46話 四種族会議、そして反撃の狼煙
本日4話目です。
竜人族の賢帝ヴァレリウスとの謁見を終え、俺たちは再び、彼の力によって開かれた転移門をくぐり抜けた。
空間が再構築された先は、見慣れた、魔王城の玉座の間だった。一年ぶりに帰ってきた故郷。だが、そこに感傷に浸る時間など、もはや残されてはいなかった。
俺たちの帰還と時を同じくして、玉座の間に設置された他の三つの転移門から、続々と、この世界の人間以外の種族の長たちが、その姿を現した。
西の門から現れたのは、黄金の鬣を風になびかせ、その身に王の威厳を完全に取り戻した、獣人族の王、ガル・ラオウ。その背後には、腹心であるレオガートをはじめとする、精鋭の獅子戦士団が控えている。
東の門からは、古代樹の香りと共に、精霊族の長老、ファエナラが、森の番人『葉隠』を伴って、静かに歩み出た。
そして、北の門からは、門番であった古の竜人、イグニスが、賢帝ヴァレリウスの代理として、その圧倒的な存在感を放ちながら、姿を現した。
そして、彼らを玉座で迎えるのは、我が魔族を統べる女王、魔王ルシフェリア。
魔族、獣人族、精霊族、竜人族。
人間たちの『計画』によって分断され、滅びの淵に立たされていた各種族の長たちが、数千年ぶりに、今、一つの場所に集結したのだ。
歴史が、大きく動き出す瞬間だった。
「――皆、よくぞ集まってくれた」
魔王様が、玉座から立ち上がり、その場にいる全ての者たちに、感謝を告げた。
「我が娘パティ、そして、我が魔族の英雄スタンが繋いだこの縁、必ずや、我らを勝利へと導くであろう」
広間に集った四種族の長たちによる、史上初の頂上会談。議題は、ただ一つ。
打倒人間、そのための大戦略について。
まず、俺とパティが、この一年で得た全ての情報を報告した。人間たちの『計画』の最終目的が、魔力の源泉である『龍脈』を汚染し、この大陸から魔力そのものを根絶やしにすることである、と。
「なんと、おぞましいことを……!」
ガル・ラオウが、怒りに拳を震わせる。
「森が嘆き悲しんでいた理由……。全ての辻褄が合いました」
ファエナラが、悲しげに瞳を伏せた。
「奴らの狙いが龍脈である以上、我らが為すべきは、その守護。そして、計画の中枢である、人間の王都への電撃侵攻である!」
ガル・ラオウが、力強く主張する。それは、戦士の王らしい、正攻法だった。
だが、ひいおじいちゃんのジャレアが、それを制した。
「お待ちくだされ、ガル・ラオウ王。人間たちの軍勢は、我ら全てを合わせた数をも、遥かに上回る。正面からの総力戦は、奴らの思う壺じゃ」
議論が、白熱する。
その時、俺は、静かに、一歩前に出た。
「――戦線を、二つに分ける」
俺の言葉に、全ての視線が集中する。
「一つは、表の戦線。ガル・ラオウ王を総大将として、魔族、獣人族から成る、大連合軍を結成する。その目的は、人間の王都へ侵攻すると見せかけ、大陸中の人間たちの主戦力を、一つの場所へと引きずり出すこと。敵の目を、我らの本当の狙いから逸らすための、最大の陽動だ」
俺は、広げられた大陸地図の一点を指さした。
「そして、もう一つ。裏の戦線」
俺は、背後に控える六人の眷属と、パティを見回した。
「俺たち『イレギュラー部隊』が、テレポートを駆使して、人間たちの領土の奥深くへと侵入する。そして、奴らが狙う龍脈を、奴らの計画そのものを、内側から、完全に叩き潰す」
それは、あまりにも大胆で、そして、あまりにも規格外な作戦だった。
だが、この場に集った長たちは、俺という存在の異常性を、既に理解していた。
静寂の後、最初に口を開いたのは、魔王様だった。
「……面白い。良いでしょう。その作戦、採用します」
作戦は、決まった。
その日の夕刻。再建された魔王城の城壁の前に、魔族と、転移門を通って集結した獣人族から成る、数万の連合軍が集結していた。
その軍勢を前に、四種族の代表が、壇上へと上がる。
そして、古の儀礼に従い、魔王の炎、獅子の牙、森の若芽、そして龍の鱗を、一つの杯に捧げ、血よりも濃い、魂の同盟を、天に、そして民に、高らかに宣言した。
「「「「うおおおおおおおおおおっっっ!!」」」」
兵士たちの鬨の声が、大地を揺るгаす。
その声に応えるかのように、魔王様が、天に手を掲げた。
首都の中心から、巨大な、紫色の魔力の柱が、狼煙となって、天を突いた。
すると、遥か西の地平線から、黄金色の光の柱が。
東の地平線から、翠色の光の柱が。
そして、北の天の果てから、白金色の光の柱が、呼応するように、立ち上った。
四本の光の柱が、この大陸に、人間たちへの反撃の始まりを告げていた。
その夜、再編された作戦司令室で、俺たちは、最初の目標を確認していた。
長老ファエナラが、地図に広げられた、大陸の中央部を指し示す。
「人間たちが、最初に汚染しようとしている、最も重要な龍脈。それは、ここにあります」
そこは、人間たちの国家の中で、最も敬虔で、そして、最も排他的な宗教国家「ヴェリタス聖王国」の、聖地の真下だった。
「その龍脈は、奴らの狂信の象徴。聖地を守る『太陽騎士団』は、勇者カインにも匹敵する実力者揃いだと聞きます。最も、危険な場所ですわ」
パティが、緊張した面持ちで付け加えた。
最も、危険な場所。
俺は、その言葉を聞いて、不敵に笑った。
「ちょうどいい。最初の掃除場所としては、一番汚れてる所からやるのが、筋ってもんだ」
俺たち、イレギュラー部隊の、最初の任務。
それは、敵国の心臓部、その聖地への、電撃奇襲作戦に決まった。




