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零界凍結 ―境界記録―  作者: 淺桜雫音
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第四部 第三話『創世の手』

創世の外側。

無数の《原初文字》が渦を巻く。

その中心から現れた巨大な光の手は、星よりも大きく、世界そのものを掴めるほどの大きさだった。

手がゆっくりと動く。

それだけで周囲の文字が次々と並び替えられていく。

《生》

《滅》

《時》

《終》

世界の法則が、一瞬ごとに書き換わっていた。

茜音は思わず立ち止まる。

「……こんなの。」

「どうやって戦えばいいの?」

誰も答えられない。

今まで戦ってきた敵とは違う。

力ではない。

法則そのものだった。

夜城零は静かに前へ出る。

黒い剣を構える。

「俺が時間を稼ぐ。」

氷雨が振り向く。

「一人じゃ無理!」

夜城零は小さく笑う。

「知っている。」

「だから、お前たちが必要なんだ。」

その言葉に三人は頷いた。

もう誰も、一人では戦わない。

その瞬間。

巨大な手が指を一本動かす。

たったそれだけだった。

しかし。

四人の立つ空間が突然崩れ始める。

「危ない!」

月斗が叫ぶ。

《重力の楔》を展開。

足場を固定する。

だが――

「重力……消された!」

能力そのものが解除される。

月斗は目を見開いた。

「能力を書き換えられた……!」

巨大な手から一文字が落ちる。

《無》

文字は静かに降りてくる。

しかし近付くだけで周囲の原初文字が消え始めた。

夜城零の表情が変わる。

「あれには触れるな!」

「存在そのものを消される!」

氷雨は前へ出る。

(また守れないなんて。)

(そんなの嫌。)

青い光が全身を包む。

《零界凍結・蒼天終焉》

冷気ではない。

存在を固定する青い輝き。

氷雨は《無》へ手を伸ばす。

「止まれ。」

その瞬間。

《無》が青く凍りついた。

時間が止まったように、文字が空中で静止する。

夜城零が息を呑む。

「……凍らせた。」

「原初文字を固定したのか。」

しかし。

巨大な手は動きを止めない。

ゆっくりと掌を開く。

そこから数え切れないほどの文字が溢れ出した。

《海》

《空》

《命》

《涙》

《希望》

《絶望》

無数の文字が混ざり合い、一つの巨大な存在を形作っていく。

茜音が震えた声で呟く。

「新しい敵……?」

夜城零は首を横に振る。

「違う。」

「あれは敵じゃない。」

「あれは――」

光が弾ける。

そこに立っていたのは。

一人の少女だった。

白いワンピース。

長い黒髪。

年は氷雨たちと同じくらい。

だが、その瞳には星空が広がっている。

少女はゆっくりと辺りを見回した。

そして、小さく首をかしげる。

「……ここは?」

その声は、とても優しかった。

巨大な手が止まる。

原初の使徒も膝をつく。

創世者の声が世界中へ響く。

「管理番号・零〇〇一。」

「創世の巫女。」

「起動完了。」

その言葉に夜城零の顔色が変わった。

「まさか……。」

「まだ存在していたのか。」

少女は氷雨を見る。

しばらく見つめたあと、ゆっくり微笑んだ。

「初めまして。」

「私は……。」

一瞬、言葉が途切れる。

まるで自分の名前を忘れているようだった。

「……思い出せない。」

その瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。

その涙が床へ落ちた瞬間。

創世の外側に初めて、小さな花が咲いた。

誰も見たことのない、淡い青色の花だった。

神域で別れた咲希は、その花を遠くから感じ取り、小さく目を見開く。

「まさか……。」

「創世の巫女が目覚めたの……?」

その呟きと同時に、創世者の巨大な瞳が静かに開く。

今度は確かに、氷雨たちだけではない。

目覚めた少女を見つめていた。

世界の外側で、新たな運命が動き始める。

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