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零界凍結 ―境界記録―  作者: 淺桜雫音
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第四部 第四話『創世の巫女』

創世の外側。

淡い青い花が、一輪だけ咲いていた。

何も存在しなかった空間に生まれた、最初の"生命"。

少女は、その花を不思議そうに見つめる。

「……これ。」

「私が……?」

自分でも分からない。

ただ涙が落ちた。

それだけだった。

氷雨はゆっくり近付く。

「大丈夫?」

少女は振り返る。

星空の瞳。

どこか懐かしい優しい笑顔。

「……分からない。」

「何も思い出せないの。」

その声は震えていた。

茜音も隣に立つ。

「だったら!」

にこっと笑う。

「今から思い出せばいいじゃん!」

少女は驚いた顔をする。

「……怒らないの?」

「私、何者か分からないよ?」

茜音は首を傾げた。

「だから?」

「それで嫌いになる理由なんてないよ。」

少女の瞳が少し潤む。

夜城零は静かに二人を見ていた。

「茜音らしいな。」

小さく笑う。

しかし次の瞬間。

表情が引き締まる。

「油断するな。」

「創世者は、この少女を回収しに来る。」

まるで、その言葉を待っていたかのように。

創世の外側全体が震え始めた。

無数の《原初文字》が集まり、一つの巨大な円陣を描く。

《回》

《帰》

《創》

《命》

四つの文字が強く輝いた。

創世者の声が響く。

「管理番号・零〇〇一。」

「帰還命令。」

少女は苦しそうに頭を押さえる。

「……あっ。」

「頭が……。」

無数の記憶が流れ込む。

白い世界。

創世者。

神王。

七つの世界。

そして――。

「私は……。」

「世界を創るための器……。」

その瞬間。

少女の身体が淡く光り始めた。

「だめ!」

氷雨が少女の手を握る。

青い光が重なる。

「あなたは道具なんかじゃない。」

少女は涙を流す。

「でも……。」

「私は創世者が作った存在。」

「世界を何度も作り直すためだけに生まれた。」

「私には心なんて――。」

「あるよ。」

氷雨は優しく答えた。

「今、泣いてる。」

「それだけで十分。」

少女は言葉を失う。

その様子を見ていた月斗が静かに目を閉じる。

《天測》。

未来を見る。

数え切れない可能性。

その中に、一筋だけ眩しく輝く未来があった。

「……見えた。」

夜城零が振り向く。

「何がだ?」

月斗はゆっくり答える。

「創世者を止める方法。」

「でも。」

「それには、この子が必要だ。」

創世者の巨大な瞳が赤く染まる。

「拒否反応確認。」

「感情発生。」

「管理不能。」

「対象を初期化します。」

巨大な光の槍が空から降り注ぐ。

夜城零が飛び出した。

「下がれ!」

《虚無断界》!

黒い斬撃が槍を受け止める。

しかし。

バキッ――。

黒い剣に亀裂が入る。

夜城零が初めて苦しそうな表情を見せた。

「ぐっ……!」

茜音が叫ぶ。

「零さん!」

少女は震えていた。

「また……。」

「また誰かが私を守って傷つく。」

その瞳から光が溢れる。

青でも白でも黒でもない。

七色の輝き。

咲希が神域からその光を見て、小さく息を呑む。

「やっぱり……。」

「目覚めた。」

少女はゆっくり前へ歩き出す。

創世者を見上げる。

「もう。」

「誰も傷付けないで。」

その瞬間。

世界中の《原初文字》が、一斉に震えた。

《命》が輝き、

《心》が鼓動し、

《希望》が光を放つ。

創世者が初めて感情のような揺らぎを見せる。

「……想定外。」

「心の共鳴。」

夜城零は静かに少女を見る。

「お前は……。」

「創世の巫女じゃない。」

少女は振り返る。

夜城零は穏やかに微笑んだ。

「世界が初めて、自分の意思で生んだ命だ。」

少女の瞳が大きく揺れる。

そして、小さく頷いた。

「……私。」

「生きても、いいのかな。」

氷雨は迷わず微笑んだ。

「もちろん。」

「一緒に未来へ行こう。」

少女は、その言葉に初めて心から笑った。

その笑顔とともに、創世の外側には二輪目の青い花が咲く。

そして遠く、創世者の瞳が静かに細められた。

「……観測を変更。」

「『排除』ではない。」

「『確認』を開始する。」

創世者が初めて計画を変えた瞬間だった。

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