↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
107/118

第104話 拒絶

 板から抜けた指は、今度は床すれすれを走った。


 船長の右腕はまだ舵輪の傍にある。それなのに、白い指先だけがラウルの足元まで届こうとしていた。関節と関節の間が異様に開き、その隙間を繋いだ黒い筋が、骨を離さず引き伸ばしている。


 リュシアは前へ踏み込まず、剣の腹を斜めに当てた。指を止めようとせず外へ流すと、その先で床が細く削れる。ガルムは削られた場所へ大盾の下端を落とし、伸びた骨を上から押さえた。


「下がれ。足元を狙ってる」


 ラウルが退いたのを確かめ、ガルムは片手斧を振り下ろした。刃が関節へ食い込み、折れた一本が盾の下で跳ねる。だが、彼はそれを追わなかった。盾を前へ押し出しながら半歩退くと、横から回った別の指が、今まで脇腹のあった場所を通った。


 リュシアの剣がその根元を斬る。落ちた骨が床へ乾いた音を立てたところで、背後から護衛の叫びがした。


「戸がもたない!」


 開けていた戸が、男の肩を押している。外から誰かが押しているのではない。戸そのものに閉まろうとする力が掛かり、足を突っ張った靴が少しずつ滑っていた。


 エルディアスは杖を返し、土の術式で戸の下へ低い楔を作った。厚みを増したところで固めると、戸の下端が噛み込み、男の肩から圧が抜ける。


「足を抜け。挟まれるぞ」


 護衛はすぐに身体を離した。戸は楔のところで止まっていたが、開いた隙間を見た男は、もう一度戸枠へ手を掛けた。そこにあるはずの階段が、見えなかった。


 暗い板壁が、すぐ向こうを塞いでいる。男は顔を近づける前に手を伸ばし、掌でその面を確かめた。


「……壁だ。外へ出られん」


「叩いて壊せるか」


 ラウルが尋ねると、男は剣の柄を当てた。だが、板を打つ音さえしなかった。こちら側の戸枠だけが小さく震え、柄を握る手へ、鈍い抵抗が戻ってくる。


「駄目だ。見た目は板だが、手応えが違う」


「離れろ。二人でノンノと調査員を守ってくれ」


 ラウルは船長へ顔を戻した。手袋を失った骨の指が、もう舵輪へ掛かっている。こちらの足元を狙った腕も、黒い筋を縮めながら元の長さへ戻りつつあった。


「出入口を塞いだのは、あんたか」


「まだ、お決めになっていません」


 歯の並んだ顎が動いた。顔だけが骨へ変わっても、話し方は案内をしていた時と同じだった。


「お帰りになる場所を、お選びください」


「帰る場所は、あんたに決めてもらうものじゃない。選べと言われても断る」


 返事の代わりに、船長の左手が舵輪を回した。


 ガルムの足元が沈んだ。床が傾き、荷袋が後ろから滑ってくる。調査員が壁へ手をつき、護衛がその身体を支えたが、窓の向こうの灯りは動いていなかった。河の水面も岸壁も同じ高さにあるまま、操舵室の中だけが斜めになっている。


「こっちへ寄れ!」


 ガルムが盾を立てた。正面から伸びた骨が、その表を叩く。一度ではなかった。指が別々の高さから突き出され、縁を越えようとするたび金具が鳴った。ガルムは盾の角度を変え、受けた力を下へ逃がそうとしたが、傾いた床では踵が止まらない。


