第34話 5月の雨
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ゴールデンウィークが明けた金曜日。
活気に満ちていた富士市の街並みが、しっとりとした雨の色に染まった。
連休中のまぶしい太陽が嘘のように、空には厚い雲が垂れ込め、富士山もその裾野まで深い霧の向こうに隠れてしまっている。
「……今日は、完全に『お休み』だね」
放課後の理科準備室。窓を叩く雨音を聴きながら、原が少し退屈そうにカメラのストラップをいじっていた。結衣も、広報委員の仕事で校内を走り回ったらしく、少し疲れ気味に椅子に深く腰掛けている。
なんだかんだ、こうやって集まれたのは久しぶりである。
「でもさ、雨の日の工場って、なんだか物語の始まりっぽくて良くない?」
結衣が窓の外、霧に煙る煙突を指差した。
「……分かるよ。雨粒がレンズについても、それはそれで『景』になるしね」
美歩さんが、手元のタブレットで沼津の時の写真を見返しながら相槌を打つ。
僕たちは、雨で外に出られない時間をあえて楽しむことにした。
「……さて。連休も終わって、僕は生徒会、美歩さんは、学年委員、原と結衣は広報委員。いよいよ忙しさが本格化する」
僕は眼鏡を「くいっ」と直し、机に広げた富士市の白地図を見つめた。
「でも、だからこそ、次に集まれる『特別な日』を今のうちに決めておきたいんだ」
「賛成!」と結衣が手を挙げる。
「広報委員の特権で、次はもっと面白い場所の情報を仕入れてくるよ。例えば……雨上がり、水たまりに反射する逆さ富士が見えるスポットとか!」
「お、いいじゃん。俺も放送室のネットワークを使って、撮影ポイントをリサーチしておくわ」
原がニヤリと笑う。
忙しさに流されそうになる日常の中で、この四人で集まる時間は、僕にとっての「避難所」のようなものだ。
ふと見ると、美歩さんが僕にだけ見えるように、タブレットの画面を少し傾けた。そこには、沼津の牛臥公園で僕が撮った、彼女が海を見つめている後ろ姿が映っていた。
「……これ、お気に入り」
彼女が小さく、誰にも聞こえないような声で囁く。
「……そう。……よかった」
僕は短く答えて、再び地図に目を戻した。
窓の外では雨が激しさを増し、富士市の街を深い青色に沈めていく。
けれど、この部屋の中に流れる空気は、外の寒さとは無縁だった。
「……よし。次は六月。紫陽花が咲く頃に、また『本気』の探景をしよう」
「今月は、林間学校という大イベントも待っているわけだし」
僕の言葉に、三人が力強く頷いた。
それぞれの役割、それぞれの場所。
離れていても、僕たちの視線は常に、あの気高く、けれど身近な「富士」の方角を向いている。
雨の音に包まれた準備室で、僕たちは新しい季節の計画を、一歩ずつ現像し始めていた。
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