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第108話 惜別

 階段を下りる途中で、ガルムが足を止めた。


 大盾の縁が手すりへ当たり、鈍い音を立てる。先を行っていたラウルが振り向いたが、声は掛けなかった。ガルムは盾を少し持ち上げ、金具の曲がったところを避けるように抱え直してから、残りの段を下りた。


 腰掛けには、まだ二人が座っていた。


 ニルスは膝へ肘を置き、クラリスは小さな袋を両手で持っている。上へ行く前と、同じ姿だった。二人の横には三人分の場所が空き、甲板の灯具が、誰も座っていない板まで照らしていた。


 ガルムが近づくと、ニルスが顔を上げた。


「戻ったか」


 その声で、ガルムの足が止まった。


 今度は、こちらを待って言ったのだと分かった。どこか別の場所の誰かへ返しているのではない。ニルスの目は曲がった盾を見て、それから、抱えている腕へ戻った。


「ひどくやられたな」


「……少し、受けすぎた」


 ガルムが答えた。出てきた声を、自分でも確かめるような間があった。


「持ち手は無事か」


「ああ。金具は直さないと使えんが、まだ持てる」


「なら、先に置けよ。そのまま座ったら、隣まで狭い」


 ガルムは盾を見下ろした。


 言い返す代わりに、腰掛けの端へ立て掛ける。倒れないか一度確かめ、それからニルスの隣へ腰を下ろした。身体の大きいガルムが入ると、三人分に見えた場所は少し狭くなった。


