第27話 同行
五人の先頭にいた男が、エルディアスたちへ顔を向けた。
周囲の冒険者が空けた道を歩き、二人の前で足を止める。近くで見ても、王都を拠点に名を上げた冒険者らしい気負いはなかった。エルディアスの濡れた靴や、リュシアの外套に残る水染みへ一度だけ目を向け、そのまま二人の顔を見る。
「リュシアとエルディアスだな」
「はい」
「ああ」
「《暁星》のラウルだ。勇者を選ぶそうだな」
挨拶に続いて向けられた問いに、リュシアは表情を変えなかった。
「まだ選んでいません」
「それも聞いた。それで、俺に見込みはあるか?」
受付前の静けさが、さらに深くなった。
周囲の冒険者たちが聞き耳を立てていることを、ラウルは気にしていないらしい。声を潜めることもなければ、リュシアへ答えを迫る様子もない。単純に気になったことを尋ねているように見えた。
「分かりません。あなたについて知っているのは、《暁星》の隊長であることと、風の噂で聞いた程度のことだけです。それだけでは判断できません」
「会っただけでは分からないか」
「はい」
「なら、これから知れば変わる可能性はあるわけだ」
「可能性についても、今は答えられません」
「慎重だな」
「分からないことを、分かるとは言えません」
ラウルは面白そうに口元を緩めた。
「そういうやつか。少し安心した」
「何に安心したのですか」
「名が売れているだけで選ぶわけじゃない。それが分かった」
「勇者の条件は、名声ではありません」
「やっぱり条件はあるのか」
「それ以上はお答えできません」
「分かった。今のは忘れてくれ」
ラウルはあっさりと引いた。勇者選定の詳細を聞き出そうとしたのではなく、有名な者なら誰でも候補になるのか、自分を見ただけで何か分かるのか。その程度の素朴な興味だったらしい。
「着いたばかりで、それを聞く必要がありましたか」
治療鞄を肩に掛けた女が言った。
「気になっていたからな」
「気になったことを、すべて口に出す必要はありません」
「クラリスは、自分に見込みがあるか気にならないか?」
「なりません」
即答したクラリスの隣で、白木の杖を持った女が小さく笑った。
「私は少し気になるわ。勇者になりたいという意味ではなく、何を見て決めるのかには興味があるもの」
「セルマまで聞き始めると長くなる。今はやめろ」
測量縄や楔を腰へ下げた小柄な男が遮った。
「勇者の話より、第二層の話を聞きたい。そっちを見るために来たんだろ」
「ニルスは、第一層にも期待していたはずだが」
大盾を支える熊の獣人が、低い声で言った。
「王都の先遣隊を追い返した階層を見られると思っていたんだ。来てみたら、もう訓練場みたいになってるじゃないか」
ニルスは不満を隠さなかった。近くにいた冒険者の何人かが眉を寄せたが、口を挟む者はいない。
第一層の階層主は、すでに何度も討伐されていた。階層主そのものが弱くなったわけではないが、攻撃の型や対処法が明らかになり、王都とギルドの管理下で攻略手順も整えられている。また、発見当初に見られた道中の魔物の大型化や凶暴化も、今では完全に収まっていた。最初に挑んだ者たちと比べれば、現在の攻略者が背負う危険は大きく減っている。
「第一層に用がなくなっただけだろ」
ラウルが言った。
「面白そうなのは、その下だ」
「皆さんは、黒碑王墓迷宮へ入るためにセレイスへ来たのですか」
リュシアの問いに、ラウルは首を横へ振った。
「王都を離れて、別のダンジョンへ遠征していた。そっちを終えて戻る途中で、黒碑王墓迷宮の噂を聞いた」
「どこまで聞いている」
エルディアスが尋ねる。
「新しいダンジョンで王都の先遣隊が撤退した。後から入ったセレイスの冒険者が階層主を倒した。石碑に勇者と魔王が刻まれ、勇者を選ぶ者としてエルフの名が出た。第二層は、外から見た構造とは一致しない森と塔になっている」
「だいたい合ってるな」
