第35話 夕暮
翌朝、七人は昨日と同じ経路を辿り、靴跡を見つけた場所まで戻ってきた。
主要道標も、その間に残した簡易目印も失われていない。前日に帰路として一度使ったことで位置も把握できており、森へ入り始めた頃より移動はずっと速かった。
倒した鎧猪の死体はまだ残っていた。腹の一部を小さな獣に食い荒らされ、周囲には昨日までなかった細かな足跡が増えている。
ガルムが大盾へ腕を通したまま死体へ目を向ける。
「一晩で随分食われたな」
「今はそっちじゃない」
ラウルが言った。
「ああ。分かってる」
ニルスは昨日記録した位置まで進み、落ち葉の間へしゃがみ込んだ。
「残ってるな」
昨日、鎧猪との戦闘後に見つけた靴跡だった。
輪郭は少し崩れている。それでも踵から爪先へ続く形はまだ読める。ガルムが往路で付けた大きな靴跡の上へ重なっている部分も、そのまま残っていた。
「新しく増えたものは?」
クラリスが尋ねる。
「この辺りじゃ分からん。鎧猪が荒らしすぎてる」
ニルスは立ち上がり、靴跡が向いていた先へ顔を向けた。
「方向は昨日記録した通りだ」
「三度目の鐘とも重なってるな」
ラウルが確認する。
「ああ。大きくは外れてない」
リュシアは、昨日から片側へ押されたままになっている低い枝を見ていた。
「この先へは進めそうです。少なくとも、すぐに通れなくなるようには見えません」
「なら予定通りだ」
ラウルは七人を見回した。
「昨日も話したが、足跡の持ち主を追跡するわけじゃない。靴跡が向かった先と鐘の方向が重なっているから、今日はそちらへ経路を伸ばす」
「本人らしいものを見つけたら?」
セルマが尋ねる。
「まず止まる。向こうが逃げれば追わない。こちらに気づいていなければ、勝手に近づくな」
「話しかけられた場合は?」
「その時は話す」
「言葉が通じなかったら?」
「動きを見る」
「襲われたら?」
ガルムがセルマを見る。
「そこまで聞く必要があるのか?」
「確認してるだけでしょう?」
「迎撃する。ただし追わない」
ラウルが答えると、セルマは満足したように頷いた。
「分かったわ」
「ニルス。分岐を残せるか」
「ああ」
ニルスは昨日までの経路と新しい進路が分かれる場所へ追加の印を残した。木の幹だけでなく、根元から少し離れた場所へ杭を埋め、記録板にも方角を書き加える。
「ここを見失ったら、元の道標へ戻れなくなる。帰りは必ずこの位置を確認する」
「昨日までより目立たせるのか?」
ガルムが尋ねる。
「分岐だけはな。先へ付ける印は、向こうの様子を見て決める」
「向こう?」
セルマが聞き返した。
「靴を履いて歩くものがいるなら、この森を俺たち以外も使ってるかもしれない。昨日までみたいに、何もない森だと思って色を付け続けていいかは分からん」
「なるほどね」
セルマは周囲の木を見る。
「こっちが見つけやすい目印は、向こうからも見つけやすいものね」
「そういうことだ」
準備を終えると、七人は昨日までの経路を外れた。
ガルムとリュシアが前へ出る。ニルスがその後ろで方角と経路を記録し、クラリスが中央。ラウルとエルディアスが左右を見て、セルマが後方を警戒した。
森そのものに大きな変化はない。
太い幹と地面から盛り上がる根。頭上では枝葉が重なり、昼の光を遮っている。鳥の声も虫の羽音もなく、風が梢を揺らす音だけが続いていた。
それでも、昨日までより歩みは止まらなかった。
木々の間に、人一人なら通りやすい隙間が続いている。太い根を大きく迂回する場所も少なく、低木が密集した場所でも中央だけは薄い。
リュシアが少し前で足を止めた。
「ここを通りますか?」
左には太い根が重なり、右には低木が広がっている。その間だけが奥へ続いていた。
ガルムが大盾を少し斜めにして通る。
「いける。このくらいなら盾も邪魔にならん」
「鐘の方向は?」