 クラリスが袋を膝の上へ寄せた。


「セルマも。立ったままでは話しにくいわ」


 セルマは彼女を見ていた。持っていた荷袋を足元へ置き、膝を折ってから、クラリスの隣へ座る。最後にラウルが剣帯をずらし、空いたところへ入った。


 五人で詰めると、肩が触れそうになった。


「やっぱり、少し狭いな」


 ニルスが言った。


「お前が、五人なら座れると言ったんだろう」


「座れてる」


「盾を下ろせとまで言われたぞ」


「下ろさなかったら、座れなかった」


 ガルムの口元が動いた。


 笑おうとしたのかもしれなかったが、言葉にはならなかった。ニルスもそれ以上は続けず、前へ向いた。五人の靴が、甲板の上へ並んでいた。


 エルディアスは階段の脇で足を止めた。リュシアも隣へ立ち、ノンノを傍へ促す。二人の護衛は少し離れた手すりへ寄り、調査員も記録板を抱えたまま、その横へ下がった。


 灰色の猫が、積まれた綱の陰へ入っていった。ノンノはその姿を見送り、肩で翅を閉じたニペクへ手を添えた。魔導書を開いて戻す間も、腰掛けの五人からは目を離さなかった。


     ◇


「今度は、話ができるんだな」


 ラウルが言った。


 ニルスは頷いた。クラリスも、袋の口へ触れていた指を止め、彼を見た。


「さっきも、聞こえてはいた」


「そうは見えなかった。何を尋ねても、違うことが返ってきた」


「皆が来たと思ったら、前にもこうして待っていたことまで、一緒に出てきたんだ」


 ニルスは腰掛けの板へ手を置いた。


「同じような場所が、いくつもあったからな」


 ラウルはその手を見た。指も爪も、見覚えのあるものだった。弓を持つ時の形まで思い出せる。今、武器が手元にないことの方が、不自然に感じられた。


 船長の骨と、下りていった人々の顔が、エルディアスの頭に浮かんだ。どの人も、迎えに来た相手を見つけた途端、こちらの声を聞かなくなっていた。


 ニルスとクラリスは、まだここにいる。


 それでも、二人がここにいる理由は変わらない。


「俺たちは、お前たちを探していた」


 ラウルが言った。


「村の中も、外も。一度戻ってから、調査隊にも話した。まだ調べていない場所があるなら、人を集めて確かめるつもりだった」


「ああ」


 ニルスが答えた。


「探してくれたんだな」


「そうだ。だから、この船にいると聞いて……」


 ラウルの言葉が止まった。


 ニルスは続きを促さなかった。クラリスも黙って待っている。船の下で水が鳴り、岸から誰かの笑い声が届いた。


 ラウルは顔を上げた。


「一緒には、帰れないのか」


 ニルスは、まっすぐに彼を見た。


「ああ」


 短い返事だった。


 ガルムが両膝へ手を置いた。指が布へ食い込み、胸が一度大きく上下する。


「下りていった奴らと、同じなんだな」


 ニルスは頷いた。


「俺たちは、あの村で死んだ。だから、セレイスへは帰れない」


 セルマの手が、クラリスの袋へ触れかけて止まった。


 袋の口はきれいに結ばれていた。細かな結び目を作る指は、今も膝の上にある。クラリスはその手を少し動かし、セルマの方へ顔を向けた。


「待たせてしまったわね」


「そんなこと……」


 セルマは首を振った。


「待っていたから、いいの。戻ってきたら、言おうと思っていたことは色々あったけど。今は、そんなことじゃなくて」


 声が途切れると、彼女は一度唇を結んだ。


 クラリスは急がせなかった。セルマがもう一度話せるようになるまで、顔を向けたまま待っている。その待ち方も、知っているものだった。


「帰ってきたら、また五人で食べると思っていたのよ」


 セルマはようやく言った。


「どこかへ座って、何があったか聞いて。ガルムが先に肉を取って、ニルスが文句を言って。あなたは先にお茶を飲んでいるだろうなって」


「ええ」


「ずっと、そう思っていたの」


 クラリスの口元が、少しだけ緩んだ。


「私も、それを思い出していたわ」


     ◇


 ガルムは、甲板へ並んだ五人分の靴を見ていた。


「そんなに、よく食ってたか。俺は」


「食ってた」


 ニルスが答える。


「お前の分まで食ったことはないぞ」


「俺が席へ戻る前に、皿を寄せたことはある」


「置く場所を空けただけだ」


「それで、いつもお前の前へ行くのか」


 ガルムが鼻から息を吐いた。今度は、少しだけ笑うことができた。そのまま目を伏せ、膝の上の手を開く。


「……覚えてるのか、そんなことまで」


「覚えてるよ」


 ニルスは言った。


「大きな依頼が終わった日だけじゃない。たいして稼げなかった日も、雨に降られて戻った日も、同じように席を探しただろう。荷を置いて、椅子を寄せて、何を頼むかで揉めて」


「揉めてないわ。相談していたのよ」


 セルマが言った。


「先に頼んでから相談を始める奴がいた」


 ニルスが彼女を見ると、クラリスもそちらへ顔を向けた。


「二皿来てしまったことがあったわね」


「食べたでしょう、結局」


「ガルムがな」


 ニルスの返事に、ガルムが顔を上げた。


「残すわけにいかんだろう」


「だから、最後には丸く収まったのよ」


 セルマはそう言ってから、目元へ手をやった。笑ったせいにするように一度擦り、下ろす。クラリスは何も言わず、自分の膝にある袋を少し抱え直した。


 ラウルは、三人のやり取りを聞いていた。


 どの宿だったかは、すぐには決まらなかった。同じようなことが何度もあり、そのたびに違う卓を囲んでいる。依頼を終えれば必ず上等なものを食べられたわけではない。保存食で済ませ、寝る場所を確かめる方を優先した夜もある。


