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零界凍結 ―境界記録―  作者: 淺桜雫音
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第四部 第九話『虚空』

始原界。

何もないはずの世界が、ゆっくりと黒く染まり始めていた。

光が消える。

音が消える。

時間さえも止まり始める。

その中心にいた。

《虚空》。

姿は決まっていない。

人に見える者もいれば、巨大な獣に見える者もいる。

氷雨には――。

ただ、底の見えない黒い海のように見えた。

始まりの人が静かに言う。

「気を付けてください。」

「あれには形がありません。」

「見る者の『絶望』を映す存在です。」

茜音は息を呑む。

「絶望……。」

虚空が動いた。

いや。

「近づいた」と認識した瞬間には、もう目の前にいた。

「速い!」

月斗が叫ぶ。

《天測》を発動する。

未来を読む。

しかし――

何も見えない。

「未来が……。」

「存在してない!」

巨大な黒い腕が振り下ろされる。

氷雨は《希望の剣》で受け止めた。

ギィィン!!

青い光と黒い闇がぶつかる。

床が砕ける。

世界が悲鳴を上げる。

氷雨の腕が震えた。

(重い……。)

(今までで、一番。)

夜城零が飛び込む。

「氷雨!」

新たな黒い剣を創り出す。

《虚無創剣》。

壊れた剣ではない。

虚無そのものを凝縮して作った新しい剣だった。

「はあぁっ!」

黒い斬撃。

虚空の腕を切り裂く。

だが。

切れたはずの腕は、闇へ溶けて元へ戻る。

「再生……?」

創世の巫女が震える。

「違う!」

「あれは再生じゃない!」

「最初から傷なんて存在しなかったことにしてる!」

咲希の表情が青ざめる。

「存在の否定……。」

虚空が初めて声を発した。

「願い。」

「不要。」

その一言だけで。

世界中の青い花が枯れ始める。

「そんな……!」

巫女が駆け出す。

花に触れる。

しかし光は戻らない。

茜音は強く拳を握る。

「絶対に……。」

「絶対に負けない!」

《共鳴歌・希望》

歌が始まる。

今までで一番優しい旋律。

戦うためではない。

誰かを信じる歌だった。

その歌声は世界中へ届く。

第一階層。

第二階層。

第三階層。

七つすべての世界へ。

港町。

みんなが空を見上げる。

「あれ……。」

「なんか歌が聞こえる。」

学校。

病院。

街。

海。

誰もが同じ空を見ていた。

「頑張れ。」

誰かが呟く。

その願いは光になった。

月斗は目を閉じる。

《天測》をもう一度使う。

未来は見えない。

だけど。

無数の小さな光が集まってくる。

「これは……。」

未来ではない。

人々の願いだった。

「氷雨!」

「世界中が、お前たちを信じてる!」

希望の剣が眩しく輝く。

《願》の文字が再び変わる。

《絆》。

青い光が四人を包む。

夜城零。

茜音。

月斗。

氷雨。

四人の力が、一つへ繋がっていく。

虚空は静かに言う。

「理解不能。」

「個では弱い。」

「なのになぜ。」

「強くなる。」

夜城零は笑った。

「一人だから弱い。」

「だから仲間がいる。」

虚空の身体から、無数の黒い槍が放たれる。

「来る!」

月斗が叫ぶ。

四人は背中を合わせる。

茜音の歌が結界となる。

夜城零の剣が闇を切り裂く。

氷雨が氷の壁を創る。

しかし。

一本だけ。

誰にも防げない槍があった。

一直線に――

創世の巫女へ向かう。

「危ない!」

氷雨が飛び出す。

間に合わない。

その時だった。

「ここは……私が。」

観測者の王が静かに歩き出す。

初めて、自ら誰かを守るために。

創世剣を掲げる。

黒い槍を受け止める。

ズドォォン!!

凄まじい衝撃。

創世剣は砕け散った。

王の身体にも、大きな亀裂が走る。

巫女は涙を流す。

「どうして……。」

観測者の王は、小さく微笑んだ。

それは、生まれて初めて見せる笑顔だった。

「守りたい。」

「……そう思った。」

その一言に、始まりの人は静かに目を閉じる。

「あなたも。」

「ようやく、生きることを思い出したのですね。」

虚空は初めて一歩後ろへ下がる。

感情を持った観測者。

それは、虚空の予測には存在しない未来だった。

闇がわずかに揺らぐ。

氷雨はその変化を見逃さなかった。

希望の剣を強く握り、一歩前へ踏み出す。

「今なら――届く!」

蒼い光が闇を照らし、最後の反撃が始まろうとしていた。

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