第20話 紅蓮の誕生、二人目の家族
俺たちのパーティーは三人となり、そのダンジョン攻略速度は、もはや常軌を逸していた。
パティの炎と風が敵の陣形を乱し、ディーネの水と氷が敵の動きを封じ、そして俺の一撃が全てを終わらせる。その完璧な連携は、五十階層までの道のりを、まるで散歩でもするかのように容易いものに変えてしまった。
五十階層の安全地帯にある宿屋。その一室で、俺は二人の前で、ある決意を告げた。
「――もう一人、眷属を作ろうと思う」
「なっ……!?」
その言葉に、パティが弾かれたように立ち上がった。
「あなた、正気ですの!?また、あんな危険な儀式を行う気ですの!?今度は、本当に死んでしまいますわよ!」
彼女の瞳には、本気の怒りと、そしてそれを上回る心配の色が浮かんでいた。前回、俺がどれほど危険な状態にあったか、彼女は肌で感じ取っていたのだ。
「大丈夫だよ、パティ。もう、あの時とは違う」
俺は、自分のスキルが『MP無限生成』へと進化したことを、かいつまんで説明した。命を削るほどの魔力枯渇の危険は、もうないのだと。
「危険がない、ですって……?だとしても……!」
なおも食い下がるパティを、ディーネが静かに制した。
「パティ様。スタン様の御心のままに。このディーネ、いかなる時も、ご主人様のお側を離れません。必ずや、お守りいたします」
その絶対的な信頼を前に、パティはぐっと言葉を詰まらせ、不承不承といった様子で椅子に座り直した。
俺が次に生み出す眷属。その属性は、もう決めていた。「火」だ。ディーネの「水」とは対極にありながら、互いを高め合う存在。そのためには、極めて高純度の火の魔力が満ちる場所が必要だった。
幸い、次の五十一階層からのエリアは、その条件を満たすのに、これ以上ないほど最適な場所だった。
そこは、以前の火山地帯をさらに凝縮したかのような、灼熱の地獄。「大溶鉱炉」と呼ばれるその階層群は、空気そのものが燃えているかのように揺らめき、至る所で溶岩が川となって流れていた。
俺たちは、そのエリアの中心部、巨大なカルデラのように開けた場所を見つけ出した。そこは、この階層で最も強く、そして最も純粋な火の魔力が渦巻く、天然の祭壇だった。
「パティ、ディーネ。儀式の間、周囲の警戒を頼む」
「……ええ、分かったわ。絶対に、無茶はしないでよね!」
「お任せください、スタン様」
二人が頷くのを確認し、俺は再び、禁忌の儀式の準備を始めた。
魔法陣を描き、自らの血を杯に注ぐ。だが、今回は前回とは全く違う感覚があった。
『ハイリスククリエイト』
詠唱と共に、俺の魔力が吸い出される。だが、それは枯渇へと向かう絶望的な流出ではない。そして、周囲の環境が、俺の魔力に呼応した。
ゴオオオオオッ!
カルデラに満ちる膨大な火の魔力が、まるで意思を持った龍のように、俺が描いた魔法陣へと殺到する。
(……なるほど。これが、本当の儀式か……!)
前回は、俺自身の魔力だけで、無理やり無から有を生み出そうとしていた。だが、違う。この儀式の本質は、術者の血と魂を「鍵」として、世界の魔力そのものを借り受け、生命を「鋳造」することなのだ。
だが、その力は、あまりにも荒々しく、そして破壊的だった。俺の制御を離れようと、灼熱の魔力が暴れ狂う。魔法陣が焼き切られそうになり、俺の体そのものも内側から燃え上がりそうだ。
(――お前は、俺に従え!)
俺は、無限に生成される自らの魔力を盾とし、そして矛として、荒れ狂う火の龍に、真っ向から挑んだ。これは、魔力の消費量ではない。術者の魂の格、そのものが問われる、支配権を賭けた闘いだった。
どれほどの時間が経っただろうか。
やがて、荒れ狂っていた紅蓮の魔力は、その猛威を収め、俺の魔力に完全に屈服した。そして、それは魔法陣の中央で一つの光となり、ゆっくりと人の形を成していく。
光が収まった時、そこに立っていたのは、ディーネとは対照的な、筋骨隆々たる一人の男だった。
鍛え上げられた鋼のような肉体。燃え盛る炎のような赤い髪。そして、その瞳は、まるで溶岩のように、黄金色の輝きを宿していた。
その男は、俺の前に静かに膝をついた。
「我が創造主よ。この身に、名を」
その声は、重々しく、そしてどこまでも忠実な響きを持っていた。
俺は、彼に近づき、その肩に手を置いた。
「お前の名前は、イフリートだ。属性は、炎。俺の二人目の家族だ」
俺がそう告げ、炎の魔力を彼に注ぎ込む。ディーネの時とは違い、彼は微動だにせず、その全てを受け入れた。
「イフリート。我が名、心得ました」
彼は立ち上がると、深く、恭しく一礼した。
「この身、この魂、その全てを、殿に捧げましょう」
彼は、俺を「殿」と呼んだ。その言葉には、ディーネの「ご主人様」とはまた違う、武人としての絶対的な忠誠が込められていた。
こうして、俺のパーティーは四人になった。
静かなる水の眷属ディーネと、猛る炎の眷属イフリート。
その対照的な二人を従え、俺は満足げに頷いた。
少し離れた場所で、パティが、呆然と、そしてどこか羨ましそうな、複雑な表情でこちらを見つめていたのが、やけに印象的だった。
俺の「家族」創りは、まだ始まったばかりだ。