 それでも、全員がそこにいた。


「俺は、食事の前にも話をしていたな」


 ラウルが言った。


「次にどう動くかとか、道具が足りるかとか。座ると、お前らがどこへも行かないから」


「腹が減ってる時は、先に食わせてくれとは思った」


 ニルスの返事に、ラウルが小さく頷いた。


「聞こえてなかったわけじゃない」


「分かってる。飯が来れば、終わりにしてた」


「全部、話し終えたことにしてたんだ」


 今度は、ニルスが笑った。


「じゃあ、俺たちは何度も、お前の話を最後まで聞いてなかったんだな」


「それでも、次の日には動けた」


「なら、足りてたんだろう」


 ラウルは返事をせず、一度うつむいた。剣帯へ触れていた手を膝へ戻す。しばらくして顔を上げると、ニルスはまだこちらを見ていた。


「もっと、こうしていられると思っていた」


 ラウルの声は、さっきよりも低かった。


「ああ」


「次があると思ってたんだ。話しそびれても、聞きそびれても、そのうちまた同じ卓へ座るから」


 ニルスは頷いた。軽く返せる言葉を探したり、冗談へ変えたりはしなかった。


 クラリスが、少しだけ身を乗り出した。


「話しそびれたことは、私たちにもあるわ。でも、覚えているのは、何も言えなかった時のことばかりではないの」


 彼女は五人の間を見た。


「言わなくても分けてくれたものも、黙って待っていてくれたことも、ちゃんと覚えている」


 ガルムが、鼻を押さえた。


「……そういうことを、今言うな」


「今なら、聞いてくれるでしょう」


 クラリスの声は穏やかだった。


 ガルムは手を下ろしたが、すぐには顔を上げなかった。


     ◇


 エルディアスは、五人から少し離れたところに立っていた。


 森で野営した夜も、似たように話していた。盾を近くへ置いたガルムにセルマが何か言い、ニルスが横から記録すると言った。クラリスが食べ物を分け、ラウルは次に備えていた。


 その時は、それが最後に残るものになるなどと考えなかった。


 ニルスが顔を上げた。


「二人も、こっちへ来ればいい」


 エルディアスは腰掛けの前へ進んだ。リュシアも隣へ並ぶ。ノンノは一歩後ろに残ったが、クラリスがそちらへも目を向けた。


「あなたは、さっき一緒にいた方ね」


「ノンノ・ミーゴです」


 ノンノは背を伸ばした。


「今は、エルさんとリュシアさんと、一緒に依頼を受けています」


「そう。ノンノさん」


 クラリスは名を確かめるように呼んだ。ノンノは頷き、何かを続けようとしてから、口を閉じる。クラリスはそれを待たずに問いかけたりせず、小さく笑って視線を戻した。


 リュシアが、二人へ頭を下げた。


「また、お話しできてよかったです」


「俺もだ。あのまま会えないかと思った」


 ニルスが答えた。


 エルディアスは、彼の指を見た。森を歩いた時に目印を残していた手だった。その印を辿り、本人のいない道を使って塔へ戻った。


「お前の印で、帰れた」


 ニルスが顔を上げた。


「森のか」


「ああ。ラウルが、一つずつ確かめてた」


 ラウルは何も言わなかった。ニルスが彼を見ると、一度だけ頷いた。


「なら、つけておいてよかった」


 ニルスはそう言った。


「帰る時に使えればいいと思ってたからな」


 エルディアスは頷いた。誰が使うかまで考えていたわけではないだろう。それでも、使えた。あの森を抜けた者の中には、その印が必要だった者がいる。


 クラリスがリュシアの剣へ目を向けた。


「二人とも、怪我はないのね」


「はい。今の戦いでは、ありません」


「それならよかった。後ろの方は、肩を押さえていたけれど」


「後で、傷を確かめます。布を巻いて、血は止まっています」


 リュシアが答えると、クラリスは頷いた。自分がすぐ立ち上がって診ようとはしなかった。膝の上の袋へ手を置いたまま、護衛のいる方を一度見ただけだった。


「一緒に歩けて、よかったわ。二人とも」


 クラリスが言った。


 リュシアは一度口を開き、言葉を選ぶように閉じた。エルディアスもすぐには返さず、森で七人が並んでいた時のことを思い出した。


「こちらこそ」


 リュシアは、そう答えた。


     ◇


 岸の方で、灯りが一つ増えた。


 桟橋の先にある建物の戸が開き、中の明かりが通りへ漏れている。出てきた男が戸を押さえ、こちらへ片手を上げた。誰かを急かすような振り方ではなく、見つけた相手へ知らせる動きだった。


