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転生したら魔族の子  作者: ヤッサン
神々の黄昏、そして約束の食卓
53/61

52話 激突、イレギュラーVS勇者

「――始めるぞ」


 俺の、静かな号令。

 それは、この沈黙の砂海における、決戦の合図だった。

 俺たち七人は、巨大な砂丘の頂上から、眼下に広がる盆地へと、一斉に駆け下りた。目標はただ一つ、龍脈の汚染儀式を続ける勇者カイン。


「――来たか、『イレギュラー』」

 カインは、俺たちの姿を認めても、一切の動揺を見せなかった。彼は、その手に持つ聖剣を、砂に突き立てる。

「儀式を続行する!奴らを、龍脈に近づけるな!」

 その号令に応え、彼の背後を守っていた十数人の聖騎士たちが、一斉に俺たちの前に立ちはだかった。彼らは、ヴェリタスで対峙した太陽騎士団とは、明らかに練度も、そして覚悟も違った。一人一人が、一騎当千の実力を持つ、勇者の腹心たる、真の精鋭。


 戦いの火蓋は、切られた。

「させん!」

 巨大な塔のような盾を構えた、熊の獣人にも似た大男のパラディンが、突進してくるゴームの前に立ちはだかる。

「我が名は、剛盾のボルドス!この盾は、神の祝福を受けし絶対の壁!貴様のような土くれ人形が、破れると思うな!」

「面白い!その自慢の壁、俺の拳で砕いてやるわ!」

 大地を揺るがす、力と力の、原始的な激突が始まった。


「聖なる光よ、魔を貫け!」

 白銀の髪をなびかせた、美しい女騎士が、その両手に持つ双剣に、聖なる光を纏わせ、イフリートへと斬りかかる。その動きは、まるで舞踏のように優雅で、しかし、刃筋は、空間そのものを切り裂くほどに鋭い。

「小賢しい真似を」

 イフリートは、その斬撃を、まるで戯れのように、最小限の動きでいなし続ける。炎と光が、砂漠の上で、激しい火花を散らした。


 後方では、ディーネとレイが、敵の魔術師部隊と、熾烈な魔法戦を繰り広げていた。

 聖なる光の槍と、絶対零度の氷の矢が、空中で激突し、凄まじい魔力の嵐を巻き起こす。その嵐の中を、シルが風となって駆け抜け、ダークが影となって潜み、敵の詠唱を的確に妨害していく。

 そして、パティが、その全てを統括するように、上空から、大威力の炎と風の複合魔法を、敵陣へと叩き込んでいた。


 それは、まさしく、神々の戦いだった。

 俺の眷属たちと、勇者の腹心たち。その一人一人が、戦場の主役となりうる力を持つ者同士の、一進一退の攻防。

 だが、俺たちの目的は、彼らを倒すことではない。

 カインを止め、龍脈を守ることだ。


 俺は、仲間たちが作り出した、ほんの一瞬の隙を突き、乱戦の只中を、一直線に駆け抜けた。

「行かせはせん!」

 何人かの騎士が、俺を止めようと立ちはだかる。だが、俺は、彼らに目もくれない。ただ、前へ。

 俺の体に触れようとした全ての剣は、見えない力に弾かれ、俺を捕らえようとした全ての魔法は、俺に届く前に霧散する。

 俺は、嵐の中の、静かなたいふうのめ

 そして、ついに、儀式の魔法陣の中心で、その詠唱を続ける、カインの目前へとたどり着いた。


「――ようやく、来たか」

 カインは、詠唱を止め、ゆっくりと、砂に突き立てた聖剣を抜き放った。

「それでこそ、我が宿敵よ」

「お遊びは、終わりだ」

 俺は、静かに、拳を構えた。

「龍脈から、離れろ」


「断る」

 カインが、その聖剣を構える。だが、その構えは、前回とは、全く違っていた。

「聖なる力が、貴様には通用せぬこと、この前の戦いで、嫌というほど理解した。……ならば!」

 彼の聖剣が、黄金色の光を放つ。

「我が一族に伝わる、真の力を見せてやろう!世界の『理』そのものを編み上げる、勇者の剣技を!」


 カインが、剣を横に薙いだ。

 斬撃が、飛んでくるわけではない。だが、俺と彼の間に、見えない、絶対的な「壁」が生まれた。

「第一の理、『断絶』!」

 俺は、その壁に、拳を叩き込む。だが、俺のフィックストアタックは、壁に触れる寸前で、その威力を、完全に虚空へと吸い出されてしまった。

「無駄だ、イレギュラーよ!その理は、因果そのものを断ち切る壁!貴様の攻撃という『原因』は、ダメージという『結果』に、決して結びつかない!」

「……面白い」


 今度は、俺が、動いた。

 テレポートで、彼の背後を取る。だが、

「第二の理、『固定』!」

 俺が転移した先の空間が、まるで固まったように、俺の体を捕縛する。

「俺の許可なく、この空間の座標は、何者にも書き換えることはできん!」


「……なるほどな」

 俺は、全身の魔力を、爆発させた。

 俺という、世界の理の外にある存在そのものが、彼の作り出した、ちっぽけな理を、内側から、粉々に砕いていく。

 空間の捕縛が解けた俺は、再びカインへと肉薄する。

 聖剣と、俺の拳が、幾度となく、激突した。

 その度に、空間が軋み、大地が悲鳴を上げる。


 互いに、決定打を与えられないまま、時間が過ぎていく。

 その間にも、龍脈の汚染は、着実に進行していた。水晶の柱は、もはや、その輝きを失い、どす黒い、死の色に染まりつつある。

 眷属たちと、騎士たちの戦いも、互角。このままでは、間に合わない。

 俺は、決断を迫られていた。


(……このままじゃ、駄目だ。この、イカサマのゲーム盤そのものを、ひっくり返すしかない)


 俺は、一度、大きく後ろへ跳躍し、カインと距離を取った。

 そして、仲間たち全員に、思念で、最後の命令を下した。


『――全員、俺から離れろ!パティを連れて、空高く、退避しろ!』


『スタン様!?』

『殿、何を!?』

 困惑する眷属たちに、俺は、重ねて命じた。

『いいから、行け!今すぐに!』


 彼らは、一瞬、躊躇った。だが、主の命令は、絶対だ。

 レイとシルが、パティの腕を掴み、空へと舞い上がる。イフリートたちが、後方の砂丘まで、一気に後退していく。


「……何をする気だ、イレギュラー?」

 カインが、怪訝な顔で、俺を見つめている。

 俺は、彼に、そして、黒く染まった龍脈に、不敵な笑みを向けた。


 俺は、自爆する。


 この砂漠の全てを巻き込んで、この世界の理も、因果も、計画も、全てを一度、無に還すために。

 それが、このイカサマのゲーム盤をひっくり返す、唯一の方法。


「――終わりだ。勇者」


 俺は、その身に宿る、無限の魔力を、その魂の全てを、一瞬で、解放した。

 俺の体が、一つの、小さな太陽となって、白く、白く、輝き始める。

 そして、次の瞬間。

 沈黙の砂海に、二つ目の太陽が、生まれた。

 世界から、再び、音が消えた。

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