第28話 消えた鉄路の記憶 蛇松の道
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吉原駅から揺られること約十五分。
東田子の浦、原、片浜と各駅に停車していった。
列車は「沼津」の駅名標が掲げられた大きなホームに滑り込んだ。
「着いたね、沼津。やっぱり富士駅や吉原駅とはまた違う、独特の活気があるな」
改札を抜け、南口の広場に出ると、美歩さんが大きく背伸びをした。
「本当だね。……あ、私、ここの駅ビル『アントレ』の雰囲気が結構好きなんだよね。なんだか落ち着くというか」
「わかるよ。適度に新しくて、でもどこか懐かしい感じがするよね。……そういえば、沼津駅はこれから大きく変わるんだ。高架化事業が進んでいて、この地上にあるホームも、数年後には高い場所へ移る計画なんだよ。今のこの『地面に近い駅』の姿を撮っておくなら、今のうちだね」
「そうなんだ……。じゃあ、今のうちに一枚撮っておこうかな」
僕たちはそれぞれのカメラを構え、駅舎や駅前の風景を数枚収めた。
広場の一角で、僕の目が一つのモニュメントに留まった。
「……美歩さん、あれ見て。SL(蒸気機関車)の動輪だよ」
「あ、本当だ。大きい……。昔はここも、煙を吐いた機関車たちが主役だったんだね」
重厚な黒い動輪は、かつて鉄道の要所として栄えた沼津の歴史を静かに物語っていた。
「ここは、御殿場線と言う東海道線の旧線の起点駅。沼津は、山登り前の休息所的な意味合いで、機関区がおかれて、栄えてたらしいよ。」
「あー、丹奈トンネルができる前は、ルートが違ったんだっけ?」
「そうそう」
「御殿場方面もいいな…」そう彼女がポツリといった。
「さーて、今日はまず、ここから歩いて沼津港を目指そうと思うんだ。普通の道じゃなくて、ある『特別な道』を通ってね」
僕が案内されたのは、駅の南西から続く「蛇松緑道」だ。
「ここ、ただの遊歩道じゃないんだよ。実はここ、かつての『沼津港線』という鉄道の跡地なんだって。」
「たしか、ここは明治二十一年、静岡県で一番最初に敷かれた鉄道路線の一部なんだよね 東海道線のこの辺りの開業が明治二十二年年ぐらいだから」
「えっ、静岡で一番最初!? 静岡駅とかじゃなくて?」
美歩さんが驚いて眼鏡を直す。
「そう。東海道本線を作るための資材を沼津港から運ぶために、真っ先に作られたのがこの路線なんだ。当時は『蛇松線』という愛称で呼ばれていたらしいね」
緑道に一歩踏み込むと、そこには街中の喧騒とは切り離された、穏やかな時間が流れていた。
四月の初めには満開だったであろう桜は、今は瑞々しい葉桜へと姿を変え、僕たちの頭上に鮮やかな緑のトンネルを作っている。
「……本当だ。道がずっと緩やかにカーブしていて、言われてみれば、なんとなく線路っぽい形をしてるね」
美歩さんが足元の舗装を見つめながら歩く。
「そうだね。鉄道特有の、急には曲がれない大きなカーブ。そして、時折現れる車止めや線路を模したデザインが、ここがかつて鉄路だったことを教えてくれる。……重い資材を積んだ蒸気機関車が、港から駅へとゆっくり登っていった光景が目に浮かぶようだ」
「……緑の道。なんだか、過去と今が繋がっているみたいで、すごく不思議な気持ち」
美歩さんは、葉桜の隙間から差し込む木漏れ日を愛おしそうに眺め、シャッターを切った。
かつて鉄の塊が走った道は、今、初夏の風が吹き抜ける、僕たちの散歩道になっている。
潮の香りが少しずつ強くなってくるのを感じながら、僕たちは一歩一歩、その歴史の跡を辿って港へと歩みを進めた。
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