第16話 帰るまでが探景です!
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僕と美歩さんは駅を出てすぐの「静岡県富士山世界遺産センター」の前に立っていた。
目の前には、水面に映る「逆さ富士」を模した巨大な木格子の円錐形がそびえ立っている。
「……すごい。これ、どうなってるの? 芸術爆発してるじゃん!!!」
美歩さんが驚きで眼鏡をずらしながら見上げる。
「これは建築家の坂茂さんの設計だよ。富士ヒノキの木格子を使って、あえて逆円錐形にすることで、水面に正三角形の富士山が映り込むように計算されているんだ。彼は紙の管を使った建築でも有名だけど、この木材の使い方も圧巻だね。確か、国語の教科書にも出てきてたはず。」
「坂茂さん……。佐野くん、建築まで詳しいんだね。なんか、この鳥居と近代的な建物のコントラスト、最高に『探景』っぽい!」
真っ赤な大鳥居と、繊細な木格子のセンター。新旧の美しさが混ざり合う景色を、美歩さんは何度もスマホのシャッターを切っていた。
「……よし、次は本宮だ」
僕たちはセンターを後にし、浅間大社へと歩き出す。湧玉池の透明な水に感動し、歴史の深さに触れたあと、僕たちは、西富士宮駅を目指して歩くことにした。
「商店街とか懐かしい街並みが見えるからね」
「了解! 坂道もそんなにないし、私でもまだ歩けるよ!」
美歩さんは、歴史ある店構えや、ふとした路地の隙間に見える富士山を見つけては「あ、あそこもいい!」とはしゃいでいる。
二人で並んで歩く道。富士宮の豊かな湧水が流れる音を聞きながら、僕たちは少しずつ、お互いの歩幅を合わせていった。
「おーい! 二人とも、仲良くやってたー!?」
西富士宮駅の改札前で、原くんと結衣がぶんぶんと手を振っていた。原くんのTシャツは汗で色が変わっているが、顔は達成感に満ち溢れている。
「見てくれよ、沼久保のベストショット! 結衣ちゃんが斜面を駆け上がってベストポジションを見つけてくれたんだ!」
「もう、原くんが速すぎるんだもん。でも、いい写真撮れたよね!」
体力勢の二人は、どれだけ動いてもエネルギーが枯渇しないらしい。
帰りの身延線。心地よい揺れの中で、美歩は案の定「……あ、電池切れた……」と呟くと、僕の肩に頭をもたれさせて眠り始めた。
「美歩ちゃん、本当によく寝るね。悠希くん、肩貸してあげて」
結衣が優しく笑う。原くんは今日の撮影データをチェックしながら「次はどこに行こうか」と早くも次回の計画を練っている。
「……探景同好会、初活動完了、かな」
入山瀬駅から学校へ戻る道。
「帰るまでが遠足、いや、探訪だからな!」と胸を張る原くんを先頭に、僕たちは夕暮れの富士市を歩いた。
一人で完結していた世界は、もうどこにもない。
原くんと結衣の圧倒的なエネルギー、美歩の「寝ながら」でも鋭い知性。それらが混ざり合って、僕の歩く道は少しずつ、けれど確実に色を変えていく。
見慣れた学校の前に帰り着く。
「……また来週。……教室で」
「うん! 次の行き先、考えておくね!」
それぞれの帰路に別れる時、僕は眼鏡の奥で、富士市の夜景がいつもより鮮やかに見えた気がした。
僕たちの「探景」は、まだ始まったばかりだ。
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