第12話 二年生の鼓動と新しい風
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僕らの通っていた学校が、富士北部学園 吉永校舎に統合されて、早いもので一年が経った。
中1の時はまだどこか「よその学校」感が抜けていなかったこの校舎も、今ではすっかり僕たちの日常だ。
昇降口の扉の前。
僕は人混みの後ろから、眼鏡を一度「くいっ」と押し上げてクラスの名簿の中から、「佐野悠希」の言う名前を探した。
(佐野…さの…佐野…SANO…佐野…佐野悠希…あった)
2年2組のクラスに僕の名前はあった。
同じクラスには、あの見慣れた名前があった。
(……また、渡辺と同じか)
統合前の小学校からの腐れ縁、渡辺結衣。あいつはこの一年で他校出身の連中ともすっかり「親友」のネットワークを広げている。
同じクラスになれば、僕の静かな測量の日々(独旅)にかき回されるのは確定事項だ。
(それは、それでもまぁ悪くは、ないんだけどね)
教室に入ると、案の定、結衣はすでに女子グループの中心で笑っていた。
ふと違和感を覚えて彼女の顔を凝視すると、いつもフレーム越しだった彼女の瞳が、今日はむき出しのままキラキラと輝いている。
「あ、悠希くん! またよろしくねー!」
「……結衣?眼鏡どうした、忘れた?」
「えへへ、気づいた? 春休みにコンタクトデビューしちゃった! 似合う?」
「……ちょっと見慣れない感じはあるけど言いと思うよ~」
窓際の席に軽いリュックを置く。自己紹介の時間はパパッと済ませた。
「…佐野悠希です!好きなことは、鉄道、社会科。最近は、散歩したり……撮り鉄だと、最近は、甲種輸送を撮りました。 どうぞよろしくお願いします!」
解説しよう!
甲種輸送とは、新しく工場で作られた車両などを輸送する貨物列車のことである!
休み時間。
僕の席に、嵐を連れて結衣がやってきた。その後ろには、初めて話す二人が続いている。
「悠希くん! 紹介するね。こちら、鉄道愛なら負けない原くん!」
「佐野くん! さっき甲種って言ったよね!!!豊川からの新型、吉原駅でもしかして撮った?」
原くんは、まるで連結器のようにがっしりと僕の言葉に食いついてきた。同じ「撮り鉄」としての熱量に、僕は眼鏡を「くいっ」と直して応じた。
「そして、こちら! 学年一の天才、戸田 美歩ちゃん!」
結衣に紹介された彼女は、茶色がかった黒の長い髪を揺らし、僕と同じような眼鏡をかけていた。
「佐野くん! よろしくね! 私も最近結構散歩してるんだ~!」
美歩さんは、はじけるような笑顔であった。長い茶髪混じりの黒髪を結でいた。少し低めの身長で、眼鏡を「くいっ」と上げた。
「もう一回自己紹介しとくね。戸田美歩です! 美歩って呼んで! 私、面白いこと大好きだから、佐野くんの『旅』の話、もっと詳しく聞きたいな~ 旅とか結構好きだから!」
学年トップレベルの秀才と聞いて、少し固い感じを想像していたが、そうは、思えないほどノリがよくて、優しい感じであった。
思い込みほど良くないものはないなとも思った。
「あはは! 美歩ちゃん、食いつき早すぎ!」
結衣が笑いながら僕たちの間に入る。すると、美歩さんが結衣の顔をじーっと覗き込んだ。
「……あれ、結衣。今日、眼鏡は? 忘れ物?」
「違うよ美歩ちゃん、コンタクトにしたの! 朝つけるとき、ちょっと大変だったけどね」
その言葉に、僕と美歩さんは同時に顔を見合わせ、そして「くいっ」と自分たちの眼鏡のブリッジを押し上げた。
「「……コンタクトって、なんか怖くない?」」
声まで揃った。
「あはは! 二人ともシンクロしすぎ!」と笑う結衣。
「だってさ、目に直接入れるんだよ? 勇気、凄すぎ……」
美歩さんが少しだけトーンを落として、尊敬と恐怖が混ざったような顔で言う。
「……ああ。指が目に触れるとか、僕には考えられない」
僕も深く同意した。
「もう、二人とも大袈裟だなあ。慣れれば楽だよ?」
結衣が自慢げに胸を張る。他校にも友達が多い結衣らしい、完璧なキャスティングだ。
(……鉄道の原、超ポジティブで眼鏡仲間の美歩、そして……)
コンタクトにして、さらに視界を広げたらしい渡辺。
一人で完結していた僕の「時速四キロ」の世界に、新しい速度と視点が加わろうとしている。
「ねえ、今週末さ、みんなで富士宮とか北のほうでもいかない?」
原くんの提案に、美歩さんが「行く行く! ええやん!」と明るく即答した。
「あ、でも私、6時間目の数学とかそういうとき、高確率で、魂抜けて寝ちゃうから、その時は放置していいよ!」
僕は、もう一度眼鏡を「くいっ」と押し上げた。
「……まあ、時間があえば。…確かに最近そっちのほういってないから」
少し不愛想な返事。けれど、僕の心の中の地図には、四人で歩く新しいルートが鮮やかに描き込まれていた。
吉永校舎、統合二年目。
佐野悠希の旅は、賑やかで、少しだけ「目に異物を入れる勇気」に怯える、僕たちの物語へと歯車を回し始めた。
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