「そのまま王都へ帰って話を聞くより、自分で見た方が早い。近くまで来ていたから、予定を変えてセレイスへ向かった」
王都から派遣されたのではなく、自分たちの判断で来たということらしい。
ラウルは受付の中にいたミュリカへ向き直った。
「三日後の朝、第二層へ入る。必要な手続きがあるなら、それまでに済ませたい」
「第二層への進入は、王都の管理区画を通ります。現在の手続きについて確認しますので、少々お待ちください」
「許可が必要なのか?」
「進入そのものを一律に禁止する規定はありません。ただし、現在は調査中ですので、参加者と予定を確認しています」
「なら、進入予定を伝えておいてくれ。許可を求めるつもりはない」
口調は穏やかだったが、決定を変える気がないことは明らかだった。
ミュリカは困った顔を見せず、いつもと変わらない声で答えた。
「そのように伝えます」
ラウルは再びエルディアスたちを見る。
「二人も近いうちに入るのか」
「まだ決めていない」
「そうか。中で会ったらよろしく頼む」
「別の日に入れば会わないだろ」
「最初に出る場所は同じなんだろう。いずれ会うかもしれない」
ラウルは笑い、四人を連れてギルドの奥へ移動した。バルドと話をするらしい。
五人が離れると、静まり返っていた大広間に少しずつ声が戻った。
「面倒なのが来たな」
エルディアスが呟く。
「聞こえていたと思います」
受付へ進んだリュシアが言った。
「聞かせた」
古い水路の依頼報告を終え、報酬を受け取った頃には、外で夕の鐘が鳴っていた。
◇
翌朝、宿で朝食を終えた直後にギルドの使いが来た。
二階のギルド長室へ入ると、机の向こうにはバルドが座り、その隣には王都の連絡官が立っていた。机には二通の依頼書が並べられている。
「昨日の今日で悪いが、仕事だ」
バルドは挨拶もなく、依頼書を二人の前へ押し出した。
依頼内容は、黒碑王墓迷宮第二層における帰還地点周辺の予備調査だった。
螺旋階段の下にある広間から外へ出た先の丘を起点として、周辺の地形と移動可能な経路を確認する。森との境界、魔物の痕跡や危険性、日中に往復できる範囲を調べ、簡易地図を作成する。
森の深部へは入らず、日暮れ前に帰還することも明記されていた。
「第二層の本格攻略ではありません」
王都の連絡官が説明する。
「前回の調査では、丘と周囲の森林を確認したところで撤退しています。今回は今後の調査に必要な行動範囲と、帰還地点周辺の安全性を確認していただきます」
「俺たち二人でか」
「お前たちの調査へ、《暁星》が護衛として付く」
バルドが答えた。
「逆じゃないのか」
「依頼書ではそうなっている」
「実際には?」
「好きに入ろうとしている連中に、お前たちを付けたいんだろう」
連絡官が口を開きかけたが、バルドは構わず続けた。
「《暁星》は王都を拠点にしているが、王国軍でも王立機関でもない。第二層へ入るなと命じられる立場じゃない。理由もなく止めれば、王都が著名な冒険者の活動を妨害したと言われる」
「好きに行かせればいいだろ」
「好きに行かせたくないから、こうなっている」
王都側が困る理由は分かりやすかった。
《暁星》の実力は、王都側もよく知っている。大人数の調査隊と大量の資材をセレイスへ送り込みながら、後から来た五人に先を越され、大きな成果まで持ち帰られれば面目が立たない。王都隊の調査能力だけでなく、これほど大掛かりな派遣が本当に必要だったのかと疑われることにもなる。
だからといって、実績のある冒険者が正規の手続きを踏んでダンジョンへ入ることを、理由もなく拒むことはできない。止められない以上、少なくともどこまで進み、何を見つけたのかは把握しておきたい。そのために、王都にも《暁星》にも属さないエルディアスたちが選ばれたのだろう。
「王都の兵を付ければいいだろ」
「それでは断られる可能性が高いそうだ」
「俺たちなら断られないと思ってるのか」
「もう話は通してある」
「先に通すな」
バルドは悪びれなかった。
