第29話 終着点と潮騒の牛伏
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蛇松緑道を南下するにつれ、潮の香りは一段と濃くなっていった。住宅街の裏手を抜けるとこの緑道の終着点が見えてきた。
腕木信号機とSLの動輪が展示されていた。
これは、確かにここを昭和48年まで沼津港線、蛇松線が走っていたことを示している。
2人、黙ってその走っていた証を写真に納めた。
緑道をもっと進んだ先には、狩野川が流れている。
「確か、ここが沼津港線の旧線跡、廃止になるときまで走っていたルートは、別だったはず。」狩野川のある方向を少し見つめながらいった。
「じゃあ、その廃止になるときまで走っていたそのルートを探しに行こうか!」
「うん」
そういって、もと来た道を進み始めた。
蛇松緑道お祭り広場。
その場所で、僕たちは「それ」を見つけた。
「……あ、見て、佐野くん。地面に何か埋まってる」
美歩さんが指差した足元。アスファルトの隙間から、二本の鉄の筋が不自然に顔を出していた。
「……レールだ。そのまま残ってるんだね」
そこには、かつての沼津港線の末端部分が、まるで忘れ去られた遺構のように放置——あるいは保存されていた。錆びついた鉄の色が、長い年月の経過を物語っている。
「……本当に、ここを電車が走ってたんだ。ここが終点だったんだね」
「そうだね。このレールの先を見てごらん。あの古びた倉庫に繋がっているだろう? あそこまで直接、貨車を引き込んで荷下ろしをしていたんだよ」
美歩さんは、レールの質感にレンズを向け、何度もシャッターを切った。「放置されているみたいで、少し寂しいけど……でも、ここに鉄道があった証がちゃんと残ってて、なんだか嬉しい」と、彼女は少しだけ微笑んだ。
僕たちは鉄路の終点を見届けたあと、近くのコンビニに立ち寄った。おにぎりとサンドイッチ、それに飲み物を買い込み、少し重くなったリュックを背負い直す。
「次は、川を渡っておまちかねの目的地へ」
「いいよ。海を見ながらお昼いいね。」
沼津港の喧騒を背に、僕たちは、緑道の終点部から見つめた、狩野川に架かる橋を渡った。伊豆半島から流れ込み、駿河湾へと注ぐ大きな川。海風が橋の上を吹き抜け、美歩さんの髪をさらりと揺らす。
さらに歩みを進め、たどり着いたのは牛臥公園だ。
「わあ……広い! 海が目の前だね!」
目の前に広がるのは、穏やかな内浦の海。吉原の海岸とは違い、どこか優雅で静かな時間が流れている。
僕たちは芝生の上に腰を下ろし、買ってきた昼食を広げた。
「……佐野くん、見て。あっちに小さく見えるのが淡島かな?」
「そうだね。その奥には伊豆の山々が連なっている。……沼津は、富士山だけじゃなくて、こうして海と山が溶け合っているのがいいよね」
コンビニのおにぎりを頬張りながら、僕たちはしばし言葉を失って海を眺めていた。
ゴールデンウィーク。少しだけ強くなった日差し。
蛇松緑道の「歴史の緑」から、牛臥公園の「自由な青」へ。
「……ねえ、佐野くん」
美歩さんが、食べかけのサンドイッチを手に、水平線を見つめたまま呟いた。
「学校での委員会とか、いろいろ忙しくなるけど……。今日、こうして沼津まで来てよかった。なんだか、視界がリセットされたみたい」
「……僕もだよ。……さて、食べ終わったら、少し海岸の方も歩いてみようか。そこにも、きっといい『景』があるはずだから」
潮騒の音を聞きながら、僕たちの「探景」は、沼津の深い青色に染まってゆく。
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