第113話 見送
職人街へ曲がったところで、金属を打つ音の間から、聞き覚えのある声が届いた。
「そこまで引かなくていいわよ。直ったばかりでしょう」
「引かなければ、緩んでいるか分からん」
「緩んでいなくても、あなたが緩めそうだから言ってるの」
エルディアスが足を止めると、先を歩いていたノンノも振り返った。リュシアは声のする店先へ目を向け、少し笑っている。
開け放した戸の前で、ガルムが大盾の内側を覗き込んでいた。船で曲がった金具は新しいものへ替えられ、留め革も、傷んだ部分だけ色が違っている。背へ回す紐を右手で引いては、店の奥にいる職人へ向け直していた。
セルマはその隣で杖を抱え、直したばかりの盾より、ガルムの左腕の動きを見ている。ラウルは少し離れたところで支払いを済ませていたが、こちらに気づくと顔を上げた。
「ちょうどいい。後で宿へ寄ろうと思っていた」
「盾、もう直ったのか」
「ああ。こいつが何度も持ち方を試すので、受け取るだけのつもりが長くなった」
「背負ってから分かることもあるだろう」
ガルムは答え、留め革へ通していた右腕を抜いた。左腕を深く曲げる時だけ、肩の動きが少し慎重になる。巻いていた布は薄くなっていたが、庇わずに使えるほどではなさそうだった。
店の奥から、職人が手を出した。
「背負う方はそれでいい。腕へ留める方まで緩めるなよ。使えるようにはしたが、引っ張り合うための金具じゃないんだからな」
「分かってる」
「その返事、私もさっき聞いたわ」
セルマが言うと、ガルムは盾を持ったまま彼女を見た。言い返そうとしたところへ職人が革の端を押し込み、話はそこで途切れた。
ラウルは店先から一歩退き、荷車を避けた。三人がこちらへ寄ったところで、エルディアスも道の端へ移る。ノンノは新しい金具へ目を留めていたが、ガルムが盾を背へ回すと、紐を掛けるための場所を空けた。
「腕の具合は、どうですか」
リュシアが尋ねた。
「歩く分には問題ない。しばらく、盾で受けるなとは言われたが」
「しばらく、のところを短くしないでくださいね」
「俺が決めるわけじゃない」
「自分で決めそうだから、言ってるのよ」
セルマが横から付け加えた。ガルムは大盾の位置を直し、腰の片手斧が紐へ引っ掛かっていないか確かめる。受け答えをしながらも、重みは左腕へ載せていなかった。
ラウルはその様子を見てから、エルディアスたちへ向き直った。
「明日、街を出ることにした」
エルディアスは彼を見た。リュシアも顔を戻し、ノンノは店先から通りへ向けかけていた耳を止める。
「三人で?」
「ああ。ニルスとクラリスの故郷を回る。家の者へ、話をしてくるつもりだ」
ラウルは言葉を切り、背負った盾へ目を向けた。
「これを受け取って、今日のうちに残りの支度をする。お前たちにも、出る前に伝えておきたかった」
「ギルドには話したのか」
「これから寄る。持っていく報告の写しも、受け取ることになっている」
リュシアが小さく頷いた。
「私たちも、そちらへ向かうところでした。途中まで、ご一緒してもよいですか」
「もちろんだ」
ラウルが答え、通りへ出た。ガルムが店の奥へ礼を言い、セルマも会釈して続く。六人が並んで歩ける道幅ではなかったので、自然に二人ずつになった。
新しい金具が光を返し、ガルムの肩の後ろで一度だけ揺れた。塔へ向かう時には何度も見てきた背中だったが、明日は別の場所へ向かう。
◇
冒険者ギルドの広間では、依頼板の前に人が集まっていた。
港で荷を運ぶ仕事と、街道の見回り。書き足された条件を指で追っている者の横を、食事の皿が運ばれていく。エルディアスたちは邪魔にならない場所で待ち、ミュリカの手が空いてから受付へ寄った。
「ラウルさん。ご用意できています」
ミュリカは奥の棚から紙の束を取り出した。外側には一枚の厚い紙が重ねられ、折れないよう紐でまとめられている。
「お話しいただいた内容の写しです。二人についての箇所と、皆さんの帰還を確認できる記録を分けています。内容を確かめてから、お持ちください」