 エルディアスはその靴の外側へ、もう一つ楔を置いた。踏ん張る足が止まったのを見てから、リュシアへ意識を向ける。


 ――肘を落とす。戻る場所を空けてくれ。


 ――右へ戻れ。


 リュシアは盾の横を抜けた。指がガルムを押している間に、その腕の内側へ入り、上着の袖ごと肘を斬る。白い腕が落ちるより早く、エルディアスの風が横から当たった。


 腕は舵輪の下へ戻らず、窓際まで弾かれた。リュシアは切っ先を引き、伝えられた右へ退いている。彼女を追った左手の指は、すでに身体のないところを通り過ぎた。


 船長は失った腕を見なかった。舵輪を握る左手の下で黒いものが動くと、窓際の骨が床を擦り始めた。袖から細い筋が伸び、落ちた腕を引いている。


「戻るぞ」


 ガルムが斧を構えたが、エルディアスはその前に杖を向けた。


「待て。引いてるものがある」


 黒い筋へ短い火を走らせる。焼けたところで腕は床へ落ち、指も動かなくなった。だが、空になった袖口の奥では、別の白いものが伸び始めていた。焼き切った腕は窓際に残ったまま、新しい骨が形を作っている。


     ◇


「切れたところを火で止めれば、戻る方は防げそうね」


 セルマは窓際の腕と、作られ始めた腕を見比べた。両方を止められたと思っている顔ではなかったが、少なくとも落ちた方は動いていない。


「今は止まってる。次も筋を狙ってくれ。床へ火を残すなよ」


「こんなところで広げないわ」


 セルマが杖を上げる。ガルムは盾を構え直し、リュシアはその脇から少し離れた。ラウルは二人の間を見通せる場所へ移り、舵輪に残った左手を見た。


「俺が左手を止める。その間に、輪から離せるか」


「手を斬る」


 ガルムが短く答えた。ラウルは頷き、次にリュシアを見る。


「横から回れるか」


「はい。ただ、床がまた動きます」


「合図する。それまでは無理に近づくな」


 船長の顔が左へ動いた。ノンノと調査員のいる方だった。輪へ掛けた指が絡み、肩が上がるのを見て、エルディアスは先に杖を振った。


 ――後ろへ来る。内側から流せ。


 リュシアが床を蹴った。エルディアスはその足へ風を添え、彼女が盾の前を横切る分だけ速める。骨が伸びきる前に剣が下から入り、狙われていた護衛が構える頃には、指先はもう頭の上を通っていた。


「今だ!」


 ラウルの雷が船長の左肩を打った。上着の襟が跳ね、舵輪へ掛かっていた指が開く。その手首へ、ガルムの片手斧が横から入った。


 骨が砕け、手が輪へ残る。セルマの火は、腕と手の間に現れた筋を狙った。赤く縮れたところへリュシアが入り、船長の肋骨の間へ剣を突き込む。


 胸を通った刃は、そのまま背へ抜けた。


 止まらなかった。生きたものを刺した時のように身体が崩れることも、腕の力が弱まることもない。リュシアはすぐに剣を引き、身を低くした。頭の上を通った左腕の先では、砕いたばかりの手がもう作り直されている。


 ――戻る。


 ――足元を空ける。


 エルディアスは残った火を止め、水を薄く流した。燃え残った筋を床へ貼りつかせ、その上を風で払う。彼女が足を置く場所だけが乾くと、リュシアは迷わずそこへ退いた。


 ガルムも盾で身体を押し返し、斧を引いて離れた。その間に新しい手が揃い、輪に残っていた古い手は、木の縁へ沈み込むように消えていった。


「焼いたわよ。今度は、確かに切ったところを焼いた」


「見てた。切った手とは別に、輪の方から作ってる」


 エルディアスが示すと、ラウルも舵輪を見た。骨の消えた木には焦げ跡さえなく、握りの一本へ、もう新しい手が掛かっている。


「なら、先に輪を壊す」


「船の舵よ」


 セルマが言った。エルディアスは一度だけ窓の外を見た。岸壁は変わらずそこにあり、床を傾けられた分だけ、こちらの立ち方が不自然になっていた。


「あれを回して動いてるのは、この部屋の方だ。少なくとも、普通の舵じゃない」


「壊してこいつが止まるなら、俺は壊す」


 ガルムは持ち手を握り直した。エルディアスはすぐに行かせず、リュシアを見た。


 ――借りるぞ。


 返事を待たず、左手薬指からオドを引き入れる。何度も楔を作り、風を送り、火を切り替えた身体へ、彼女の力が流れ込んだ。目の前には船長だけでなく、前を受ける三人と、その後ろで動けずにいる者たちがいる。大きな術式を一つ放って済む場所ではなかった。


