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第21話 帰るまでが探景

最後まで読んでくださると嬉しいです!

午後の活動は、さらに「省エネ」を極めることになった。


僕たちは再び富士岡駅から電車に乗り込み、ただひたすら往復を繰り返す。


午後の日差しが、一両電車のロングシートに柔らかく差し込む。


原くんと結衣の「体力勢」は、どれだけ活動してもエネルギーが枯渇しないらしい。原くんは「次はあのカーブの角度から撮ろう!」と、車両の前方へ移動し、結衣も「私も動画回してくる!」とその後を追う。


一方で、僕と美歩さんは、並んで座ったまま動けずにいた。


ガタン、ゴトン。一定のリズム。お腹も満たされ、春の暖かさが眠気を誘う。

「……ふあぁ。だめ、今度は本当に……落ちる……」

美歩さんの頭が、ゆっくりと僕の肩に預けられた。

茶色がかった髪から、微かに日向の匂いとシャンプーの香りがする。


(……一年前の僕なら、パニックになって即座に立ち上がって逃げていただろうな)

けれど、今はその重みが、どこか心地よかった。彼女の寝息が、電車の走行音に静かに混ざり合う。 


窓の外には、夕暮れに染まり始めた製紙工場の煙突。オレンジ色の光が、銀色の配管を黄金色に染め上げていく。僕は眼鏡を「くいっ」と直し、自分も少しだけ目を閉じた。四人それぞれのペースで、この「探景」を楽しんでいる。 


吉原駅に着き、一度寝ぼけながら降りたが、フリー切符を見せて、改札を出た。


窓口前にある、岳南電車のグッズ売り場をじっと見た。

「カレンダーに、キーホルダー、ボールペン……」

(どれも滅茶苦茶ほしい)

だけれどもふと我に返ると、すでに持っていることを思い出した。

(危ない危ない、また新商品出てないかまた、着たときチェックしよう。前から気になってたんだけど富士山サイダーとかあの辺に冷蔵販売されてるやつ、飲んでみたい…どうしよう)


ふと時計を確認したら、出発2分前になっていた。

「やべ。」

フリー切符を見せて、すぐにさっき、乗っていた電車に乗り込んだ。

(危うく乗り遅れるところだった。セーフ)


これが、今回の旅、いや活動の最後の乗車になるのだろう。そう重いながら、またうとうととした。


「……悠希くん、美歩ちゃん、起きて! そろそろ本吉原駅。活動終了だよ!」

結衣の声で頭が目覚める。原くんが満足げにカメラをバッグに収めていた。 


本吉原駅から学校まで、僕たちは再び二時間かけて徒歩で帰ることにした。

「『帰るまでが遠足』、いや、『帰るまでが探景』だからな!」

原くんが胸を張って先頭を歩く。結衣もその後ろを軽快なステップで続く。二時間歩くことを「クールダウン」だと言い切る彼らの体力には、もはや敬意すら覚える。


どこまでも続くような坂。道は、いつの間にか店などが立ち並ぶエリアを抜け、森や神社、住宅なんかのエリアに、なってきた。


「……疲れたけど、なんかすごく『生きてる』って感じがしたね」

美歩さんが、少し寝ぼけ眼のまま、僕の歩調に合わせて歩く。

「……ああ。特別なことは何もなかったけど、いい景色だった。四人で共有できたのが、一番の収穫かもしれない」


学校の正門前に戻ってきたとき、街は、夕闇に包まれていた。

「じゃあ、また月曜日。理科準備室で!」

「うん、またね! 宿題、忘れないようにねー!」

それぞれの帰路に別れる四人の影。


一人で歩いていた頃の孤独な誇りは、もうどこにもない。

四人で共有したガタンゴトンというリズム、静岡茶の苦味、そして肩に残った柔らかな重み。

それが、僕の心の中に確かな「4月の景」として刻まれていた。


佐野悠希の「探景同好会」。

その地図は、まだ最初の一頁を書き終えたばかりだ。


最後まで読んでくださりありがとうございました!

別の作品や次の話も是非見てみてください!

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