「《暁星》は了承した」
リュシアは依頼書を最後まで読み、顔を上げた。
「私たちに、《暁星》の行動を止める権限はあるのですか」
「ない。無理に止める必要もない」
バルドは椅子の背へ寄りかかった。
「依頼の範囲を越えると言い出したら、自分たちは同行しないと伝えろ。それでも進むなら、追う必要はない。お前たちは依頼された範囲を調べて帰り、見たことをそのまま報告すればいい」
「監視というより、独立した報告者ですか」
「王都側との連絡役、現地での判断材料、行き過ぎた場合の牽制も兼ねている」
「ラウルたちが俺たちを気にせず進んだら、それまでということか」
「そうだ」
「報酬を出す側は、それで納得しているのですか」
リュシアは連絡官を見た。
「依頼書に記された範囲を調査し、危険と判断すれば途中でも撤退する。私たちには《暁星》の指揮権も、行動を強制する権限もない。それで間違いありませんか」
「間違いありません」
「私たちが依頼範囲を越えないと判断し、《暁星》が同意しない場合は、別行動となる可能性もあります」
「承知しています」
少なくとも書面上は、二人を王都隊の一員として扱う内容ではない。ギルドを通した独立依頼として記録に残る。
エルディアスは報酬欄を確認した。昨日の水路調査とは、桁が一つ違う。
「受けるか」
リュシアへ尋ねる。
「第二層の調査はいずれ必要です。範囲も、現時点では妥当だと思います」
「面倒なのが五人増えるが」
「私たちだけで入ろうとしても、王都から別の同行者を付けられる可能性があります」
「そっちよりはましか」
エルディアスは署名欄へ名を書いた。リュシアも続けて署名する。
「出発は明朝です」
連絡官が言った。
「朝二つの鐘までに、黒碑王墓迷宮の宿営地へ集合してください」
「ラウルは三日後と言っていたが」
「予定を一日早めることについて、すでに了承を得ています」
「本当に先に全部通してるな」
バルドは答えなかった。
隣の会議室へ移ると、《暁星》の五人が待っていた。
ラウルは机の上に置かれた依頼書を手に取り、最初の数行を読んだところで笑った。
「俺たちが護衛か」
「書面上はそうなります」
連絡官が答える。
「なるほど。護衛される側が、俺たちを見張るわけだ」
「そのような意図ではありません」
「そういうことにしておこう」
ラウルは依頼書をクラリスへ渡した。クラリスは報酬ではなく、調査範囲と制限事項から読み始める。
「帰還地点周辺と、日中で往復可能な範囲。森の深部へは入らない。日暮れ前の帰還を原則とする」
「初日ならそんなものだろ」
「その場で予定を変えなければ問題ありません」
「必要なら話して決める」
「話して決める、という言葉を、勝手に進むという意味に使わないでください」
ニルスがエルディアスたちへ目を向ける。
「護衛なら、調査範囲を決めるのは二人なのか?」
「書類の上ではな」
ラウルが答えた。
「現地では話して決める」
「今の注意をもう忘れていませんか」
「忘れてない」
セルマはクラリスの持つ依頼書を横から覗き込み、森との境界を示す項目を指で示した。
「森には、どこまで入るの?」
「日暮れ前に、確実に戻れる範囲までだ」
エルディアスが答える。
「魔物が逃げても?」
「追わない」
「襲ってきたものは?」
「必要なら倒す」
「分かったわ」
セルマはあっさりと引いた。探索より討伐を優先するつもりはないらしい。
ラウルが二人へ向き直る。
「俺たちへ命令する必要はない。気づいたことがあれば、そのまま言ってくれ」
「そっちも同じでいい」
「《暁星》への指示は、ラウルさんが行ってください。私とエルディアスは、二人で判断します」
リュシアが続ける。
「全体に関わる進退は、その都度相談して決めます。緊急時には、最初に危険を認識した者が声を上げる。それでよろしいですか」
「異論はない」
ガルムが答えた。
クラリスとニルスも頷き、セルマは白木の杖を肩へ立て掛けたままラウルを見る。
