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第40話 坂道のパノラマ 送電線の向こう側に…

最後まで読んでくださると嬉しいです!

サンライズの号外が巻き起こした余韻は、僕たちが想像していた以上に長く、深く、学校中に浸透していった。

昼休みの廊下ですれ違う他クラスの生徒から「あの写真、本当にかっこよかった」と声をかけられることも増え、美歩さんはそのたびに少し照れながら、けれど嬉しそうに俯いていた。


そんなある日、広報委員会のポストに一通の、地図が丁寧に書き込まれた応募用紙が届いた。

「——ここ、知ってる?」


結衣が広報室の机に広げたのは、吉永第二小学校のさらに上、山側へと続く坂道の詳細なスケッチだった。


「『小学校の横の坂を登りきった場所。送電線が頭の上を横切っていて、そこから見る景色は、まるで空に浮いているみたいです』……だって。佐野くん、ここ行ったことある?」


僕は眼鏡を「くいっ」と直し、記憶の中の富士市の地図を検索する。


「吉永二小の上か……。あそこはかなり標高が高い。確かに、視界を遮るものが何もないポイントがあるはずだ」

「よし、今回の『特等席』取材はここに決定! ちょうど新緑も深まってきたし、最高のパノラマが期待できそうね」


放課後、僕たち四人は坂の多い吉永北地区を、汗をかきながら登っていた。


「……き、きつい……。二小の子たち、毎日こんな坂登ってたの?」

結衣が膝に手を突き、息を切らして笑う。

「でも、見てよ。登れば登るほど、街が小さくなっていく」


美歩さんは時折足を止め、ファインダー越しではない、生の瞳で刻々と変わる高度を確かめていた。

そして、その場所に辿り着いた瞬間、僕たちの言葉は止まった。


そこは、住宅街が途切れ、茶畑と山林の境界線にあるような、突き抜けた高台だった。


頭上を、巨大な送電線が力強い直線を描いて横切っている。その無機質な鉄のラインが、かえって空の広さを際立たせていた。

「……すごい。街が、海が……あんなに遠くまで」


眼下に広がるのは、富士市の街並みの全景。そしてその先には、太陽の光を跳ね返す駿河湾が、巨大な鏡のように横たわっている。驚いたのはその視認性の良さだ。対岸の伊豆半島の山々が、まるで手を伸ばせば届きそうなほど鮮明に、青いグラデーションとなって重なり合っていた。


「……佐野、見てみろよ。あの送電線が、まるで空を分割するフレームみたいじゃないか?」

原が地面に寝そべるような低いアングルから、鉄塔と空を狙ってシャッターを切る。


「そうだね。人工物である送電線と、雄大な自然の伊豆半島。その対比が、この場所の『景』をより現代的なものにしている。ここを紹介してくれた生徒は、この『境界線』の美しさに気づいていたんだ」


僕はカメラを取り出し、送電線のワイヤーが一点に収束していく消失点の先に、霞む伊豆の影を配置した。


「……佐野くん、私……この景色を見てると、自分がすごくちっぽけに見える。でも、それが嫌じゃないの」

美歩さんが、僕の隣で静かに呟いた。


「この送電線が運んでいる電気が、あの一軒一軒の家を照らして、そこに誰かの生活がある……。そう思うと、この景色全部が、誰かの大切な場所なんだって思えてくるから」


「……優しい視点だね、美歩さんは」

僕たちは、しばらくの間、吹き抜ける山風に吹かれながら、言葉を交わさずにシャッターを切り続けた。

送電線の低い唸り声と、遠くで鳴る踏切の音。

高台からの特権的な景色は、僕たちに「街を見守る」という、少しだけ大人びた視点を与えてくれた。


学校への帰り道、下り坂を歩きながら結衣がメモ帳を閉じた。

「今回のタイトルは決まったわ。『空を区切る青のパノラマ』。どう?」

「いいな。原の撮った鉄塔のアングルと、美歩の撮った伊豆半島の遠景。それを並べれば、最高の紙面になる」

僕はリュックの中で揺れるカメラの重みを感じながら、これからの展開を確信していた。


「特等席」企画は、今や単なる場所紹介を越え、生徒たちの「想い」と「僕たちの技術」を繋ぐ、一つの表現活動へと進化している。

(……次は、どんな景色が届くんだろう)

坂道を下りきったところで振り返ると、夕暮れに染まり始めた送電線の塔が、誇らしげに空を支えていた。


僕たちの「探景」は、一歩一歩、この街の深部へと、そしてお互いの心へと、静かに、けれど確実に踏み込んでいく。


六月の梅雨空が来る前に、僕たちはこの街の光を、一滴もこぼさぬように集め続けよう。

そう心に決めて、僕は眼鏡を「くいっ」と直し、仲間たちの背中を追いかけた。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

別の作品や次の話も是非見てみてください!

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