ラウルがニルスへ尋ねる。
「まだ範囲内だ。このまま通れるなら、無理に真っ直ぐ進むよりいい」
「なら使おう」
七人はその隙間へ入った。
しばらく進んだところで、エルディアスは足元へ目を向けた。
落ち葉が薄い。
足跡と呼べるほど明確な形はないが、両側より中央だけ湿った土が覗いている。
「ニルス」
「見えてる」
ニルスも数歩前で止まり、地面へしゃがんだ。
「踏まれてるようには見える。ただ、獣道でもこうなる」
「前にも続いています」
リュシアが言った。
「同じくらいの幅です。ここだけ偶然落ち葉が少ないという感じではありません」
「記録はする。ただ、まだ道とは書かない」
「はい」
ラウルも地面を確かめたが、それ以上は止まらせなかった。
「続けるぞ」
七人はさらに奥へ進んだ。
今度はリュシアが一本の枝の前で足を止めた。
「ラウルさん。少しよいですか」
人の胸ほどの高さへ伸びていた枝が途中からなくなっていた。
切り口は斜めで、折れた枝のような裂け方をしていない。
ラウルが近づく。
「刃物か?」
「そう見える」
エルディアスが答えた。
ニルスも切断面を横から確認する。
「新しくはない。乾いてるな」
「こちらにもあります」
リュシアが数歩先を示した。
二本目の枝も途中で切られていた。
そちらはさらに古く、切断面が黒ずんでいる。その脇から新しく伸びた細い枝まで、途中からなくなっていた。
クラリスが近くへ寄る。
「一度切った後に伸びた枝を、もう一度落としたのでしょうか」
「そう見える」
エルディアスは最初の切り口と見比べた。
「少なくとも、一度通るために切って終わりじゃないな」
「なら、この辺りを何度も通っているものがいるのね」
セルマが言った。
「可能性は高くなった」
ラウルは切られた枝から足元へ視線を落とした。
「昨日の靴跡と同じものが切ったとは限らない。だが、履物を使うものが通った跡と、刃物を使った痕跡が同じ方向に続いてる」
「昨日よりずっと分かりやすくなってきたじゃない」
「次は家でも出てくると思ってるのか?」
ガルムが尋ねる。
「家まであったら嬉しいけど、まだそこまでは言ってないわよ」
「顔が言ってるぞ」
「ガルムに顔の分かりやすさを言われるとは思わなかったわ」
「どういう意味だ」
「そのままの意味」
「それが分からんと言ってる」
クラリスが小さく息を漏らした。
「お二人とも、その話は歩きながらでもできます」
「そうね」
セルマはあっさり前へ向き直った。
ラウルも歩き始める。
「痕跡が増えても、目的は変えない。今日も戻れるところまでだ」
「分かってるわよ」
「今のは全員に言った」
「なら返事しなくてもよかった?」
「聞いてるなら何でもいい」
さらに進むと、刃物で落とされた枝は断続的に続いた。
同じ時期に切られたものばかりではない。まだ断面に淡い色が残るものもあれば、黒ずんで苔が付き始めているものもある。倒木そのものは放置されているが、跨ぐ位置にあった枝だけが落とされている場所もあった。
「切り開いた道ではありませんね」
リュシアが言った。
「通る時に邪魔になるところだけ、手を入れているように見えます」
「こっちもだ」
ガルムが足元を示した。
太い根の表面から、中央だけ苔が消えている。
ニルスが前後を見比べる。
「何度も踏まれてるな」
「獣でもそうなるんでしょう?」
セルマが尋ねた。
「ああ。ただ、刃物で枝まで切る獣なら話は別だ」
「先に言えるようになったわ」
「何度も説明したからな」
「私が覚えたとは考えないの?」
「それもある」
セルマが一瞬黙った。
「今のは普通に褒めた?」
「事実を言っただけだ」
「それでもいいわ」
ガルムが低く笑った。
リュシアは会話の間にも前方と頭上を見続けている。
――右奥、動きはありません。
声がエルディアスの内側へ届いた。
――上は。
――風だけです。
