことも分かる範囲で聞きたい」


 ラウルが言う。


「何人くらいで来ていたか。受付でどんな役目が出たか。長く泊まった連中がいたか。その辺りだ」


「分かった。覚えてる奴がいるか探してみよう」


「無理に全部集めなくていい」


「こっちも気になるんだよ」


 村長は苦笑しようとしたが、うまく笑えなかった。


「何十年も住んでて、あんなものが入口にあるなんて今日まで知らなかったんだからな」


 七人も返す言葉はなかった。


 村長が帰ってしばらくすると、鐘が鳴った。


 森の中で何度も聞いてきた音が、今は壁を震わせるほど近い。


 一度。


 低い音が村の上へ広がり、長い余韻を残す。


 窓の外では、畑にいた者が道具を片づけ始めていた。子供を呼ぶ声が聞こえ、家々の竈から煙が上がる。


 村人にとっては、いつもと変わらない一日の終わりなのだろう。


 七人だけが、その中へ取り残されていた。


 ――明日も出られなかったら、どうしますか。


 リュシアの声が内側へ届いた。


 エルディアスは窓の外を見たまま答える。


 ――調べる。


 ――ルールかどうかも?


 ――それもだ。


 少し間があった。


 ――怖くはないのですか。


 エルディアスはすぐには答えなかった。


 何もない場所で身体だけが止まる。


 村人は通れる。


 物も魔法も通る。


 何かに選ばれたように、自分たちだけが外へ出ることを許されない。


 ――分からないものは嫌いだ。


 ――それは、少し違う答えですね。


 ――似たようなもんだ。


 リュシアから返事はなかった。


 ただ、少し離れたところで窓の外を見ていた彼女の口元が、わずかに緩んだように見えた。


 エルディアスは森のある方角へ視線を向ける。


 帰る道は、村のすぐ外にある。


 消えたわけでも、塞がれたわけでもない。


 それでも七人は、その夜を村で迎えることになった。


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