第36話 広報委員長からのゴーサイン 広がる探景の輪
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翌、火曜日。
放課後、西日が差し込む南校舎にある広報委員会の活動場所。
普段は静かなこの部屋が、今日は少しだけ熱を帯びていた。
「……なるほど。『僕らの街の、特等席』か。これ、すごくいいじゃない」
そう言って、机に広げられた企画書をトントンと指で叩いたのは、三年生の広報委員長だった。厳格な性格で知られ、妥協を許さない彼女からの言葉に、原と結衣の背筋がピンと伸びる。
「富士市の景色なんて、みんな見慣れていると思ってた。でも、『自分だけが知っている場所』という切り口なら、生徒一人ひとりの物語が見えてくる。……何より、あなたたちの撮る写真は、ただの記録じゃなくて『体温』を感じるのよね」
委員長は、僕たちがこれまでに撮り溜めていたサンプル写真を一枚ずつ眺めながら、満足そうに頷いた。
「この企画、正式に広報委員会のメインプロジェクトとして進めようじゃないか。全校生徒にアンケートを募るための掲示物も、作ってくれれば、先生に印刷のお願いとかは、できるから言ってね。」
「……やった、委員長に褒められた!」
委員会の活動教室を出た途端、結衣が廊下で小さくガッツポーズを作った。原君もどこか得意げな顔をして、僕らのほうへと歩いてきた。
「あんなに真剣な顔で写真を見てくれるなんて思わなかった。……ねえ、佐野くん、これって私たちがやってきたことが認められたってことだよね?」
「ああ。僕たちの『探景』が、単なる遊びじゃなくて、学校の、あるいは街の価値を再発見する活動として成立したんだ」
僕は眼鏡を「くいっ」と直し、窓の外を眺めた。
そこには、いつも通りの工場の煙突と、少しずつ青みを増していく夕空。
けれど、これからはこの街の至る所に、生徒たちが教えてくれる「特等席」が芽吹いていく。
「広報委員長があそこまで言うんだ、外すわけにはいかねえな。佐野、美歩。お前らの協力も、これまで以上に頼むぜ?」
原が僕の肩を叩き、美歩に視線を送る。
「……うん。……私にできることなら、何でも。……みんなの『綺麗』を、ちゃんと形にしたいから」
美歩は少し照れながらも、カメラバッグをぎゅっと抱きしめた。
2日後の朝から、昇降口の掲示板には大きなポスターが貼り出された。
【あなたの『特等席』を教えてください】という文字の横には、僕たちが沼津や富士宮、富士で撮った写真が数枚、レイアウトされている。
登校してきた生徒たちが、足を止めてそのポスターを見つめる。
「ここ、どこだろう」「あ、私ここ知ってる。家の近所だよ」
そんなさざ波のような会話が、校内のあちこちで生まれ始めた。
(……始まったんだな)
僕は教室への階段を登りながら、胸の高鳴りを感じていた。
自分たち四人だけで楽しんでいた景色が、学校全体、そして街へと繋がっていく。
放課後の理科準備室に集まる理由が、また一つ増えた。
これから届くであろう無数の「特等席」のラブレター。
それを一つずつ、僕たちの感性で丁寧に紡いでいく日々が、今、静かに幕を開けた。
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