第四部 第七話『蒼き希望』
創世の外側。
蒼い光と、透明な光。
二つの剣が交差する。
――キィィィン……
金属音ではない。
世界そのものが共鳴する音だった。
衝撃は七つの階層世界へ伝わり、空が震え、海が揺れ、大地が静かに鳴り響く。
氷雨は《希望の剣》を強く握る。
観測者の王の《創世剣》は、斬るたびに原初文字を書き換えていく。
《止》
《滅》
《無》
三つの文字が剣先から放たれる。
「氷雨!」
月斗が叫ぶ。
「右へ!」
氷雨は迷わず跳ぶ。
《無》が通り過ぎた場所は、景色ごと消えていく。
恐ろしい力だった。
夜城零が横へ並ぶ。
「俺が道を開く!」
黒い剣を構える。
《虚無断界・極》
今までとは違う。
黒い斬撃ではなく、無数の黒い線が世界へ刻まれる。
創世剣と真正面から激突した。
轟音。
夜城零は後ろへ弾き飛ばされる。
「零さん!」
茜音が駆け寄る。
夜城零は立ち上がるが、黒い剣は限界だった。
ゆっくりと砕け始める。
「……ここまでか。」
何十年も共に戦った剣。
静かに光となって消えていった。
観測者の王は感情のない瞳で呟く。
「武装消失。」
「戦力低下。」
しかし夜城零は笑った。
「違う。」
「俺はもう、一人で戦わない。」
氷雨が前へ出る。
茜音も。
月斗も。
四人は肩を並べた。
創世の巫女は、その光景を見つめていた。
胸の奥が温かい。
(これが……。)
(仲間。)
自然と涙が零れる。
その涙は青い花へ落ちる。
すると。
六輪目の花が咲いた。
そして七輪目も。
創世の外側一面へ、青い花が広がり始める。
観測者の王が初めて空を見上げた。
「世界の記録にない現象。」
「名称……不明。」
創世者が静かに答える。
「違う。」
「それには名前がある。」
創世者は氷雨たちを見つめる。
「――希望だ。」
その瞬間。
創世者の身体が淡い光へ変わっていく。
巫女が驚く。
「待って!」
創世者は優しく微笑んだ。
「私は役目だけで生きてきた。」
「でも最後くらいは。」
「自分で選びたい。」
右手を伸ばす。
創世者の身体は無数の《原初文字》へ変わっていく。
《命》
《心》
《絆》
《夢》
文字たちはゆっくりと氷雨の《希望の剣》へ吸い込まれていった。
夜城零が目を見開く。
「創世者……!」
「お前……。」
創世者は静かに笑う。
「世界を。」
「お願いします。」
その姿は光となって消えた。
創世の外側が震える。
観測者の王の瞳が初めて大きく揺らぐ。
「創世者。」
「消滅確認。」
「……理解不能。」
月斗は《天測》を発動する。
未来を見る。
今まで一本だった未来が。
十本。
百本。
千本。
無限に枝分かれしていく。
「見える……!」
「未来が戻ってきた!」
茜音は笑顔で叫ぶ。
「氷雨!」
「今なら届く!」
夜城零も力強く頷く。
「行け!」
氷雨は《希望の剣》を握り締める。
その刃は、創世者から受け継いだ《命》《心》《絆》《夢》の文字で輝いていた。
観測者の王は静かに創世剣を構える。
「最終観測。」
「開始。」
氷雨はまっすぐ前を見る。
もう迷いはない。
仲間たちの想い。
世界中の願い。
すべてを胸に、一歩踏み出す。
その瞬間――
創世の外側全体に、誰も聞いたことのない鐘の音が響いた。
観測者の王は静かに空を見上げる。
「……来たか。」
その視線の先。
さらに高く。
さらに遠く。
創世者すら見上げていた場所に、一つの扉がゆっくりと開き始める。
扉に刻まれていた文字は、ただ一つ。
《始》
誰かが、この戦いを見届けようとしていた。