「ガルムは、まだ受けてくれ。ラウルはさっきと同じ肩だ。セルマは筋だけ焼け」


「あなたも、私の火を全部消さないでよ」


「戻る足場だけ空ける」


 エルディアスはリュシアの剣へ火を付与した。刃の縁へ赤い光が走る。彼女は確かめるために目を落とさず、船長の右腕を見ていた。


 ――俺の左から回れ。輪の奥に何があるか見る。


 ――分かりました。


 船長の顎が開いた。


「争われる必要は、ありません」


 言い終える前に、床がもう一段傾いた。ガルムの踵が楔へ当たり、盾の表を押していた指が、今度は縁を掴んで滑り込んできた。


     ◇


 ガルムはすぐに盾を捻った。骨を引っ掛けたまま下へ落とし、片手斧を上から入れる。指が砕けたところまではよかったが、その欠片が金具へ挟まり、盾の裏で黒い筋を伸ばした。


「ガルム、手を離すな!」


 ラウルが駆け寄り、剣先を盾の裏へ差し込んだ。絡みかけた骨を外へ押す間、ガルムは持ち手から腕を抜かず、盾を前へ突き出す。その上端をリュシアの剣が通り、筋を焼き切ってから、ようやく欠片が落ちた。


「切った骨を残すな。そこからも来る」


 エルディアスの声に、ガルムが頷いた。


「離すと後ろへ通る。切る時は、盾の外へ頼む」


「分かりました」


 リュシアは刃を引いた。その短いやり取りの間にも、船長の手は形を戻している。肘から先へ骨が増え、指が揃い、手首が動く。だが、すぐには伸びてこなかった。作られたばかりの手が輪へ触れた、その直後に腕全体がこちらへ走った。


 ――輪へ触れてから来る。今度は触らせない。


 ――腕を外へ流します。


 エルディアスはリュシアの踏み出す足へ風を添え、すぐに切った。続けて船長の顔の前へ闇を置くと、伸びた指は彼女のいた方へ向かった。剣はすでに反対側から手首へ入り、赤い刃が腕を持ち上げている。


「ガルム!」


 ラウルが呼ぶ。ガルムは斧を入れたが、舵輪へ届く前に、船長の左手が柄を掴んだ。引き合えば止められる。ガルムは斧を戻さず、盾とともに身体を押し込み、掴んだ腕ごと船長を前へ押した。


 盾の上へ頭が出た。ラウルの雷がそこへ落ち、帽子が跳ねる。頭骨の横が砕け、外れた顎が襟へ引っ掛かった。


 それでも、斧を掴む手は緩まなかった。


「離れろ、ガルム!」


 エルディアスは柄を掴んだ骨へ、横から風を当てた。手首の向きが変わり、開いた指から斧が抜ける。ガルムが引くのと同時に、リュシアは腕を流した勢いのまま、舵輪の横へ抜けた。


 ――届きます。


 ――一度だけだ。深追いするな。


 剣が輪の縁へ入った。握りの一本が折れ、木片を散らしながら床へ転がる。頭を砕かれた時には踏ん張っていた船長の身体が、そこで初めて大きく揺れた。


 エルディアスは、それを見て足を出した。


 だが、船長の左手はもう輪へ戻っていた。


 リュシアの靴の下で、床が落ちた。


     ◇


 彼女が跳んだのではなかった。足を置こうとした板が下へずれ、その後ろが壁のように立ち上がる。エルディアスは膝をつき、杖先を床へ押し当てた。ガルムの盾が鳴り、ラウルが壁へ肩を当て、後ろでは荷袋の中身が一度に崩れた。