「助かる」
ラウルは近くの卓を借り、紐を解いた。セルマも横から読み、ガルムは盾を壁へ寄せてから、反対側へ回った。ノンノはすぐには近づかず、エルディアスとリュシアの傍で待っている。
紙には、ニルスとクラリスの名があった。
船で会ったこと。本人たちから聞いたこと。最後に別れたこと。ラウルは一度読んだ箇所へ視線を戻し、言い回しを確かめてから、ミュリカを呼んだ。
「ここは、もう少し話したとおりにしてもらえるか。船長を倒してから二人が降りるまで、ちゃんと話は通じていた」
指した先には、船内で二人と会話した、と短く記されていた。
「初めから普通に話せたわけじゃない。だが、最後まで何を言っているか分からなかったわけでもない。そこは、分けておきたい」
「はい。順番が分かるように書き足しますね」
ミュリカは紙を一枚受け取り、受付へ戻った。セルマはその背を見送ってから、卓の上へ残った写しを揃える。
「口で話せば、聞かれたところを言い直せるけど。紙だと、ここにある分だけになるものね」
「俺たちが説明するために持っていくんだ。足りないところは、その場で話そう」
ラウルは答えた。言ってから、二人の名が書かれたところへ指を置く。しばらく動かさずにいたが、やがて手を離し、紙を元の順へ重ね直した。
ミュリカが戻ると、書き足された一節を三人で確かめた。ガルムも身を屈め、文字を追ってから頷いた。
「これでいい」
「明日は、朝にお発ちになるのですね」
「ああ。初めの宿場までは、馬車を使う」
「連絡があった時は、こちらでお預かりします。皆さんからも、便のある場所で行き先を知らせていただければ」
「そうする。戻る日は、まだ決められない」
「承知しました」
ミュリカは頷き、手元の帳面へ書き留めた。
ラウルが紙を包み直す間に、エルディアスも受付の前へ進んだ。
「俺たちの方には、何か来てるか」
「王都側からの連絡があります。今回の聞き取りは、ひとまず終わりとのことです。補足が必要になった時には、改めてご連絡するそうです」
ミュリカは別の紙を確かめた。
「ハディルへの救援と、その先も含めた調査は、当面、王都の調査隊で進めるそうです。すぐに皆さんへ同行をお願いする予定はない、と聞いています」
「現地の人たちへ、物は届きそうですか」
リュシアが尋ねた。
「道を確かめながら運んでいるところだそうです。詳しい知らせが戻りましたら、お伝えしますね」
「お願いします」
リュシアが頭を下げた。隣で、ノンノも少し息を吐く。エルディアスは受付の奥に積まれた帳面へ目をやり、ミュリカへ頷いた。
「依頼を受けるなら、普段どおりでいいんだな」
「はい。ただ、皆さんも戻られたばかりですから、休む分まで予定を埋めてしまわないようにしてください」
「まだ、何も選んでない」
「エルさんだけに言ったのではありませんよ」
リュシアがこちらを見た。ノンノも、受付の端へ並べられた依頼票から目を戻す。
「今日は、見るだけです」
ノンノが言うと、ミュリカは微笑んだ。
「それでしたら、どうぞ。帰る前に、皆さんでお昼も召し上がっていってくださいね」
◇
昼の皿が下げられた後も、六人はしばらく卓に残った。
広間の向こうでは、依頼から戻った者が荷袋を開いている。乾いた土のついた靴が床を踏み、誰かが椅子の脚を引きずった。船にいる間には届かなかった、街で働く者たちの音だった。
ラウルは包み直した報告を荷袋へ収めた。底へ押し込まず、ほかのものを出さなくても取り出せる位置に置く。その手が止まったところで、エルディアスは尋ねた。
「二人の家には、前にも行ったことがあるのか」
「ある。全員で寄ったこともな」
「なら、家の者も三人を知ってるんだな」
「ああ」
ラウルは答え、袋の口を閉じた。
「だから、顔を見せて話したい。最後に二人と何を話したかも、伝えておこうと思う」
ガルムは空になった器へ目を落としていたが、そこで顔を上げた。
「何から言うかは、着いてみないと分からんな」
