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転生したら魔族の子  作者: ヤッサン
神々の黄昏、そして約束の食卓
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47話 白亜の聖都、そして太陽の騎士団

 連合軍の出陣準備が進む喧騒の中、俺たちは、束の間の別れの挨拶を交わしていた。

「スタン。……絶対に、死ぬんじゃないぞ」

 父さんが、ぎこちなく、しかし力強く俺の肩を掴んだ。

「当たり前だろ。帰ってきたら、また母さんの飯、腹一杯食うんだから」

「ええ。いつでも、あなたの帰りを待っていますからね」

 母さんは、涙を堪え、代わりに、一つの包みを俺に手渡してくれた。中には、手作りの保存食がぎっしりと詰まっている。俺が何よりも大切にしている、「温かい食卓」の味がした。


 短い別れを終え、俺は仲間たちに向き直った。

 パティ、そして六人の眷属たち。俺の、最強の部隊。

「準備はいいか?」

 全員が、力強く頷く。

 俺は、長老ファエナラから教わった、聖都ヴェリタス近郊の座標に意識を集中させる。ダークが、俺たちの魔力気配を、転移の瞬間に深淵の闇で覆い隠す。

「――『テレポート』」


 空間が捻じ曲がり、再構築される。

 俺たちが降り立ったのは、月明かりだけが差す、静かな路地裏だった。

 魔族領の禍々しさとも、獣人族の荒々しさとも、精霊族の生命力とも違う、全く異質な空気が、俺たちの肌を撫でた。


「……ここが、聖都ヴェリタス……」

 パティが、息を呑んで呟く。

 俺たちは、ダークの先導で、影から影へと渡り、この街の姿を窺った。

 その光景は、ある意味では、恐ろしいほどに、美しかった。

 全ての建物は、月光を浴びて青白く輝く、白亜の大理石で築かれている。天を突くように、寸分の狂いもなく設計された尖塔。チリ一つ落ちていない、掃き清められた石畳。それは、まるで神が作り上げた模型のような、完璧な、そして、冷たい街だった。

 道を行き交う民はいない。ただ、二、三人一組となった、黄金の鎧を纏う騎士団――『太陽騎士団』の巡回兵だけが、規則正しい足音を響かせている。

 この街には、生活の匂いがしなかった。あるのは、規律と、祈りと、そして、異物を決して許さないという、排他的な、完璧な「秩序」だけ。


『兄者。目標は、街の中心にそびえる、あの大聖堂です』

 ダークの思念が響く。

 その先には、この街の他のどの建物よりも巨大で、荘厳な、白亜の大聖堂が、まるで天上の神殿のようにそびえ立っていた。あの下に、龍脈が眠っている。


 俺たちは、影の中を、音もなく進んだ。

 やがて、大聖堂の前に広がる、巨大な広場にたどり着く。

 そして、俺たちは、最初の障害を目の当たりにした。

「……聖なる結界……!」

 パティが、呻くように言った。

 大聖堂全体が、見るからに強力な、黄金色の光のドームで覆われているのだ。それは、魔族である俺たちのような、「不浄」な存在を拒絶するためだけに編まれた、絶対的な聖域の証。


「……試す」

 イフリートが、指先から小さな炎を放つ。だが、その炎は、結界に触れる寸前で、まるで水にでもかかったかのように、虚しく掻き消えた。

「駄目だ、主。この結界は、我らの魔力とは、根本的に相性が悪い」

 ゴームの土魔法も、ディーネの水魔法も、全てが、その黄金の光の前に、意味をなさなかった。


 力押しは、不可能。

 だが、俺たちのチームは、ただの力の集まりではない。

「レイ」

 俺が呼ぶと、光の眷属が、静かに頷いた。

「お前の光の魔力で、俺たち全員を包んでくれ。俺たちの気配を、『聖なるもの』に偽装するんだ」

「はい、スタン様!」

 レイが両手を広げると、温かく、清浄な光が、俺たち七人を、ヴェールのように柔らかく包み込んだ。魔族特有の禍々しい気配が、完全に中和されていく。

「……だが、それだけじゃ足りない」

 この結界は、単純な属性だけで、騙せるほど甘くはないだろう。

 俺は、レイが作り出した光のヴェールに、自らの、無属性の魔力を、そっと編み込んでいく。

 聖でもなく、邪でもない。光でもなく、闇でもない。世界の理の、そのどちらにも属さない、「無」。俺という「イレギュラー」の証明。

 それは、この結界の術式が、決して想定していないはずの、絶対的な「中性」の鍵だった。


「行くぞ」

 俺たちは、光と無のヴェールを纏い、再び、影の中を滑るように、結界へと近づいていった。

 そして、俺が、代表して、その黄金の光の壁に、そっと、手を触れた。

 弾かれる、と思った。

 だが、結界は、俺の手を、まるで静かな水面が小石を受け入れるように、波紋を広げながら、すっと、内側へと通した。

 術式が、俺たちの魔力を「敵」として、認識できないのだ。

 俺たちは、顔を見合わせると、一人、また一人と、音もなく、結界の内部へと侵入した。


 月明かりだけが照らす、静かな大聖堂の中庭。

 俺たちは、ついに、敵地の心臓部への潜入に成功したのだ。

 そう、思った、瞬間だった。


 カッ!


 突如、中庭全体が、昼間のように、凄まじい光に照らし出された。俺たちが通り抜けてきたはずの背後の結界が、再び、今度は、俺たちを閉じ込める、檻となって、その輝きを増す。

 そして、大聖堂の回廊から、影から、屋根の上から、無数の太陽騎士団の兵士たちが、その黄金の鎧を月光に煌めかせながら、姿を現した。その数は、百や二百ではきかない。

 俺たちは、完全に、包囲されていた。


「―――ようこそ、おいでくださった、魔の眷属ども」


 大聖堂の中央扉が、ギィ、と開き、その中から、一人の老人が、ゆっくりと姿を現した。

 その身に纏うのは、他の騎士たちよりも、さらに豪華で、神聖な、白金の鎧。その手に持つ杖の先には、巨大な太陽石が、星のように輝いている。その顔の皺は深く、だが、その瞳だけが、狂信的なまでの、冷たい光を放っていた。

 太陽騎士団、グランドマスター。


「鼠が、罠にかかったようだな」

 老人は、その薄い唇を、三日月のように歪ませた。

「貴様ら『イレギュラー』の来訪は、勇者カイン様からの神託により、とうに、我らの知るところであったわ」


 罠。

 俺たちの、完璧だったはずの潜入は、最初から、全て、敵の掌の上で踊らされていたのだ。

 絶望的な包囲網。そして、勇者カインにも匹敵するという、騎士団長の、底知れない魔力。

 聖都の夜の静寂は、破られた。

 龍脈を巡る、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。

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