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008. もう、おしまいですわあぁぁ……!!

 こことは別の世界で暮らしていたこと。目が覚めたら、アリアさんの体に乗り移ってしまっていたこと。魔法への憧れから、無理やりダンジョンに向かうことにしたこと……。怯えながら話す俺のことを、アミュレットさんはじっと睨み続けていた。


(な、なるほど……そういうことでしたのね……)


 馬車の中で話せなかった部分を知り、アリアさんは納得したように呟いた。


「し、信じてくれますか……?」


 おそるおそる問いかけると、アミュレットさんは目を伏せた。


「……異世界からの転生? 魂が乗り移った? ハっ、荒唐無稽過ぎて笑えるな」


 そう言って顔を上げたアミュレットさんの目はあまりにも冷ややかで、まるで軽蔑するかのように、彼女は俺を見ていた。


「貴様が真面目に話をする気がないということが、よーくわかった」


「えぇっ!? いやっ、そんなことは……!」


「アリア様の行方に関しては、貴様の体に聞くとしよう。まずは左足からだ」


(ひぃぃっ!? え、エイト様! このままではっ……アミュレットに足を折られてしまいますわっ!)


 マズイ……! 異世界転生という概念がそもそも無いせいで、作り話だと思われてしまったみたいだ……! このままでは、質問が拷問に変わってしまう……!


「ま、待ってください! もう一度だけ、チャンスをくれませんか!?」


 借り物の体に傷をつけるわけにはいかないし、そもそも痛いのは嫌だ!


「アリアさんがこの体の中にいると! アミュレットさんが確信できればいいわけですよね!?」


「まだそんなことを言っているのか。よほど痛めつけられたいようだな」


 アミュレットさんの声と表情に、苛立ちが滲みはじめる。


「あ、アリアさん! なにかっ、アリアさんしか知らないようなことは無い!?」


(わ、わたくししか知らないこと……でございますか……!?)


「他の人が絶対知らない情報があれば、アミュレットさんも信じてくれるはずだから!!」


(そんなっ、急に言われましても……!!)


「なんでもいいから捻り出して!! 足が折られちゃう前に!!」


(ひぃっ!? え、えぇとっ……!!)


 俺の頭の中だけに響く、アリアさんの声とのやり取り。それをアミュレットさんは、顔を引きつらせながら見ていた。


「お嬢様の姿で……見苦しい真似をするな……!」


 そう言って彼女は、ゆっくりと足を構えていく。


「わああ待って!! アリアさぁん!! なんかっ!! 二人だけの秘密とかないの!?」


(ひ、秘密ですか!? えぇと、えぇと……!! あっ!!)


 そしてアリアさんは、ようやく何かを思いついたように声を上げた。


(あ、アミュレットの胸の谷間には、小さなホクロがございますわ!!)


「……は!?」


 なんだそのセクシーシークレットは!?


湯浴(ゆあ)みのときに見つけて、わたくしが指摘するとアミュレットは恥ずかしそうに、『秘密ですよ』と言っておりましたわ!! これならどうでしょう!?)


 どうでしょう!? じゃねえよ! そんなこと俺が言ったらドセクハラじゃねえか!!


「あ、アミュレットさん!! あなた、胸の谷間に小さなホクロがありますね!?」


「――なっ!?」


 背に腹は代えられず、意を決して叫んだ俺の言葉に、アミュレットさんは一瞬の沈黙を挟み、驚愕の表情へと変貌(へんぼう)した。


「なぜ貴様がそれを!? お嬢様にしか知られていないはず……はっ!?」


「ですよね!? それが、アリアさんがこの体の中にいるという、何よりの証拠ですよ!!」


 なんにせよこのまま押し切るしかない! 頼む、通ってくれ!!


「……っ! いや! まだ信用ならんな! 貴様がプロの覗き魔である可能性が、まだ残っている!」


 そんなわけないだろ! 失礼な!


「二年前の夜! お嬢様がとあるミスを犯し、(わたし)が対応に当たった一件がある! それはお嬢様の名誉のため、誰にも口外せず守り続けてきた完全秘匿案件だ! 本当にお嬢様がそこにいるというのなら……何が起きたのか答えられるはずだ!」


 来た! 向こうから提案された試練なら、きっと納得してくれるはず! あとはアリアさんが思い出せるかどうかだけ……!


「って言ってるけど! アリアさん、どう!?」


(二年前の……夜……!?)


 そう呟いたアリアさんの声には、なぜか絶望の色が滲んでいた。


(あ、あぁ……!! い、嫌ですわ……!! わたくしっ、それだけは……!!)


「嫌ってなに!? 足折られるほうが嫌でしょ!? そんなにヤバいミスしたの!?」


(う、ううぅ……! ううぅうぅぅ……!!)


 ひとしきり(うめ)き声を上げたかと思うと、アリアさんは声を震わせながら話しだした。


(……エイト様、どうか、幻滅しないでくださいまし……)


 ――そして彼女が涙をこらえながら語った話を、アミュレットさんに伝えるため、俺は口を開いた。


「……あー、その、アリアさんはその日怖い夢を見ちゃって、それで……『お漏らし』しちゃったらしいんですけど、それですか……?」


(うぎゅううぅぅぅ……!!)


 恥ずかしさからか、アリアさんは変な鳴き声を上げた。まあ、気持ちはわかる……。


「そんな、馬鹿な……!」


 一方のアミュレットさんは、信じられないといった表情で俺を見つめていた。


「ありえない……しかしこれは、お嬢様と(わたし)だけの秘密……! 他人が知り得ることなど、それこそありえない……!」


 彼女は何かを呟きながら、数歩後ずさりをした。


「……お前、名前はなんと言ったか……?」


「え? あ、エイトって言います……」


「エイト、お嬢様は……アリア様はそこにいるのか……?」


「あっはい。なんか、恥ずかしすぎて泣いてますけど……」


(うええぇぇん……!! もう、おしまいですわあぁぁ……!!)


「そうか……。(わたし)が、余計なことをしたせいだな……」


 そう言ってアミュレットさんは、その場に膝をついて頭を下げた。


「アリア様、大変申し訳ございません……! まさか、そのような状況になっているとは夢にも思わず……アリア様に恥をかかせてしまいました……。どうか、お許しください……」


 その声色にさっきまでの威圧感はなく、反省が色濃く滲んでいた。


(ひぐっ……ぐすん……! エイト様……アミュレットに、『気にしないで』と伝えていただけますか……?)


「あぁ、えっと、アリアさんはもう気にしてないみたいなんで、顔上げてもらって……」


 それを聞き、アミュレットさんはゆっくりと頭を上げた。


「……アリア様、ありがとうございます。それから……」


 そして彼女は、申し訳なさそうな顔でじっと俺の目を見つめる。


「エイト、疑ってすまなかった。アリア様に何かあったのかと、気が気じゃなかったんだ……」


「あぁいや、気にしないでもらっていいですよ。信じてもらえたんなら、それで十分なんで……」


「……そうか、ありがとう」


 そう言って彼女は立ち上がり、地面にへたり込んだままだった俺に向かって手を伸ばした。


「ドレスが汚れてしまうぞ。さあ、(わたし)の手を取れ」

読んでいただきありがとうございます!

少しでも「おもしろい」と思っていただけたなら幸いです……。

応援、リアクション、感想、ブックマーク、なんでもお待ちしております!


今後とも、よろしくお願い申し上げます。

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