「私もよ」
セルマが答えた。
「道を歩いている時は色々考えるんでしょうけど、戸が開いたら、用意していたとおりには言えない気がするわ」
「俺も、うまく話せるとは思ってない」
ラウルは二人を見た。
「ただ、誰か一人で全部話す必要はない。見たことも、覚えていることも、それぞれある。聞かれたら、三人で答えよう」
ガルムは頷いた。セルマも器の脇に置いていた手を重ね、ゆっくり離した。
リュシアは、その間に口を挟まなかった。ノンノも、卓の真ん中へ視線を向けたまま待っている。向こうの席で笑い声が上がり、給仕の者が空いた器を取りに来たところで、ラウルが卓の端へ食器を寄せた。
「ずいぶん、付き合わせたな」
「俺たちも用事はあった」
エルディアスが答える。
「この後は?」
「食料を買う。宿で足りない分を確かめたら、あとは荷を詰めるだけだ」
「私たちも市場へ寄るつもりでした」
リュシアが言った。
「ご一緒してもよいですか。宿へ戻る途中までになると思いますけど」
「もちろん」
セルマが答え、杖を取った。
「今度は、ガルムの買い物を見ていてくれる人が増えるわね」
「俺は、まだ何も買ってないぞ」
「だから、これからの話よ」
ガルムは言い返すために口を開いたが、先にラウルが椅子を引いた。エルディアスも立ち上がり、六人で広間を横切った。
◇
市場へ入ると、海から来る風に、焼いた魚と果物の匂いが混じった。
布を張った店の前には、籠がいくつも並んでいた。通りへ張り出した根菜を避けると、反対側では干した果物を量っている。店主が浅い木皿へ移すたび、小さく縮んだ実が触れ合って、乾いた音を立てた。
ラウルが携行食を選び、セルマが保存の利くものを別の袋へまとめた。ガルムは少し離れた店先を見ていたが、すぐに二人のところへ戻る。
「これは、途中で食えるだろう」
右手には、大きなパンがあった。丸い表面へ深く切れ目が入り、焼けたところから香ばしい匂いがしている。
セルマは受け取り、片手で重さを確かめた。
「途中って、いつまで?」
「明日か、その次くらいまでだ」
「なら、それはあなたが持って。潰れるから、下へ入れないでよ」
「そこまで言われなくても分かる」
ノンノがそのパンを見てから、自分の袋へ目を落とした。リュシアも気づいたらしく、こちらを一度見る。エルディアスは何も言わず、セルマがパンを返すのを見ていた。
ガルムは受け取り直すと、紙で包んでもらい、持ってきた袋の上へ置いた。
「お前たちは、何を買いに来たんだ」
「宿で使う分と、普段の依頼へ持っていくものです」
リュシアが答えた。
「遠征の時とは、量が違いますね」
「そっちは、三人で動くのか」
「当面は。そのつもりだ」
エルディアスが答えると、ノンノが顔を上げた。ラウルもその方へ目を向け、少し頷いた。
「そうか。ギルドへ寄れば、また会えそうだな」
「はい。お戻りになったら、また食事をご一緒しましょう」
リュシアが答えた。店主が次の客へ声を掛けたので、六人は通りの端へ寄った。ラウルが袋を持ち上げ、セルマも買ったものを収める。ガルムはパンを一度出し、包みの角が折れていないか見てから、もう一度上へ載せた。
少し先の店で、ノンノが足を止めた。
干した果物を小分けにしているところだった。薄い布へ包んだものと、量り売りのものが分かれ、店主は客の指した分だけ木皿へ取っている。ノンノは値を確かめ、自分の財布を開いた。
「三つに、分けてもらえますか」
「同じ量でいいのかい」
「はい。あまり大きくなくていいです。歩いている時に、少しずつ食べられるくらいで」
店主は頷き、小さな包みを三つ作った。ノンノが代金を払っている間、エルディアスは隣で待った。リュシアも何も言わず、自分の買ったものを袋へ収めている。
ノンノは包みを受け取ると、先へ進みかけていた三人を呼んだ。
「あの。これ、よかったら持っていってください」
ラウルが足を止めた。
「俺たちに?」
「はい。荷物はもう揃ってると思いますけど、これなら、あまり場所を取らないので」