 ――右手、机の脚。


 リュシアが剣を持たない手を伸ばし、机の縁を掴んだ。だが、机も止まっていなかった。固定されていた脚が一本抜け、彼女を引いたまま斜面を滑り始める。


 エルディアスは風を上へ送った。持ち上げるには足りなくても、落ちる速さを緩めれば足を置ける瞬間ができる。机の重みが外れたところで、次を伝えた。


 ――手を離せ。左へ跳べ。


 彼女が机を離し、靴を板へ当てる。エルディアスはその瞬間に風の向きを横へ変えた。リュシアの身体が立ち上がった板を越え、着地した膝が低く沈む。


 船長の指は、その上を通った。


 彼女は身を起こさず剣を当て、骨を窓へ流した。だが、ガラスは割れなかった。触れた指が黒い水面へ沈むように消え、見えている岸壁には何の変化も起きない。


 エルディアスはすぐに目を戻した。あそこも、外へ出られる場所ではない。


「前へ来るな。今、足場を作る!」


 立ち上がった板の根元へ土の術式を入れ、隣の板との間に支えを差す。床全体を元へ押し返すのではなく、途中で受け止め、人が足を置く高さへ揃えた。


「そこの出っ張りを踏め。一人ずつだ」


 護衛が調査員の腕を支え、もう一人が先に安定した場所へ移る。ノンノも続こうとしたが、倒れた机の下で動く灰色のものに気づいて足を止めた。


 猫が取り残されていた。毛を逆立て、滑る板を掻きながら、上がる場所を探している。


 ノンノは魔導書を開き、肩のニペクへ目を向けた。精霊は机の下へ回り、灰色の背へ鱗粉を落とす。猫の耳がこちらを向いたところで、ノンノは机の上を見た。


「そこへ上がって。そこからなら、こっちへ来られます」


 猫が天板へ乗り、脚を縮めて跳んだ。調査員が広げた外套へ爪が掛かり、そのまま内側へ潜り込む。ノンノはすぐに使役を解き、ニペクを戻してから、自分も護衛の傍へ移った。


 直後に、机の天板が弾けた。


 その下から伸びた骨が、さっきまで猫のいた場所を突いていた。護衛が剣を振って斬り払ったが、続いてきた一本が肩を掠める。男が息を詰め、裂けた上腕の布へ血が滲んだ。


「動けるか!」


「動ける。浅い」


「無理に振るな。盾で受けろ」


 ラウルの言葉に、男は短く答えた。身体を横へ向け、もう一度調査員の前へ立つ。その足元でも、板の隙間から細い骨が増え始めていた。


 エルディアスは前と後ろを見比べた。船長の頭は作り直されている。だが、床から出ているものは、その身体から伸びた腕ではなかった。


「折れた木からも、出てます!」


 ノンノが指した。窓際へ転がった握りが、板を掻いて動いている。そこから出た筋が床の隙間へ入り、別の場所で骨を持ち上げていた。


「セルマ、その木を止めろ!」


 セルマの火が握りを包んだ。黒い筋が縮れ、木片が動かなくなる。だが、すでに床へ広がった骨は残ったままで、ガルムが盾を低くして押さえなければ、後ろへ通っていた。


「こっちは、いつまで出る!」


「分からん。今、調べる」


 エルディアスは割れた板の間へ水を通した。黒い筋のある場所を濡らし、その後を追ってセルマが火を走らせる。骨の間で細いものが燃えるたび、エルディアスは水を重ね、板へ移りかけた火を消した。


 白い湯気が上がる。動きの鈍った骨を、ガルムが盾で一か所へ寄せた。


「そのまま、右へ押してくれ」


 示された場所へ骨が集まると、セルマが根元へ火を入れた。残っていた黒いものが焼き切れ、今度こそ指が倒れる。護衛の一人が長く息を吐いたが、剣はまだ下げなかった。


 ノンノはその向こうで、エルディアスとリュシアを見ていた。


 彼が杖を左へ向けると、彼女は右へ下がる。次に杖が上がった時には、もう落ちた骨を避けて前へ進んでいる。叫ぶ時はほかの者へ知らせる時だけで、二人の間では合図らしい言葉が聞こえない。


