第23話 姫君の涙、そして光の誓い
俺のパーティーは、六人になった。
その中心にいるのは、もちろん俺だ。そして、俺を絶対の主と仰ぐ四人の眷属たちが、まるで衛星のように俺の周りを固めている。
不動のゴーム、烈火のイフリート、静水のディーネ。そして、その三人の間を、自由な風のように飛び回る、天真爛漫なシル。
それは、賑やかで、完璧で、そして、揺るぎない、俺だけの「家族」の姿だった。
だが、その完璧な輪の外側に、ぽつんと一人、取り残された影があった。
パティだ。
彼女は、俺たちの少し後ろを、黙ってついてくる。
シルが「兄ちゃん、次はどこ行くの?もっと強い魔物はいないの?」と俺の肩の上で騒いでも、ディーネとイフリートが俺への奉仕で火花を散らしても、パティはその輪の中に入ってくることはなかった。彼女の顔からは表情が消え、その美しい紫色の瞳は、どこか遠くを見ているかのようだった。
俺は、その姿に、胸が締め付けられるような痛みを感じていた。
孤独から逃れるために、俺は眷属たちを生み出した。だが、その結果、俺の一番最初の、そして一番大切な仲間を、孤独にしてしまっている。その皮肉な現実に、俺はどうしようもなく、無力感を覚えていた。
八十階層の安全地帯。そこは、天井から降り注ぐ光ゴケの明かりが、静かな地底湖の湖面を照らす、幻想的な空間だった。俺たちは、ここで一度、長い休息を取ることにした。
「ディーネ、イフリート、ゴーム、シル。少し、この辺りの偵察を頼めるか?危険な魔物がいないか、確認してきてほしい」
俺がそう言うと、眷属たちは「「「「はっ!」」」」と力強く頷き、それぞれの方向へと散っていった。
静寂が訪れる。残されたのは、俺とパティの二人だけだった。
俺は、湖畔に座り込む彼女の隣に、そっと腰を下ろした。
「……パティ。怒ってるか?」
俺の問いに、彼女は首を振った。
「別に。私は、あなたのパートナーですもの。あなたが強くなるのは、良いことですわ」
その声は、あまりにも平坦で、感情が感じられなかった。
「……仲間外れにしてるみたいで、ごめん」
俺が、もう一歩踏み込むと、彼女の肩が、微かに震えた。
「……馬鹿ね。あなたが、謝ることじゃないわ」
彼女は、俯いたまま、ぽつりと呟いた。その声は、震えていた。やがて、彼女の瞳から、大粒の涙が、ぽろり、ぽろりと湖面の光を反射しながら、地面に吸い込まれていった。
「羨ましいのよ……!」
それは、絞り出すような、魂の叫びだった。
「ディーネも、イフリートも、みんな……。あなたと、魂で繋がっている。私には、決して届かない場所で。……私は、あなたの隣を歩いているはずなのに、あなたが『家族』を増やすたびに、どんどん、あなたが遠くなっていく……。それが、寂しいだけ……」
彼女の涙が、俺の心を抉る。
そうだ。彼女はずっと、一人で戦っていたのだ。俺が作り出した、完璧すぎる「家族」という輪の中で、たった一人、孤独と戦っていた。
俺は、なんて愚かだったんだろう。
俺は、彼女の涙を拭うこともできず、ただ、その華奢な手を、両手で強く握りしめた。
「パティ。俺は、お前を一人にしない。絶対にだ」
俺の真剣な声に、彼女はしゃくり上げながら、顔を上げた。
「次に俺が『家族』を作る時……それは、闇じゃない。光だ」
俺は、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめて、誓った。
「お前を、俺たちを、明るく照らしてくれるような、温かい光の眷属を作る。お前が、もう二度と寂しいなんて思わないように。……だから、それまで、見ていてくれないか?俺の、すぐ隣で」
それは、ただ眷属を作るという宣言ではなかった。
彼女のために、彼女の孤独を癒すために、俺は次なる創造を行う。俺の力の行使に、初めて、俺以外の誰かのための、明確な目的が生まれた瞬間だった。
俺の誓いを聞き終えたパティは、しばらくの間、ただ静かに涙を流していた。だが、その涙は、もはや悲しみの色をしていなかった。
やがて、彼女は、俺の手を強く、強く握り返した。
「……約束、よ。絶対に、ですわよ……!」
涙で濡れたその笑顔は、俺が今まで見た、どんな彼女の顔よりも、美しく輝いていた。
俺たちの間にあった心の溝は、彼女の涙によって、完全に埋められた。いや、以前よりも、もっと強く、もっと深く、俺たちは結ばれたのだ。
偵察から戻ってきた眷属たちは、俺とパティの間の空気が、以前とは全く違うことに気づき、不思議そうな顔をしていた。特にディーネは、俺たちが繋いだままの手を見て、少しだけ眉をひそめていたが、俺は気づかないふりをした。
俺たちの次の目的は決まった。
光の眷属を創造するにふさわしい、清浄な魔力が満ちる場所。
それを求め、俺たちは再び、ダンジョンの最深部へと、今度は二人、同じ歩幅で、歩き始めた。




