後日談Ⅱ:約束の食卓
あれから、十年が過ぎた。
世界は、驚くほどの速さで、復興と、融和を遂げていた。
魔族の首都。その一角にある、少し大きな、しかし、どこにでもあるような、温かい家庭。
「ただいまー」
「おかえりなさい、スタン」
十六歳になった俺は、その外見も、ようやく、精神年齢に少しだけ追いついてきていた。
俺を出迎えてくれたのは、十年前と、何一つ変わらない美しさを保つ、母さん。そして、その隣で、当たり前のようにエプロンをつけて微笑む、パティだった。
「おお、スタン、おかえり!今日の訓練は、なかなか骨が折れたぞ!」
リビングでは、連合軍の大将軍に出世した父さんが、満足げに汗を拭っている。
その向かいでは、完全に隠居し、今やただの孫煩悩な好々爺となったひいおじいちゃんが、茶をすすっていた。
俺たちの家は、いつの間にか、大陸全体の、一つの中心地のような場所になっていた。
獣人王ガル・ラオウが、自慢の肉を持って、ふらりと飲みに来る。
精霊族の長老ファエナラが、パティとお茶をするために、森からやってくる。
イグニスでさえ、時折、堅い顔で訪れては、シルに無茶な遊びを強要されて、困り果てている。
俺の眷属たちもまた、それぞれの場所で、新しい世界を支えていた。
イフリートとゴームは、各種族の若者たちを集めた、連合軍の訓練教官として、その辣腕を振るっている。
ディーネは、母さんと共に、この家の全てを取り仕切る、完璧な家政婦長。
レイは、各種族間を飛び回る、親善大使として、その癒しの力で、人々の心を繋いでいた。
そして、ダークは、その姿を見せることはないが、この世界の平和を脅かす、あらゆる不穏な影を、未然に摘み取る、世界の守護者となっていた。
その日の夕食は、いつも通り、騒々しかった。
父さんとガル・ラオウ王が、酒を酌み交わしながら、昔の武勇伝を、大声で語り合っている。
シルが、俺の皿から、肉を盗もうとして、ディーネに叱られている。
母さんとパティが、その光景を、呆れたような、しかし、愛おしそうな顔で、眺めている。
何の変哲もない、いつもの光景。
だが、これこそが、俺が、命を懸けて、守りたかったもの。
食事が終わり、俺は、一人、ベランダで、夜空を見上げていた。
「……何を、見ているのですか?」
パティが、そっと、俺の隣に立った。十年という歳月は、彼女を、息を飲むほど美しい、大人の女性へと成長させていた。
「……別に。ただ、昔のことを、少しだけ」
「そうですか」
彼女は、俺の肩に、そっと、その頭を預けた。
「……本当に、手に入れてしまいましたわね」
「何を?」
俺が尋ねると、彼女は、心の底から、幸せそうに、微笑んだ。
「あなたの、温かくて、騒々しくて、そして、かけがえのない、ただの日常を」
その言葉に、俺は、何も答えなかった。
ただ、その肩を、優しく、抱き寄せた。




