第31話 新たなる任務、そして同盟への旅路
玉座の間に、魔王様の凛とした声が響き渡る。
「守ってばかりでは、ジリ貧になるだけ。我々もまた、牙を剥く時です」
その言葉に、父さんとひいおじいちゃんが、ゴクリと息を呑んだ。
魔王様は、俺とパティを真っ直ぐに見据えた。
「あなたたちに与える特別な任務……それは、同盟の締結です」
「同盟……ですって?」
パティが、驚きに目を見開く。
「そうです」と魔王様は頷いた。「人間たちの最大の強みは、その数と、彼ら自身の種族こそが至上であるという歪んだ信念によって生まれた、強固な団結力にあります。対して、我ら魔族や、他の亜人種たちの弱点は、かの呪いによって、長きにわたり分断され、孤立させられてきたこと。……ならば、我らが為すべきことは一つ。その分断を、打ち砕くのです」
魔王様の瞳に、王としての、燃えるような決意が宿る。
「スタン、パティ。あなたたちには、私の全権大使として、この大陸に散らばる他の種族のもとへ旅をしてもらいます。広大なサバンナに生きる獣人族。古の森に隠れ住む精霊族。そして、もし可能ならば、北の極寒山脈に棲まう、気高き竜人族のもとへ」
それは、あまりにも壮大な任務だった。
「彼らに、我ら魔族がまだ健在であることを示しなさい。人間たちの支配が、絶対ではないことを、あなたたちのその圧倒的な力で証明するのです。そして、かつて我らが交わした古代の盟約を思い起こさせ、人間という共通の敵を打倒するための、新たな大同盟を締結するのです」
これが、魔王様が描く、反撃の筋書き。防衛ではなく、外交と示威による、大陸全土を巻き込んだ大戦略だった。
「最初の目的地は、西の大陸にある、獣人たちの王国『サウナハウル』とします」
魔王様は、広げられた古い地図の一点を指さした。
「彼らは、誇り高き戦士の一族。何よりも『力』を尊びます。しかし、その誇りゆえに、人間たちに最も徹底的に蹂躙され、多くの同胞が奴隷として連れ去られた過去を持つ。彼らの人間への憎しみは、どの種族よりも深い。あなたたちの『力』を示し、解放への道を提示できれば、彼らは必ずや、我らの声に耳を傾けるはずです」
俺とパティは、顔を見合わせた。そして、力強く頷く。
「「はいっ」」
数日後。俺たちの旅立ちの日は、快晴だった。
首都の復興はまだ始まったばかりだったが、城門の前には、噂を聞きつけた多くの民衆が集まり、俺たちに声援を送ってくれていた。それは、魔族の未来を、俺たちに託す、希望の声だった。
「スタン。必ず、生きて帰ってこい。お前は、俺の自慢の息子だ」
父さんが、照れくさそうに、しかし力強く、俺の肩を叩いた。
「いつでも、あなたの帰りを待っていますからね。美味しいご飯をたくさん作って、待っていますから」
母さんは、涙を堪えながら、俺の頭を優しく撫でた。
「世界の命運が、お主らの肩にかかっておる。じゃが、気負いすぎるな。お主らなら、必ずやれる」
ひいおじいちゃんは、いつになく真剣な顔で、俺たちを励ましてくれた。
そして、準備が整うと、魔王様が、俺たちの前に進み出た。
彼女が天に手をかざすと、空間そのものが、まるで水面のように揺らめき始めた。
「この門は、獣人領の境界近くまで繋がっています。これより先は、あなたたちの力で、道を切り開きなさい」
ゴゴゴ、と空間が裂けるような音と共に、俺たちの目の前に、眩い光を放つ巨大な転移門が出現した。
俺は、隣に立つパティと、そして、背後に控える六人の最強の「家族」に向き直った。
「行くか」
全員が、静かに、しかし決意に満ちた表情で頷いた。
俺たちは、民衆の歓声と、家族の祈りを背に、一人、また一人と、光の門の中へと足を踏み入れていく。
魔族の存亡を賭けた、壮大な旅が、今、始まった。
最初の目的地は、誇り高き獣たちの王国。
だが、そこで俺たちを待ち受けるのが、歓迎の宴か、あるいは敵意の牙か、まだ誰も知らなかった。




