第三部 第三話『神王の記憶』
神域の空は静まり返っていた。
神喰らいは動きを止めたまま、胸に刻まれた金色の紋章を輝かせている。
その光はまるで誰かを呼ぶように脈打っていた。
咲希の告白
「……あの紋章は、神王直属の証。」
咲希はゆっくりと言葉を続ける。
「神王は七つの階層世界を創った存在ではありません。」
三人が驚いた表情を見せる。
「世界を創ったのは、もっと昔の存在です。」
「神王は、その世界を『管理する役目』を与えられた存在でした。」
世界の始まり
咲希が手をかざすと、神域の空に映像が浮かぶ。
何もない闇。
そこに七つの光が生まれる。
七つの光は重なり合い、一つの大きな世界となる。
しかし時が流れ、人々の願い、悲しみ、憎しみが積み重なり、世界は少しずつ歪み始めた。
神王は世界を守るため、七つの階層へ分けた。
「それが今の世界です。」
夜城零の過去
映像が切り替わる。
若い頃の夜城零。
境界管理局の白い制服を着て、多くの人々を助けている。
茜音は思わずつぶやく。
「……優しそう。」
咲希は静かにうなずく。
「彼は、誰よりも人を救いたかった。」
ある日、夜城零は神王から未来を見せられる。
七つの階層すべてが崩壊し、人々が消えていく未来。
「救う方法は一つだけ。」
神王は告げた。
「感情を消し、世界を完全な秩序へ変えること。」
夜城零は長く沈黙した。
そして――。
「……分かりました。」
その一言で、彼の運命は変わった。
茜音の怒り
「そんなの違う!」
茜音が叫ぶ。
「悲しい未来が見えたからって、人の心まで消していいわけじゃない!」
その声は神域中に響いた。
月斗の疑問
「でも、一つだけ分からない。」
月斗が咲希を見る。
「神王が本当に正しいなら、どうして神喰らいなんて存在が生まれた?」
咲希は少し目を伏せた。
「……神王もまた、完全ではなかった。」
氷雨の共鳴
その瞬間。
氷雨の胸が強く痛む。
神喰らいの方から、誰かの声が聞こえた。
「助けて……。」
かすかな声。
子どものような、震えた声だった。
氷雨は息をのむ。
「今……誰かが。」
神喰らいの正体
神喰らいの身体に亀裂が走る。
黒い外殻が少しずつ剥がれ落ち、その奥から一人の少年の姿が見えた。
まだ十歳ほどの子ども。
眠ったまま、苦しそうな表情を浮かべている。
咲希は青ざめる。
「そんな……!」
「神喰らいは怪物じゃない……!」
「封印された人間だったの……!?」
夜城零、現る
神域の奥から足音が響く。
ゆっくりと歩いてくる一人の男。
黒いコート。
静かな瞳。
夜城零だった。
「そこまでだ。」
彼は神喰らいを見つめ、静かに言う。
「その封印を解けば、七つの世界は消える。」
氷雨は一歩前へ出る。
「だったら、あの子はずっと苦しめっていうの?」
夜城零は答えない。
ただ静かに目を閉じる。
宣言
夜城零は三人を見つめる。
「お前たちが正しいと思うなら。」
「神王の間まで来い。」
「そこで答えを出そう。」
そう言い残し、彼は光の中へ消えていく。
神喰らいの少年の指先が、わずかに動いた。
そして小さくつぶやく。
「……たすけて。」
その一言が、氷雨の胸に深く刻まれた。