「……いつ、決めてるんですか」


 傍の調査員にだけ届く声だった。調査員も顔を向けたが、答えはなかった。リュシアの退く場所は、退き始める前から空けられていた。


     ◇


「盾の腕を休ませろ。俺が前に入る」


 ラウルがガルムの横へ立った。


「まだ受けられる」


「握り直してただろ。今のうちだ」


 ガルムは一度ラウルを見てから、盾を少し引いた。持ち手を握った指がすぐには開かない。エルディアスは光を送り、肩から腕へ薄く付与した。受け続けた衝撃が消えるわけではないが、強張りが緩むと、ようやく指が動いた。


「助かる」


「ずっと受けるな。次は、そっちへ戻さない」


 エルディアスは舵輪を見た。頭も腕も戻っているのに、焼いた握りは床で止まり、輪の欠けたところもそのままだ。壊す場所を選べば、少なくとも残るものはある。


「輪は戻ってない。もう一度届かせる。斧を入れたら、追わずに離れろ」


「一撃ずつだな」


「ああ。床が動く前に戻る」


 ラウルが頷き、ガルムが盾を持ち上げた。リュシアは二人の横へ立ち、作り直された右手を見ている。


 ――右手を外へ流す。火は、斧へ回してくれ。


 ――斬り落とさず、輪から離しておけ。


 剣の赤い光が消え、ガルムの片手斧へ移った。リュシアは骨の下へ刃を当て、手首を上へ逃がす。同時に、ラウルの雷が反対の肩を打った。


 ガルムは盾の陰から斧を入れた。二本目の握りが折れる。追わずに引き、盾を身体へ寄せたところで、床が傾いた。


 エルディアスの風が背を押した。ガルムの足はもう元の場所を離れ、リュシアも横へ抜けている。白い指が突き刺さった場所には、誰も残っていなかった。


 セルマが落ちた握りを焼いた。


「これなら、続けられるわね」


「同じ形を、何度も使わせてくれればな」


 エルディアスが答えた時、船長は彼を見ていた。両手が輪へ戻り、今度は逆向きへ回る。


 床は傾かなかった。


 壁際にいた護衛が、肩を押された。振り向くと、固定されていた棚ごと壁が近づいている。男はノンノの前へ腕を出し、調査員とともに中央へ寄せた。


 壁は倒れた机へ触れても止まらなかった。天板が潰れるのではなく、端から壁の中へ沈んでいく。骨の欠片も、荷からこぼれた布も、触れたものから消えていた。


「真ん中へ寄れ! 壁に触るな!」


 ガルムが盾を向けかけ、エルディアスの声で引いた。土の楔を二つ置いても壁は止まらず、固めた土がそのまま埋まって消える。力で押しているのではなかった。


 戸と楔は後ろへ残っているのに、その両脇だけが狭まっていた。


「広がれなくなったな。後ろを狙われたら、庇うしかなくなる」


 ラウルが言った。エルディアスは杖を握り直し、近づく壁と船長の間を見た。さっき空けた道も、横へ抜ける場所も、もう使えない。


「ああ。同じやり方は、終わりだ」


 船長は両手を輪から離した。壁はそこで止まったが、人が並べる場所はわずかしか残っていない。ラウルが後ろへ目をやり、ガルムが盾を中央へ立て直した。


「ガルム、そこから動くな。リュシアは、俺の前へ」


 二人が位置を変える間、エルディアスは左手を軽く開き、流れ込むオドを確かめた。目の前には、倒しても戻る身体がある。その奥へ入る道を、今度はこちらから作らなければならない。


 白い指が、狭くなった床を埋めていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。