第26話 夜 静寂を打ち破る通知
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夜。
久しぶりの独旅を終えて家で、母の作った夕食を食べ、今自室に帰ってきたところだ。
ゴールデンウィーク一日目。
連休明けに予定されている生徒会の資料作りに追われた僕は、ようやく解放された安堵感と今日の旅の疲労感から、自室のベッドに身を投げ出していた。
ふと、机の上のスマートフォンに目をやる。結衣が作ったグループチャット『探景同好会・富士カルテット』は、ここ数日、驚くほど静かだった。
月曜日は原が放送室で流した曲のリストを送り、火曜日は結衣が広報委員会の取材で見つけた中庭の猫の写真をアップしていた。けれど、連休が近づくにつれ、それぞれの委員会活動に忙殺されていったのだろう。既読の数字だけが増えて、会話は途切れていた。
(……みんな、連休前の追い込みで疲れてるんだろうな)
僕は眼鏡を外し、目頭を押さえた。放課後の準備室で交わす軽口も、今は少し遠い出来事のように感じる。そんな時だった。
カツン、と硬質なバイブレーションが一度だけ鳴った。
グループチャットではない。特定の誰かからの通知——個人チャット (個チャ)だ。
画面を点けると、そこには「美歩」の名前。
恐る恐るメッセージを開く。
『佐野くん、起きてる?』
『うん どうした?』
続いて送られてきたのは、少し意外な誘いだった。
『明日、もしよかったら……沼津の方まで、ついてきてもらってもいいかな?』
(……沼津? 富士市を出るのか?)
僕は慌てて眼鏡をかけ直し、端末を握りしめた。富士宮の時とは違い、彼女から行き先を指定してくるのは珍しい。
僕は、生徒会、彼女は、学年委員。立場は違えどみんなをまとめるという点では、共通点が多い。
一番近くで疲れを共有していた彼女だからこそ、その控えめな「ついてきてほしい」という言葉の響きに、放課後の準備室では見せない切実さを感じた。
『いいよ。沼津なら、少し足を伸ばすのにちょうどいい距離だね。……集合はどうする?』
返信を打つ指が、自分でも驚くほど少しだけ速くなる。
『ありがとう。明日の朝、吉原駅でいいかな? 岳南電車じゃなくて、JRのホームの方で』
窓の外には、静かに眠る富士市の街明かり。
「……沼津、か。どんな『景』が待ってるんだろうな」
僕は、自分にしか聞こえない小さな声でそう呟いた。
委員会の資料でもなく、広報の取材でもない。ただ、彼女が「行きたい」と思った場所へ。
ゴールデンウィーク本番が始まる前の、静かな土曜日。
グループチャットの静寂を越えて届いた誘いに、僕の胸の中では、新しい冒険への鼓動が激しく鳴り響いていた。
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