ノンノは一つずつ差し出した。ガルムが右手で受け取り、セルマも自分の袋を脇へ寄せてから手を伸ばす。
「ありがとう。途中でいただくわ」
「俺は、明日まで待たなくてもいいが」
「ガルム」
「今、開けたわけじゃないだろう」
ガルムは包みを見せ、そのまま袋の口へ収めた。ノンノが少し笑う。ラウルも受け取ったものを掌へ載せ、潰れない場所を選んでしまった。
「道中で食べる。ありがとう」
「はい」
ノンノが頷いた。
市場を出る角で、三人とは別れた。ラウルたちは宿へ戻り、エルディアスたちは、もう一軒だけ店へ寄ることにした。
去っていく三人の背を見てから、ノンノがこちらへ顔を戻す。
「朝、見送りに行ってもいいですか」
「行くつもりだった」
エルディアスが答えた。
「何も言ってませんでしたよね」
「今、決まったんだ」
ノンノはリュシアを見る。リュシアは少し笑い、持っていた袋の口を締め直した。
「私も行きます。馬車の出る場所は、ラウルさんに確かめておきましょう」
ノンノは頷き、もう一度、三人が曲がった方へ目を向けた。
◇
翌朝、街門の内側には、出発を待つ馬車が並んでいた。
車輪の脇で革袋へ水を足している者がいる。御者は馬の鼻先を撫でてから、二頭の間を通る革具を確かめていた。荷台へ積まれた箱には縄が掛けられ、乗る者が持ち込んだ袋は、その手前へ一つずつ収められていく。
エルディアスたちが着いた時、ラウルはすでに御者と話していた。セルマは荷の横で立ち、ガルムは大盾を載せる位置を確かめている。昨日市場で見たパンの包みは、ほかの荷に潰されないよう、セルマの手元へ移っていた。
「早かったな」
ラウルが言った。
「支度が終わっていたので」
リュシアが答えた。ノンノも頷き、馬車の横へ寄る。
「その盾も、後ろに積むんですね」
「膝へ抱えていたら、隣の者が座れん」
ガルムは言い、盾の縁へ厚い布を当てた。御者がそこへ縄を回し、箱と擦れない位置で留める。ガルムは右手で一度だけ押して確かめ、そのまま手を離した。
「乗っている間くらい、腕を休めておけ」
ラウルが言った。
「分かってる」
「今のは、ちゃんと聞いたわね」
セルマがリュシアへ顔を向けた。リュシアは笑って頷いたが、もう一度ガルムへ同じことを言い聞かせることはしなかった。
御者が次の荷を運びに行くと、馬車の脇に少し場所が空いた。
ラウルは自分の袋を足元へ置き、六人で輪になるように立った。昨日は何度も話したはずなのに、出発の支度が済んだ馬車を前にすると、すぐには言葉が出てこなかった。
セルマが先に口を開いた。
「あなたたちは、しばらく街にいるのよね」
「ああ。今のところは」
エルディアスが答えた。
「修道院にも、顔を出そうと思っています。留守の間のお話も聞きたいので」
リュシアが続けると、ノンノも頷いた。
「厨房のお手伝い、またさせてもらえるといいですね」
「それなら、出かける用事には困らなさそうね」
セルマは言い、三人を見た。
「戻った時に、もうほかの街へ行ったなんて聞かされたら、探すところから始めなきゃならないわ」
「出る時はギルドへ伝える。そっちも、行き先が決まったら知らせてくれ」
「そうするわ」
ラウルが、袋の肩紐へ手を掛けた。
「向こうへ着いても、すぐに次へ動けるかは分からん。長く留まることになったら、その時に知らせる」
「待つ人がいるんですものね」
リュシアが言った。
「ああ」
ラウルは頷いた。
「帰りを急ぐつもりはない。向こうで話す時間は、ちゃんと取る」
ノンノは何かを言おうとして、口を閉じた。代わりに、持っていた小さな袋を身体の脇へ寄せ、三人の顔を一人ずつ見る。
「お気をつけて。皆さんで、戻ってきてください」
ラウルはノンノを見た。
「ありがとう。お前たちも、元気でな」
「お前は、無理な使い方をするなよ」
ガルムがエルディアスへ言った。
「何をだ」
「魔法も、自分の身体もだ。船で見た分だけでも、こっちは十分驚いた」