「勝手に進まなければね」
「信用がないな」
「これまでの結果です」
同行に関する確認が終わると、王都の連絡官が机の端に置いていた封書を取り上げた。
「もう一件、神殿から申し出が届いています」
「神殿から?」
エルディアスが眉を寄せる。
「明朝の出発前に、宿営地で安全祈願を行いたいとのことです。浄化水、包帯、治療薬の提供と、希望者の装備への一時的な光属性防護も含まれています」
連絡官は封を開いた書面を、リュシアたちの前へ差し出した。
祈祷は四半鐘以内。参加は任意。神殿前での式典は行わず、黒碑王墓迷宮の宿営地へ神官を派遣する。支給される物資の種類と数量まで、書面には細かく記されていた。
「これだけなら、断る理由はないな」
ラウルが言った。
「物資も助かります」
クラリスは文面を上から順に確認していたが、最後の項目で手を止めた。
「告知も出すつもりのようです」
書面の末尾には、神殿前へ掲示する予定の告知文案が添えられていた。
勇者選定者リュシアと、勇者候補たる《暁星》の第二層調査安全祈願。
「《暁星》の方々を、勇者候補として扱うことには同意していません」
リュシアは即座に言った。
「俺は候補でも構わないが」
ラウルが口を挟む。
「私が構います」
リュシアはラウルを見ずに答えた。
ラウルは一瞬目を丸くし、それから口元を緩めた。
「分かった。俺は黙ってる」
「安全祈願と物資の提供は受けてもよいと思います」
クラリスが告知文案を指で示す。
「ただし、この文面で告知を出すことには同意できません。祈りと人集めは別の話です」
「告知そのものも必要ないのではないですか」
リュシアが言った。
「宿営地で出発前に行うだけなら、事前に広く知らせる理由はありません」
王都の連絡官は書面を受け取った。
「では、安全祈願と物資提供は受ける。ただし、勇者候補という表現を削り、神殿前への告知は行わない。それを条件に了承する、という返答でよろしいですか」
「はい」
リュシアが答える。
「祈祷は任意のままにしてください」
クラリスも付け加えた。
「承知しました。神殿へ返答します」
その日の夕方には、修正を認める神殿長ローデンの署名入り書面がギルドへ届いた。明朝、宿営地へ五名の神官を派遣し、出発を妨げない範囲で短い祈祷を行う。それ以上の告知や式典は行わないと記されていた。
◇
翌朝、黒碑王墓迷宮の宿営地へ着いたエルディアスは、入口の前に設けられた白い天幕を見て足を止めた。
「何だ、あれは」
昨日まで資材箱が積まれていた場所に、神殿の紋章を染め抜いた布が張られている。その下には白布を掛けた細長い台が置かれ、銀の燭台と香炉、浄化水を収めた瓶が左右へ整然と並べられていた。
書面に記されていた神官は五人だった。人数に間違いはない。
ただし、その周囲には天幕や祭具を運んできた修道士や神殿の下働きが十人近くおり、祈祷に使うらしい白い旗まで入口脇へ立てられている。
「安全祈願だけではなかったのですか」
リュシアが低い声で言った。
「書面には、宿営地で短い祈祷を行うとあった」
エルディアスは答えた。
「短いかどうかは、まだ分からない」
「準備は短くなさそうだけどね」
セルマが天幕を見上げる。
《暁星》の五人も、その場で足を止めていた。ラウルは面白がるような顔をしていない。クラリスは白布の上に並べられた祭具を一つずつ確認し、眉間へ薄く皺を寄せている。
「神殿前で行わない。事前の告知もしない。祈祷への参加は任意。書面にあった条件には反していません」
「随分と丁寧に守ったものだな」
ラウルが言った。
「守ったうえで、目立つようにしている」
ニルスが宿営地の外へ目を向けた。
祈祷が行われるという告知は出されていない。それでも、白い天幕と神殿の旗を見れば、何かが始まると分かる。宿営地の兵や職員だけでなく、王墓へ続く道を通りかかった者まで足を止め始めていた。
見物人を集めるとは、どこにも書かれていなかった。
