009. ありのまま……でございますか……
( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)
「ずいぶん魔法にこだわるな。なぜだ?」
「なぜ、と言われても……男はみんなそういうもんだと思いますよ」
さっき疑ってしまったお詫びとして、せっかくなら魔物を見てみたいという俺の願望に、アミュレットさんは付き合ってくれるらしい。なのでいま俺たちは、ダンジョンのさらに奥へと向かっている。
「よくわからんな。才能が全ての魔術とは違って、剣術や格闘術のほうがとっつきやすく伸びやすいのだから、そっちを納めたほうが有意義に思うが」
……実際のところ、魔法にこだわる必要はないだろう。剣士や武闘家としての戦いに憧れてないわけじゃないし。……でもやっぱり、個人的には魔法使いになりたいなと、そう思う。
(……ふふっ)
そんなことを考えていると、頭の中にアリアさんの笑い声が響いた。
「ん。どうしたのアリアさん」
(わわっ……! も、申し訳ございません! 思わず……)
「お嬢様? どうかなさいましたか?」
状況の読めないアミュレットさんが、心配そうに俺のことを見る。
(その……アミュレットがこんなに砕けた話し方をするなんて、思いもしませんでしたので……)
たしかに、さっきまでのアミュレットさんは常に優しく微笑んでいるような、包容力のあるお姉さんキャラといった口調だった。だが、俺が乗り移っていることを知ってからは、キリッとした顔つきのクール系美人に様変わりしている。まるで二重人格だ。
「アミュレットさんの話し方が、新鮮で面白いっつって笑ってますよ」
(うえぇ!? わっ、わたくし、そこまで言っておりませんわぁ!?)
「うっ!? そ、それは……!」
痛いところを突かれたといった様子で、アミュレットさんは顔を背けた。
「申し訳ありません、お嬢様……。仮にも礼儀作法の師としてお嬢様をご指導していたにも関わらず、このような礼節を欠いた言葉遣いを……」
そういや、アミュレットさんが先生なんだっけか。……スパルタ気味だったのって、そっちがほんとの性格だからなんじゃないか?
(え、えとっ、咎めたかったわけではないのです……! エイト様の言うとおり、新鮮だったものですから……。わたくしの知らない一面が見られたことに、つい嬉しくなってしまって……)
そう語ったアリアさんの言葉を、俺はそっくりそのまま、アミュレットさんに伝えることにした。
「――ことに、つい嬉しくなってしまって……! って言ってっすけど」
この数時間で、アリアさんの口調は完全にマスターしている。その技術を存分に使い、完璧なモノマネを披露してみせた。
(えええエイト様!? こっ、後半はエイト様にご説明するためのものでっ! アミュレットに向けた言葉ではありませんわぁ!?)
いや知りませんがな……そういうのは先に言っといてもらえませんと……。
「う、嬉しい、でございますか……!? そ、それなら良いのですが……!」
狼狽えるアミュレットさんの顔が、ほんのりと赤く染まって見えた。
「と、とはいえ! このような粗野な言葉遣いは、今後慎みますので……」
(ふえっ……? や、やめてしまうのですか……? それは……少し、寂しいですわね……)
「――っつってますけど」
「寂しい……!? と、申されましても……!」
(立場上、作法を重んじなければならないのは、わかっておりますわ……。けれど、エイト様と話しているときのアミュレットも、わたくしは素敵だと思いますし……。せめて周囲に誰もいないときくらいは、ありのままの自分でいてほしいと、そう思うのです……」
頭の中に響くアリアさんの声を、俺はスピーカーのごとくそのまま発した。
「ありのまま……でございますか……」
アミュレットさんは少しの間、俯いたまま考え込んでいたが、やがてため息を一つこぼし、顔を上げた。
「……かしこまりました、お嬢様。今後エイトとの会話の際は、言葉を崩させていただきますわ」
目尻を下げた柔らかな微笑みで、アミュレットさんは言った。
――が、その後すぐに眉をひそめ、彼女は俺を睨みつけながら口を開いた。
「おいエイト……! お嬢様は誰かと話す際、慎ましげに目を逸らす癖があるんだ……! もっと伏目がちに話せ!」
(ふえぇ!?!?)
「は、はぁ……」
本人を前にして何を言ってんだこの人……。
「それに! 言葉遣いがまるでなっていない! お嬢様から伝えられたであろう部分はともかくとして、お前自身が話しているときの言葉は、無作法にもほどがある! 仮にもお嬢様の体で、そんな適当な振る舞いをするんじゃない!」
「うっ……!? す、すいません……」
そんなこと言われましても……王女様らしい話し方なんて教わってないもんで……。
「それから! そんな大股で歩くんじゃあない! 背筋を伸ばせ! 手は前で組む!」
「はっ、はいぃ!」
しまいには王女様らしい歩き方講座まで始まってしまった。どうしてこんなことに……。
(わ、わたくしっ、余計なことを言ってしまったのでしょうか……!?)
うーん、そうかも……。
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