エルディアスは返事を探すように一度黙り、それから頷いた。
「分かった。そっちも、盾が直ったからといって腕まで直ったことにするなよ」
「それは、もう聞いた」
「なら、覚えてるな」
ガルムが少し笑った。セルマも杖を持ち直し、先に乗り込む者へ道を空ける。
御者が三人を呼んだ。
ラウルは荷を持ち上げ、エルディアスの前で一度立ち止まった。
「世話になった」
「こっちも、助けてもらった」
「ああ」
ラウルは答えた。それ以上を言葉にせず、右手を差し出す。エルディアスも手を出し、短く握った。
リュシアとノンノへも挨拶してから、ラウルは馬車へ上がった。ガルムが続き、セルマは最後に手元の包みを載せた。腰を下ろす前に三人の方へ向き直り、手を上げる。
「では、行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃい」
リュシアが答えた。
御者が手綱を取り、二頭の馬が首を動かした。車輪の下で小石が鳴り、荷台へ結ばれた箱が一度だけ軋む。ガルムは揺れに合わせて右手を添え、ラウルも隣の荷を押さえた。
馬車はゆっくりと門を抜けた。
ノンノが手を上げた。セルマが気づき、こちらへ振り返る。隣のガルムも右手を上げ、ラウルは少し身を乗り出すようにして三人を見た。
道には、先に出た車輪の跡が続いていた。
馬車がその跡を辿り、門の外へ遠ざかっていく。ノンノはしばらく手を下ろさず、セルマの顔が分からなくなってから、ゆっくりと腕を戻した。
街へ入る荷車が横を通り、見張りが門の脇へ寄るよう声を掛けた。エルディアスたちも一歩下がり、後ろで待っていた者へ道を空けた。
◇
門を離れてもしばらく、ノンノは歩きながら外の方を見ていた。
通りへ入ると、馬車はもう見えない。朝の荷を店へ運ぶ者が行き交い、窓を開けた家から、掃除に使う水が石畳へ流れてきた。リュシアはその端を避けて歩き、ノンノへこちら側を通るよう手で示す。
「次に会うまで、しばらく掛かるんですね」
ノンノが言った。
「ああ」
エルディアスが答える。
「先へ進む時には、また皆さんと一緒かと思ってました。今度は、王都の人たちの知らせを待つんですね」
「向こうで確かめる人がいる。知らせが来たら、俺たちも聞けばいい」
「はい」
ノンノは頷き、視線を前へ戻した。
「今日、修道院へ行きますか」
リュシアが尋ねた。
「仕事は頼まれてないだろ」
「まずは、ご挨拶に。留守にする前、また戻ったら手伝うとお話ししましたから」
「わたしも行きたいです。まだ覚えていてくれるでしょうか」
「覚えていますよ。前に手伝った時にも、随分頼りにされていたでしょう」
「だったら、嬉しいです。今日は何を作るんでしょうね」
リュシアが少し笑った。エルディアスは二人の会話を聞きながら、通りの先にある店へ目を向けた。
「それなら、行く前に買っておくか」
「何をですか」
「修理に使う紐だ。戻ってから荷袋を見たら、端が擦れてた」
「昨日も、この辺りにいましたよね」
ノンノが尋ねる。
「買い忘れた」
エルディアスが答えると、ノンノは少し笑った。
「じゃあ、先にそちらへ行きましょう。わたしの買ったお店にも、丈夫そうなのがありました」
リュシアも頷き、エルディアスと一緒に通りを曲がった。
店の前では、主人が巻いた紐を軒へ掛けていた。まだ並べ終えていないものもあり、細いものを探していると伝えると、奥から別の束を持ってくる。
エルディアスは一本を手に取り、指で撚りを確かめた。隣へ寄ったノンノが、自分の袋を少し持ち上げ、先日替えた部分を見せる。リュシアは二人が店先を塞がないよう、買い物籠を抱えた客へ場所を空けた。
買うものを決めたら、修道院へ向かう。
その後のことは、まだ決めていなかった。依頼板を見てもいいし、宿へ戻って荷物の手入れをしてもいい。エルディアスは必要な長さを伝え、主人が紐を切る間、袋の擦れた場所へもう一度指を当てた。
通りから名前を呼ばれ、顔を上げる。
リュシアとノンノが、店の脇で待っていた。