追い払うとも、書かれていなかった。
「ローデン神殿長は?」
クラリスが近くの神官へ尋ねた。
「本日は神殿での務めがございます。神殿長の承認を受け、私どもが祈祷を務めます」
神官は恭しく頭を下げた。
「皆様の出発を妨げぬよう、祈りそのものは四半鐘以内に終えます」
それも書面どおりだった。
神官たちは七人へ、天幕の前に並ぶよう求めた。参加は任意と説明されたが、すでに祭具は整えられ、周囲には人が集まっている。この場で断れば、祈祷を拒んだことの方が目立つだろう。
「任意というのは、断りやすい状況を用意して初めて意味があるのではありませんか」
リュシアが言った。
神官は一瞬だけ言葉を失った。
「もちろん、強制するものではございません」
「そういうことにしておきましょう」
ラウルが昨日と同じ言葉を返したが、今度は笑わなかった。
七人が天幕の前へ立つと、香炉から白い煙が上がった。神官の一人が祈りの言葉を唱え、残る四人が杖を掲げる。
「光が皆様の足元を照らし、闇の中に進むべき道を示しますように。傷つく者なく、迷う者なく、七人すべてがこの場所へ戻られますように」
淡い光が足元へ広がった。
装備へ一時的な防護を施すだけなら、もっと小さく行えたはずだった。だが光は七人の周囲を円形に巡り、白い筋となって天幕の支柱を昇る。頭上で神殿の紋章を形作ると、朝の薄暗さの中へ明るく浮かび上がった。
周囲から小さなどよめきが起こる。
「必要な術式なのか」
ガルムが光を見上げた。
「防護そのものには不要です」
クラリスが即答した。
「見せるためでしょう」
祈祷は宣言どおり四半鐘もかからず終わった。勇者候補という言葉も使われず、リュシアの名を特別に読み上げることもなかった。
書面との齟齬は、どこにもない。
神官たちは浄化水、包帯、治療薬を引き渡し、七人の無事を願って静かに一礼した。手続きだけを見れば、非難できる点はなかった。
それでも、エルディアスは受け取った薬箱をクラリスへ渡しながら、もう一度天幕を見た。
「次からは、持ってくる物の大きさまで書かせた方がいいな」
「人数だけでなく、演出の内容もです」
リュシアが答える。
「祈祷自体はまともだったわ」
セルマが装備に残る光を指でなぞった。
「だから余計に質が悪いのよ。必要なことへ、余計なものを混ぜている」
「物資に罪はない」
ニルスは浄化水の瓶を荷物へ収めた。
「次も貰えるなら貰うけど、信用はしない」
「全員、同じ意見みたいだな」
ラウルが白い天幕へ背を向ける。
「祈ってもらった直後に言うことじゃないが、早くここを離れよう」
誰も反対しなかった。
七人は装備を改めて確認し、黒い入口の前へ移動した。
リュシアは濃灰色の外套を外し、畳んで荷物へ収める。第二層の森で枝に引っ掛けないためだろう。青灰色のローブの腰へ剣を差し、鞘の留め具を確かめた。
《暁星》の五人も、それぞれ最後の点検を終える。ガルムは大盾の革帯を引き、セルマは白木の杖に取り付けた触媒を確認した。ニルスは測量縄を巻き直し、クラリスは治療鞄へ神殿から受け取った物資を収める。
「行こう」
ラウルが先頭で黒い入口へ踏み込んだ。続いてガルム、クラリス、セルマ、ニルスが闇の中へ消える。
エルディアスとリュシアも第二層を意識し、黒い入口を通った。
視界を覆った闇が消え、白い照明具に照らされた円形石室が現れる。先に到着していた《暁星》の五人は、中央の転移紋を塞がない位置へすでに移動していた。
七人が転移紋へ乗ると、床に刻まれた線が淡く光った。
次の瞬間、周囲の景色が切り替わる。
天井のある広大な円形広間。中央の転移紋から離れた先には、塔の外へ続く開口部があり、そこから白い光が差し込んでいた。壁際には、前回下りてきた螺旋階段の終わりが見える。
ラウルは外へ続く光へ目を向けた。
「ここからだな」
「ああ」
エルディアスが答える。
七人は広間を横切り、第二層の丘へ向かって歩き出した。