エルディアスは左側へ視線を流した。
――こっちも何もいない。
それだけで念話を切る。
「前は?」
ラウルがリュシアへ尋ねた。
「今のところ問題ありません。ただ、先ほどから通りやすい場所がほとんど途切れていません」
「方向は?」
ニルスがすぐに記録を確認する。
「鐘からも外れてない。昨日取った範囲の中だ」
「そのまま行こう」
ラウルの判断で、七人はさらに進んだ。
しばらくすると、森の音に細い水音が混じった。
リュシアが手を上げる。
「前に水があります」
全員の歩みが遅くなる。
木々の向こうが少し明るい。枝葉が途切れ、その先を浅い沢が横切っていた。
先へ進んだリュシアが、沢の手前で止まった。
「……沢だけではありません」
ラウルがその隣へ出る。
残る五人も追いつき、同じものを見た。
沢の上に、二本の丸太が架かっていた。
同じくらいの太さの木が平行に並び、枝は根元から切り落とされている。上を向いた面は荒く削られ、両端は岸の土へ浅く沈められていた。流されないようにしたのか、周囲には大きめの石まで寄せてある。
「これは、橋って言っていいのよね?」
セルマが尋ねた。
「ああ」
ニルスも迷わなかった。
「意図して置かれてる。自然に二本揃ってこうはならん」
「人が作った?」
「そこまでは分からん」
「でも、刃物は使ってるでしょう?」
「人族とは限らないという意味だ」
「ああ、そっちね」
ガルムが丸太の端を足で軽く押した。
「動かんな」
「乗るなよ」
ラウルが止めた。
「まだ乗ってない」
「今から乗るつもりだっただろ」
「強度を見ようとしただけだ」
「それを乗ると言う」
「セルマみたいなことを言うな」
「どうして私が基準なのよ」
対岸にも踏み跡は続いていた。
こちら側より明瞭だった。中央は落ち葉が薄く、低い枝もほとんどない。これまで辿ってきたものより、ようやく道と呼べそうな形になっている。
ラウルは橋を渡らず、その先をしばらく見た。
「ニルス。鐘は?」
「ほぼ正面だ。三度目に取った範囲の中に入ってる」
「橋の向こうも同じ方向へ続いています」
リュシアが言った。
「少なくとも、ここで道が終わっているようには見えません」
「昨日の靴跡の先にこれか」
ガルムが低く言う。
「靴跡、切られた枝、踏まれた場所、橋」
セルマが一つずつ数える。
「もう、何かがいるのは間違いないんじゃない?」
「何かがいたことはな」
エルディアスが答えた。
「今もいるかは別だ」
「でも、新しい切り口もあったでしょう」
リュシアが対岸を見たまま言う。
「長く使われていない場所ではないと思います」
「そこまでは言えるな」
ラウルは頷いた。
「ニルス。時間は?」
「まだ余裕がある。折り返しまで――」
エルディアスは沢の向こうを見ていた。
何かが引っかかった。
橋でも、踏み跡でもない。
光だった。
「待て」
声を出すと、ニルスが砂時計から顔を上げた。
「どうした?」
エルディアスは沢の上へ目を向ける。
枝葉が途切れた場所から、広く空が見えていた。
太陽が低い。
森へ入った時にはまだ十分な高さがあったはずなのに、今は西側の木々へ近づいている。青かった空も、すでにわずかに黄みを帯び始めていた。
「……日が落ちるの、早くないか」
セルマも空を見上げる。
「もうそんな時間?」
「だからおかしい」
エルディアスはニルスの手にある砂時計へ目を向けた。
途中から森の中が暗くなっていることには気づいていた。
枝葉が厚くなっただけだと思っていた。
だが思い返せば、沢へ近づく少し前から木々の影そのものが長くなり始めていた。
リュシアも空を見上げる。
しばらく太陽の位置を確認した後、眉をわずかに寄せた。
「低すぎますね」
「お前もそう思うか」
「はい。昨日、六つ目から戻り始めた時より低く見えます。ですが、今日はまだそこまで時間を使っていないはずです」
