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転生したら魔族の子  作者: ヤッサン
同盟への旅路
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第37話 獅子の誓い、そして新たな旅立ち

夜が明け、朝日がサウナハウルの渓谷を黄金色に染め上げる頃、城内はようやく落ち着きを取り戻していた。

玉座の間は、一夜にしてその威厳を取り戻していた。血痕は洗い流され、倒れた柱はゴームの土魔法によって瞬く間に修復された。そして、その中央にある玉座には、傷つきながらも、しかし、もはやその瞳に一片の迷いもない、真の王、ガル・ラオウが鎮座していた。


俺とパティ、そして六人の眷属たちは、その玉座の前に、賓客として招かれていた。王の周囲には、昨夜の戦いで王への忠誠を改めて示した、レオガートをはじめとする古参の将軍たちが、誇らしげな顔で控えている。


「――以上が、城内の被害状況と、反乱分子の捕縛状況です、陛下」

レオガートが報告を終えると、王は静かに頷いた。

「うむ。ご苦労であった。捕らえた者たちには、情けは不要。だが、ただ恐怖に駆られて、あるいは騙されてギツネに与しただけの者たちには、寛大な処置を考えよ。これからの国作りには、一人でも多くの同胞が必要となる」

「はっ!」

その采配は、かつての賢王の姿そのものだった。


一通りの戦後処理を終えると、ガル・ラオウは、その燃えるような黄金の瞳を、俺たちへと向けた。

そして、ゆっくりと玉座から立ち上がると、俺たちの前まで歩み寄り、その巨大な体を折り曲げ、深く、深く、頭を下げた。

「魔王の使者よ。そして、我が魂の恩人よ。昨夜の非礼、そして、これまでの我が国の愚行、このガル・ラオウの名において、心より詫びる」

王の、あまりにも真摯な謝罪に、パティが慌てて言葉を返した。

「陛下、お顔をお上げください!あなた様もまた、裏切り者の奸計に苦しんでおられたのですから……!」


「いや」と、王は顔を上げた。「どれほどの事情があろうと、王は、民の苦しみから目を背けてはならなかった。余は、王である前に、一人の獣としての誇りすら、見失っていたのだ」

彼は、俺の目を真っ直ぐに見据えた。

「お主の言葉が、余の凍てついた魂を打ち砕いてくれた。そして、姫君の言葉が、その瓦礫の中から、王としての責務を思い出させてくれた。この恩は、言葉では返しきれぬ」


ガル・ラオウは、再び玉座へと戻ると、高らかに宣言した。

「我が盟友、魔王ルシフェリアに伝えよ!このサウナハウル国王、ガル・ラオウは、古の盟約を思い起こした、と!否、今日この日、我らは新たな血の盟約を結ぶ!」

彼は、自らの爪で、その手のひらを深く切り裂いた。そして、滴り落ちる血で、玉座に刻まれた獅子の紋章を、赤く染め上げた。

「我が獣人族は、これより、魔族と共にある!人間どもに、獣の牙の味を、そして、真の王の咆哮を、今一度思い出させてくれるわ!」


その言葉は、獣人族の完全なる参戦を意味していた。

「……そのお言葉、確かに、我が母、魔王へとお伝えいたします」

パティが、魔王代理として、その誓いを厳粛に受け入れた。俺たちの、最初の任務は、こうして、望みうる限り最高の形で、達成されたのだ。


その日の夜。王の帰還と、新たな同盟の成立を祝う、盛大な宴が催された。

それは、魔族の宴のような陽気さとは違う、戦士たちの、荒々しくも、どこか温かい祝宴だった。

巨大な肉の塊が豪快に焼かれ、強い酒が酌み交わされる。広間には、吟遊詩人が奏でる勇壮な音楽と、己の武勇を語り合う、戦士たちの熱い声が響き渡っていた。


その喧騒の少し外れで、俺は、ガル・ラオウ王と二人、静かに話していた。

「……して、スタン殿。お主たちは、次にどこへ向かう?」

「東の大森林。精霊族の国へ」

俺がそう答えると、王は、難しい顔で腕を組んだ。

「そうか……。ならば、一つ、忠告しておく。彼らは、我ら以上に、頑なだぞ」

「と、言うと?」

「森そのものが、彼らの砦であり、彼らの同胞だ。力で道をこじ開けようとすれば、森全体が、お主たちに牙を剥くであろう。彼らと話すには、まず、森に敬意を払い、その理を理解する必要がある。決して、力任せに進むでないぞ」

それは、この国の王だからこそ知る、貴重な情報だった。


そして、王は、もう一つ、声を潜めて、俺に告げた。

「宰相ギツネが、人間から得ていた情報によれば、奴らの『計画』とは、ただ我らを滅ぼすだけではないらしい。奴らは、この大陸から、『魔力』そのものを根絶やしにするつもりだ。そのために、大陸の要所にある、力の源泉『龍脈』を、破壊、あるいは汚染しようとしている、と」

「龍脈を……!?」

なんと、おぞましい計画。それは、もはや種族間の戦争ではない。この世界の理そのものに対する、冒涜だった。


翌朝。俺たちの旅立ちの日は、王都中の民が見送りに来てくれた。

あれほど淀んでいた都の空気は、完全に払拭され、そこには、誇りを取り戻した獣人たちの、力強い活気が満ち溢れていた。

レオガートをはじめとする戦士たちが、俺たちに、敬意のこもった別れの挨拶を告げる。


「これは、余からの友情の証だ」

王城の門の前で、ガル・ラオウが、一本の、美しい牙を俺に差し出した。それは、彼の祖先である、伝説の獅子王の牙から作られた、王家のお守りだという。

「達者でな、魔族の小さな英雄よ。そして、気高き姫君。いずれ、戦場で、再び相まみえようぞ」


俺たちは、王と固い握手を交わし、サウナハウルを後にした。

目指すは、東。遥か地平線の彼方に、巨大な緑の壁のようにそびえ立つ、古代からの森。

獣人族との同盟は、成った。だが、戦いはまだ始まったばかりだ。

次は、森の民。王の言う通り、力だけでは、彼らの心を開くことはできないだろう。

ならば、どうする?

俺は、新たな、そして、より困難な任務への覚悟を胸に、広大なサウナハウルを、振り返ることなく歩き始めた。

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