第13話 準備室の非公式な産声
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吉永校舎の片隅。掃除用具入れの奥にある、今は使われていない今は、使われていない古い理科準備室。
鍵が開いていたのをいいことに、僕たちはここを放課後のたまり場に決めた。学校非公式の「勝手同好会」だ。
「よし、今日からここを拠点にする! 名前も勝手に決めちゃおう!」
原くんが、中央にあるガタつく木の机にノートを広げて宣言した。
「学校に申請なんてしたら、活動報告だの顧問だの、面倒なことが増えるだけだからね。僕たちは僕たちのペースでやるんだ」
「……不法占拠にならない程度にな。というか、この学校部活とか、同好会っていう概念なくない?」
僕は眼鏡を「くいっ」と押し上げ、窓枠の埃を指でなぞった。
「確かにないわ。」
「青春もののアニメのみすぎだったかな~」
「名前、どうする? 『歴史鉄道研究会』とか?」
原くんの提案に、結衣が「うーん、もっと自由な感じがいいな」と首を振る。
その隣で、茶色がかった黒髪を揺らして、美歩さんが身を乗り出した。
「……『探景』。……これでいいじゃん」
美歩さんは、さっきまでの数学の授業での死んだような表情が嘘みたいに、今は目がキラキラしている。
「誰かに決められた名所じゃなくてさ、自分が『あ、いいな』って思った景色を、自分のペースで見つけていく……。」
「……探景、か。悪くないな、響きもいいし。」
僕が眼鏡を直すと、美歩さんが「やった、採用!」とはしゃいで、眼鏡のブリッジを同じように「くいっ」と押し上げた。
「私は記録係! 最高の一枚を撮るよー! ……あ、でも、話し合いが終わったらすぐ寝るから、今のうちに活動方針だけ決めちゃおう!」
「同好会の名前はそれでいいとして……」
結衣がコンタクトにした瞳をいたずらっぽく細めた。
「この4人の『チーム名』も欲しくない? ほら、私たちってバラバラだけど、なんか気が合うじゃん」
「……チーム名? ただの集まりだろ」
僕が呆れ顔をすると、美歩さんが「あ、それいい!」と即座に乗っかってきた。
「4人組だから……『富士カルテット』とかどう? 富士市の景色を奏でる、みたいな! かっこよくない?」
「……カルテット。……まあ、勝手に名乗る分にはいいか。というか僕よりネーミングセンスがある件に関して。」
美歩さんが「決定ー!」と拳を突き上げた。
「じゃあ、会長は佐野くん! 副会長は原くん、広報は私、記録は美歩ちゃんね!」
結衣が勝手に役職を割り振る。
「……広報って、どこに広報するんだ。非公式なのに」
「決まってるじゃん、私たちの『思い出』にだよ!」
原くんが、ノートの表紙に力強く『探景同好会・富士カルテット』と書き込んだ。
窓の外では、放課後の校庭解放で、遊ぶ子どもたちの楽しそうな声が遠く響いている。
一人で富士市の街を歩き、カメラを向けていたあの日々。
孤独であることに誇りを持っていた僕の背中に、今は原くんの熱い鉄道談議と、美歩さんの「次はどこ行くー!?」という明るい声、そして結衣の屈託のない笑い声が降り注いでいる。
「……よし。じゃあ、始めるか。僕たちの『探景』を」
僕はもう一度、眼鏡を「くいっ」と直した。
埃っぽい木の匂いと、放課後の自由な空気。
佐野悠希の日常は、もう「独り」ではなくなっていた。
4人の個性が混ざり合う、非公式な冒険がいよいよ幕を開けた。
「じゃあね~」
そう校門前で手を振り、各自家路に着いていった。
「なぁ。」
僕は、後ろからそう声をかけられて、振り向いた。原だった。
「おう。どうした。」僕は、そう短く返した。
「今週末。暇なら、撮り鉄でもいかない?吉原駅にでも。」
ポツ。ポツポツ、ポツリ
「雨?」
「そうだね。雨降ってきたね。」
「最近ずっと晴れてたのに、急に降ってきたね。」
二人は、雨宿りのために、校門の近くにある木の下に入った。
「最近晴れが続いてくれてたから、甲種輸送も綺麗な青空の中撮れたわけだし。」そう僕は、話を続けた。
「そうだな。僕も、この春休み結構、青空の下で撮り鉄できたしな」
「僕は、この春休みはそんなに、撮り鉄はしなかったかな甲種輸送とあともう一回ぐらい。」
「そうなんだ」
「日本海側のほうは、青空っていうのは、なかなかハードル高いし、太平洋側の特権だね。」
「あー確かなんか社会でも理科でも去年やったよね。日本の地形、山脈とその季節独特の気圧配置、季節風で。」
「日本は、中央に山地が広がってるからね。」
「「背骨みたいに」」
「「?!?!?!」」
(こいつ。やるなぁ!!)
原は、無言で握手を求めてきた、きっとこれは、僕と同じことを考えたんだろう。手を伸ばし握手をした。
「これから、改めてよろしくな親友!」
「あぁ!!」(段取りぶっとばしてる気もするが、気のせいだろう。)
「晴れて、雨降って、晴れてを繰り返すと、春の天気って感じだよね」
「そうだねー そろそろ霧とかがこの地域だとよくみられるんじゃね」
「確かに、話、結構戻して良い?」
「いいよ。」
「まずは、返事、いいんだけど。女子たちも誘う?一応結成みたいなのをしたわけだし。」
「いいね。じゃあ明日、聞いてみようか。」
「じゃあ。」
「じゃあ。」
互いに、短く挨拶を交わし、手を振って取り出した折り畳み傘をさし、坂の多い町の中へと足早に、家路に着いていった。
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