ニルスが砂時計を改めて確認した。
「ああ。砂時計ではまだ折り返しまで余裕がある。今日は昨日までに作った経路をそのまま使えたから、ここまで来ても昨日の六つ目より時間を使ってない」
「昨日はこんなに日が落ちてなかったぞ」
ガルムも空を見上げた。
「私も途中から少し暗くなったとは感じていました」
クラリスが西側を確認する。
「ただ、森の中ですから、枝葉の影響だと思っていました」
「私もです」
リュシアが言った。
「太陽を隠すほどの雲はありませんね」
クラリスの言葉通り、西の空には薄い雲がいくつか浮いているだけだった。
ラウルがニルスを見る。
「砂時計は?」
「予備がある」
ニルスは背負い袋からもう一つ取り出した。
二つを並べ、残った砂を見る。
「出発前に合わせてある。少しの差は出ても、これほどはずれない」
「ということは、第二層では時間が早く進んでる?」
セルマが尋ねた。
「まだ分からん」
エルディアスは空から視線を戻した。
「俺たちも砂時計も第二層の中にいる。今分かるのは、砂時計で測った時間と空の動きが合ってないことだけだ」
「時間そのものが違うのか、この空だけが別の周期で動いているのかは、まだ判断できませんね」
リュシアが続ける。
「疲れ方や空腹も、砂時計で測った時間から大きく外れている感じはありません」
クラリスが自分の状態を確かめるように言った。
「俺も普通だな」
ガルムも頷く。
「歩いた分だけ疲れてる。それ以上じゃない」
「原因は戻ってから調べる」
ラウルが話を切り替えた。
「今必要なのは、戻れるかどうかだ。ニルス」
呼ばれたニルスが来た道を見る。
「砂時計だけなら余裕で戻れる。だが、このまま日の落ち方が続くなら、森の境へ出る前に暗くなる可能性がある」
「今日作ったところは?」
「帰路としてはまだ一度も確認してない。昼間なら問題ないが、暗闇で木の印と杭を拾いながら戻れば、かなり遅くなる」
「灯りなら出せるわ」
セルマが白木の杖を少し持ち上げた。
「ああ。足元は見える」
ラウルが答える。
「その代わり、灯りの外側は昼より見えにくい」
「裂爪猿が上にいても、発見が遅れるでしょうね」
リュシアが頭上を見た。
「鎧猪もいます。昨日でも、木々の間から出てくる直前まで姿を確認できませんでした」
「それに、こっちだけ明るければ遠くから見つかる」
エルディアスは橋へ視線を向けた。
「この道を使ってる何かにもな」
ガルムは大盾へ手を掛けた。
「暗い森を何刻も戻るくらいなら、明るいうちに守れる場所を探した方がましだと思うが」
「私も賛成です」
クラリスが言う。
「十分な野営装備ではありませんが、一晩を越す程度のものは持っています。水もここなら確保できます」
セルマが橋の向こうを見る。
「今日は戻らないの?」
「まだ決めてない」
ラウルは六人を見回した。
「エルディアス」
「戻るのは反対だ。帰還を優先するために、夜の森へ入るのは違う」
「リュシア」
「私も残る方が安全だと思います。ただ、この橋のすぐ近くで野営するのは避けた方がよいでしょう」
リュシアは丸太橋へ目を向けた。
「誰かが今も使っているのであれば、夜にも通る可能性があります。通り道のすぐ脇へ七人で留まれば、こちらが相手を警戒するだけでなく、相手にも警戒されると思います」
「ニルス」
「同じだ。橋へ戻れる距離だけ保って、道からは外した方がいい」
「ガルム」
「守れる場所ならどこでもいい。沢から低すぎる場所だけは避けたいな」
「クラリス」
「水場から遠すぎず、足元と頭上に危険がなく、全員が休める場所なら問題ありません」
最後にラウルがセルマを見る。
「私は?」
「聞かなくても言うだろ」
「言うけど、聞いてほしいじゃない」
「なら言え」
「野営には賛成。橋は明日でいいわ。夜の森を戻るよりは寝た方がまし」
「決まりだ」
