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零界凍結 ―境界記録―  作者: 淺桜雫音
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第四部 第二話『原初の使徒』

創の扉。

その奥から、一人の人影がゆっくりと歩いてくる。

白い空間に足音は響かない。

それでも、その一歩ごとに無数の《原初文字》が静かに揺れていた。

やがて姿が見える。

純白のローブ。

肩まで伸びた銀色の髪。

年齢は二十歳ほどにも、老人にも見える不思議な顔立ち。

そして瞳だけが、文字でできていた。

右目には《創》。

左目には《終》。

茜音は思わず息を呑む。

「……人?」

夜城零は首を横に振る。

「違う。」

「創世執行者の中でも最上位。」

「《原初の使徒》だ。」

使徒は静かに四人を見る。

感情はない。

怒りも悲しみもない。

ただ、役目だけが存在していた。

「旧世界存続因子を確認。」

「創世者の命令を実行します。」

その声と同時に、空間へ無数の文字が浮かぶ。

《火》

《風》

《命》

《滅》

文字は星のように回転し始めた。

月斗が低く呟く。

「文字そのものが武器になるのか……。」

「来る!」

夜城零が叫ぶ。

《滅》の文字が一瞬で巨大化した。

四人へ向かって落下する。

「重力固定!」

月斗が能力を発動。

重力の壁が文字を受け止める。

しかし――。

バキッ。

壁に亀裂が入る。

「重力を……書き換えてる!」

月斗の表情が曇る。

今まで見たことのない現象だった。

茜音が前へ飛び出す。

「だったら!」

大きく息を吸う。

「《共鳴歌・星彩》!」

澄んだ歌声が広がる。

音ではない。

仲間の心へ直接届く旋律。

氷雨の身体が淡く輝く。

月斗の瞳にも光が宿る。

夜城零は静かに笑った。

「力を繋いだか。」

氷雨は使徒を見つめる。

(冷たい。)

(でも……。)

(夜城零とは違う。)

そこには迷いも苦しみもない。

ただ空っぽだった。

氷雨は剣を握る。

「あなたは……。」

「自分で選んだこと、一度もないの?」

使徒は答えない。

数秒の沈黙。

そして。

「選択。」

「不要。」

その一言だけだった。

氷雨の胸が痛む。

(この人も……。)

(命令だけで生きてる。)

青い光が溢れ出す。

「《零界凍結・蒼天終焉》!」

今度は使徒ではない。

使徒の周囲を漂う《原初文字》へ向けて放つ。

氷は《滅》と《終》を包み込む。

初めて原初文字の動きが止まった。

使徒が少しだけ目を見開く。

「……干渉。」

「確認。」

夜城零が一瞬の隙を逃さない。

黒い剣を抜く。

「《虚無断界》!」

黒い斬撃が一直線に走る。

初めて使徒の肩を浅く切り裂いた。

しかし――

血は流れない。

傷口からこぼれたのは、小さな光の文字だった。

《創》

《命》

《時》

文字は再び身体へ吸い込まれ、傷は跡形もなく消えていく。

茜音が目を見開く。

「回復した……?」

夜城零は険しい表情で呟く。

「違う。」

「あいつ自身が文字で構成されている。」

「身体じゃない。」

「存在そのものが文字なんだ。」

その時だった。

使徒はゆっくりと右手を胸へ当てる。

「能力値。」

「基準値を超過。」

「創世者へ報告。」

瞳の《創》が赤く染まる。

世界中の原初文字が震え始めた。

遠い彼方から、巨大な気配が近づいてくる。

夜城零は剣を握り直した。

「まずい……。」

「創世者が、こちらを認識した。」

四人の前で、無数の原初文字が渦を巻く。

その中心から、どこまでも巨大な光の手がゆっくりと姿を現した。

それは世界を創った存在の手だった。

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