 ニルスがそちらを見た。


 クラリスも顔を上げ、膝の袋を抱き直す。


 セルマはその動きを見てから、岸へ目を向けた。窓の奥で人が動き、卓を囲むように灯りが揺れている。遠くて言葉までは聞き取れなかったが、誰かが笑っていた。


「そこへ、行くのね」


 セルマが言った。


 クラリスは頷いた。


「私たちが帰りたかったのは、皆で過ごしていた時なの」


「どの日だ」


 ガルムが尋ねた。


 ニルスは少し考え、首を横へ振った。


「一つの依頼のことだけじゃない。皆で戻って、荷を置いて、ようやく飯にできると思う。明日になれば、また何かあるだろうけど、その前に少し座っていられる」


 彼は隣の四人を見た。


「そういう時が、何度もあっただろう」


「ああ」


 ガルムが答えた。


「そこへ、帰りたいと思った」


 クラリスも、腰掛けの板へ視線を落とした。


「皆が来たら、思い出しているだけじゃなくて、もう一度お話ししたかった。それで、待っていたの」


 セルマが彼女の顔を見た。


「私たちも一緒に、とは言わないのね」


 クラリスは少し眉を下げた。


「あなたたちは、まだ帰れるでしょう。セレイスへ」


 セルマは唇を開きかけたが、言葉にはしなかった。膝の上で手を握り、ゆっくりほどく。


 船長は、ここで終わりにすればよいと言っていた。


 クラリスは、そう言わなかった。


 ラウルが、顔を上げた。


「俺たちは、戻る」


 短く言ってから、もう一度二人を見た。


「戻って、報告をする。待たせている者もいる。道具を直して、怪我を治して、その先のことは、それから考える」


 ニルスは頷いた。


「そうしてくれ」


「……ああ」


 ラウルは答えた。自分たちが戻るという言葉を口にすると、それだけで、隣の二人を同じ場所へ連れていけないことが、改めて形になった。


 しばらく誰も立たなかった。


 ニルスは待っていた。クラリスも袋を膝へ置いたまま、四人の靴へ自分の靴を揃えていた。急がなくてよいと言った時と、同じように。


     ◇


 先に立ったのは、ラウルだった。


 剣帯を直し、腰掛けから少し離れる。続いてガルムが膝へ手をつき、身体を起こした。盾へ手を伸ばしかけたが、そのままにして二人へ向き直った。


 セルマも立った。


 クラリスが腰を上げると、その腕へ手を添える。ほんの短い間だけ触れてから、指を離した。何かを確かめようと強く握ったり、引き留めたりはしなかった。


「また、五人で座れたわね」


 セルマの声が、少し掠れた。


「ええ」


 クラリスが答えた。


「ちゃんと、話せた」


「足りないことは、あるけど」


「私もよ」


 クラリスが笑った。セルマはそれを見て、目元へ手をやらずに頷いた。


 ガルムはニルスの前へ立ったまま、しばらく口を開けなかった。ニルスも何も言わずに見上げている。


「お前が戻ったら、文句を言うつもりだった」


「何の」


「勝手に、いなくなるなと」


 ガルムは言った。


「探してもいないし、呼んでも返事をしない。どこまで行ったのかも分からない。……言う相手がいないまま、ずっと考えてたんだ」


 ニルスは顔を伏せなかった。


「悪かった」


「お前が謝るな」


 ガルムの声が大きくなり、そこで止まった。口を結んで一度息を吐く。次に話した時には、もう声を抑えていた。


「謝ってほしかったんじゃない」


「ああ」


「会いたかっただけだ」


 ニルスは、ゆっくり頷いた。


「俺も、会えてよかった」


 ガルムは顔を上げたまま、目を閉じた。それからニルスの肩へ手を置き、一度だけ強く押さえた。上へ行く前には途中で止まった手が、今は肩まで届いていた。


「……ちゃんと、帰れよ」


「ああ」


 ニルスは答えた。


