第35話 広報委員会 新企画 町の「宝探し」
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五月も始まって早2週間目に入り、雨上がりの湿った空気が、吉永校舎の生垣をよりいっそう濃い緑に変えていた。
昼休みの放送室。マイクの前に座る原のテンションは、いつも以上に高かった。
「——というわけで! 本日から広報委員会による新企画、『僕らの街の、特等席。』の募集を開始します!」
スピーカーから流れる原の弾んだ声に、教室の生徒たちが一瞬、耳を傾ける。
「皆さんが日常の中で見つけた『ここ、景色綺麗だよ!』というスポットを大募集。放課後の帰り道、部活中にふと見上げた空、自分だけが知っている富士市の特等席……。頂いた情報は広報委員が実際に取材し、校内新聞で特集します。皆さんの『お気に入り』を、僕たちに教えてください!」
結衣の明るい「お待ちしてまーす!」という声で放送が締めくくられると、校内はにわかにざわつき始めた。
放課後、理科準備室に集まった四人の顔は、どこか晴れやかだった。
「やったね! 先生たちにも『地域を知るいい企画だ』って褒められちゃった」
結衣が、広報委員会の腕章を誇らしげに叩く。
「これで堂々と、取材っていう名目でいろんな場所に行けるな。佐野、お前の膨大なストック、小出しに提供してくれよ?」
原がニヤリと笑う。
「……もちろんだ。でも、まずは生徒たちからどんな場所が集まるか興味がある。僕たちがまだ気づいていない『富士市の顔』が、他にもあるはずだからね」
僕は眼鏡を「くいっ」と直し、机に置かれた応募箱 (の代わりの生徒会室に転がってた段ボール)を見つめた。これまでは自分たちの足だけで探していた「景」が、これからは「学校中の視点」となって集まってくる。
作業の合間、美歩がふと僕の隣にやってきた。
「……佐野くんだったら、どこを一番に紹介する?」
「……難しいな。潤井川の龍巌淵もいいし、田子の浦の工場夜景も外せない。……美歩さんは?」
美歩は少し考えてから、窓の外に視線を向けた。
「……私は、やっぱり音楽室からの海かな。学校の中にあるのに、あそこだけ世界が繋がっているみたいで……」
「……確かに。あそこは、僕たちの『日常』と『冒険』が混ざり合う場所だね」
二人の間に流れるのは、沼津を共にした者だけが分かる、穏やかな空気。
原と結衣が「おいおい、二人で何内緒話してんだよ!」と茶化してくるが、それすらも今の僕たちには心地よいスパイスだった。
「よし! 第第一弾の取材先、もう決めてあるんだ。応募第第一号は、意外なところだったぞ」
原が取り出した一枚のメモには、僕たちの学区の北にある地名が書かれていた。
「今宮」
(……あそこか。茶畑の緑と、富士山の白が一番綺麗に重なる場所だ)
「……行こう。広報委員の取材に、僕、生徒会と美歩さん、学年委員が『同行』して、記録をサポートする……。これなら大義名分は完璧だ」
「まぁこれ、僕が入れたんだけどね」
そう、原からカミングアウトされた。
「いいんじゃない。原君も1生徒なんだし。」
それぞれの委員会という「役割」を背負いながら、僕たちは再び、同じ景色を目指して歩き出す。
学校中から集まる「お気に入り」を、僕たちのレンズでどう現像するか。
富士市の街全体が、一冊の大きな「写真集」になろうとしていた。
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