ラウルは橋へ背を向けた。
「ここでは野営しない。明るいうちに場所を確保する。橋も渡らない」
「ここまで来たのに?」
セルマが一度だけ対岸を見る。
「今日だけで十分進んだ」
ラウルは答えた。
「靴跡の先に繰り返し使われた痕跡があり、橋まで見つけた。鐘の方向とも一致してる。日が落ちるところで、さらに一つ欲張る必要はない」
「……そう言われると、確かに多いわね」
「明日も橋があれば渡れる」
ニルスが言った。
「なくなってたら?」
「それはそれで大きな発見だ」
「そういうことを言うから気になるのよ」
ガルムが低く笑った。
「今日は諦めろ」
「分かってるわよ」
ラウルは七人の位置を確かめる。
「ガルムとエルディアスは地面と守りやすさを見る。リュシアとニルスは周囲の痕跡と、橋へ戻る経路を確認。クラリスは一晩過ごせる物資があるか改めて数えてくれ。セルマは火を使える場所を探せ。ただし、まだ点けるな」
「最後だけ私に釘を刺したでしょう」
「必要だからな」
「今まで森を燃やしてないのに」
「だから任せてる」
セルマが少し黙った。
「……それならいいわ」
七人は橋から来た道を少し戻り、沢の音が聞こえる範囲で踏み跡から外れた。
エルディアスとガルムは並んで地面を見る。
一つ目の候補は沢へ向かって緩く下っていた。
「ここは駄目だ」
エルディアスが言う。
「雨が降ったら水が寄る」
「こっちは狭いな」
ガルムは近くの二本の木へ大盾を向けてみる。
「俺が前へ出たら、後ろに下がれん」
二人はさらに先へ進んだ。
大きな倒木が一本あった。
根が土ごと持ち上がり、背丈ほどの壁を作っている。反対側には太い生木が二本立ち、正面側だけは比較的開けていた。
エルディアスは杖を地面へ向け、土の術式を薄く広げる。
表面の下に大きな空洞はない。沢側へ緩く傾斜しており、雨が降っても水が溜まり続ける形ではなかった。
「ここは悪くない」
ガルムが大盾を構える。
正面、右、左。
身体ごと向きを変えて確かめた。
「十分動ける。後ろを根で塞げるのもいい」
そこへリュシアとニルスが戻ってきた。
「周囲に新しい大型獣の痕跡はありません」
リュシアが報告する。
「樹上にも裂爪猿の爪痕は見つかりませんでした。すぐに落ちそうな枯れ枝も、確認できる範囲にはありません」
「橋からも近すぎない」
ニルスは来た方向を指す。
「途中に二股の木が一本ある。沢の音も聞こえるから、橋へ戻るのは難しくない。元の経路との位置関係も記録できる」
クラリスも荷物の確認を終えていた。
「保存食は一晩なら十分です。水筒もありますし、沢から補充もできます。治療薬も残っています。ただし、天幕はありません」
「日帰りの予定だったからな」
ガルムが答える。
「薄い野営布は全員分あります。それだけでも、直接地面へ寝るよりはよいでしょう」
「火も置けそうよ」
セルマが倒木の根の内側を示した。
「道から直接見えないし、周りの落ち葉を退ければ燃え広がりにくい。大きくしなければ、煙もそれほど目立たないと思う」
ラウルは倒木の周囲を一周した。
地面。頭上。沢側。森側。
最後に、それぞれへ確認する。
「エルディアス」
「問題ない」
「ガルム」
「守れる」
「リュシア」
「周囲に異常はありません」
「ニルス」
「帰路も分かる」
「クラリス」
「一晩なら問題ありません」
最後にセルマを見る。
「火は?」
「小さく。道から見えない場所。落ち葉を除けて、朝には消した痕もできるだけ戻す」
「ああ」
ラウルは頷いた。
「ここにする」
エルディアスは空を見上げた。
森へ入った時には、まだ高いところにあったはずの光が、木々の向こうへ沈もうとしている。
砂時計では、まだ帰路へ入るはずの時刻にさえ達していない。
それでも、森には夕暮れが迫っていた。
七人は初めて、第二層で夜を越すことになった。