 ラウルが、二人の前へ進んだ。何かを伝える時には、いつもこちらを見てもらってから話す。ニルスもクラリスも、自然に彼へ顔を向けた。


 だが、言うことは決められなかった。


 気をつけろも、荷を忘れるなも、今は違った。次の依頼の話はなく、どこで待ち合わせるかを確かめることもできない。


 ラウルは二人を見て、短く頭を下げた。


「今まで、ありがとう」


 ニルスの口元が動いた。クラリスは袋を持つ手を重ね、そのまま頷いた。


「こちらこそ」


 ニルスが言った。


「一緒にやれて、よかった」


 ラウルは顔を上げた。すぐには返事ができず、一度頷いてから、二人の進む場所を空けた。


     ◇


 乗船路には、もう列がなかった。


 綱の張られた先をニルスが歩き、クラリスが隣へ並ぶ。甲板へいた時と同じ速さで、板を一枚ずつ踏んでいった。誰も追わず、九人は手すりの傍へ寄って見送った。


 桟橋の先で、戸口の男がもう一度手を上げた。


 ニルスも手を上げた。クラリスが何か言い、二人で笑う。男は戸を大きく開け、中へ顔を向けて誰かを呼んだ。


 明かりの奥から、また人影が動いた。


 セルマは手すりへ指を置いた。白くなりかけた指先の力を抜き、掌を板の上へ載せ直す。二人はもう、こちらを振り返らなかった。迎えられた場所で顔を上げ、開いた戸へ進んでいる。


 クラリスの横顔が見えた。


 笑っていた。


 ニルスが戸を押さえ、クラリスを先に通す。中から誰かが声を掛けたらしく、彼も口を動かし、肩を揺らした。


 戸の内側へ、二人の姿が重なった。


 ガルムは手を上げていた。届く距離ではなくなっても、下ろせずにいる。ラウルも、セルマも、明かりのある戸口を見ていた。


 人影が奥へ入ると、開いていた戸がゆっくり戻った。窓の明かりは残り、その向こうで動く顔は、もう見分けられなかった。


 ガルムの手が、少しずつ下りた。


 誰も、二人の名を呼ばなかった。


     ◇


 エルディアスが手すりを離れた時、ラウルたちはまだ岸を見ていた。


 急がせる理由はなかった。船長を倒した後も船は停まり、甲板の灯具も消えていない。戻る道がどこにあるかも、これから確かめなければならない。それでも、今すぐ歩き出させる必要はなかった。


 リュシアは傍の腰掛けを見た。


 五人で詰めていた場所には、もう誰も座っていない。ガルムの盾だけが端へ立て掛けられ、板の上にはクラリスが袋を置いていた跡もなかった。


 ノンノは何かを言いかけ、三人を見て口を閉じた。そのまま少し離れ、護衛の肩へ巻かれた布が緩んでいないか確かめる。


 ラウルが、最後に岸から目を離した。


 ガルムは一度鼻を擦り、腰掛けの端へ歩いた。大盾を持ち上げ、曲がった金具の位置を見てから、抱え直す。


「……これも、直さないとな」


 誰へ言うともなく漏れた言葉だった。


 セルマがその横へ立った。


「そうね」


 彼女も岸を振り返らず、足元に置いていた荷袋を拾う。ラウルは二人を見てから、エルディアスたちへ顔を向けた。


「少し、休ませてくれ。その後で、船を調べよう」


「ああ」


 エルディアスは答えた。


 三人は、空いた腰掛けへ戻った。今度は間を詰める必要がなく、ガルムは盾を脇へ置き、セルマも荷を下ろした。


 ラウルは座ってから、隣の二人を見た。


「戻ったら、飯を食おう」


 ガルムが顔を向ける。


「三人でか」


「皆でだ」


 ラウルはエルディアスとリュシア、それからノンノたちを見た。


「報告も、修繕もある。その前に、一度座ろう」


 セルマは少しうつむき、頷いた。


 ガルムも頷いて、膝へ両手を置いた。


 船の下では、まだ河が流れていた。


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