005. これから披露します奇術に! タネも仕掛けも、もちろん魔法もございません!
『ポーター』。目的地であるダンジョンにほど近い、小さな港町だ。船での交易が盛んで、常に活気があって素敵な町だと、アリアさんが教えてくれた。
「こちらで少々お待ちくださいませ」
数分歩いたところで、大きなレストランらしき建物の前で立ち止まると、アミュレットさんはそう言って中へと入っていった。
「やばっ……。俺、食事のマナーとか全然わかんないんだけど……」
(まあ、そうなのですか? でも大丈夫ですわ! わたくしが責任をもって、ご支援いたしますので!)
「助かるよ、ありがとう」
そう言って、俺はふと周囲を見渡してみた。路地を一つ入ったところにあるせいか、辺りには人の気配がない。
「……フード取っても大丈夫かな。これ、あっついんだよね……よっと」
(わわっ!? え、エイト様! お、お待ちください……!)
「え、ダメだった?」
(い、いえ! そのっ……! ま、前髪が……!)
――さっき着替えているとき、視界を覆うように垂れ下がっていた前髪が邪魔だったので、カチューシャでデコ出しにイメチェンしておいた。が、どうやらそれがアリアさんには、恥ずかしくてたまらないようで……。
「そうは言ってもなぁ……。前がよく見えないと危ないし……それに、鏡で見たときはこっちの髪型も可愛かったよ?」
(かっ、かかっ……!? かわいいっ……!? ですの……!?)
驚き、慌てふためいたような声で彼女は言った。その狼狽え方が少し面白くて、つい笑ってしまった。
「お嬢様、お待たせいたしました。……ふふっ。やはりそちらのほうが、笑顔がよく見えて素敵ですね」
(ひゃわぁっ!? あ、アミュレットまで……!)
俺が笑っているのを見て、アミュレットさんもそう言って微笑んだ。
「ほらね?」
そっと呟き、俺は店の中へと足を踏み入れた。
(うぅ……! エイト様のいじわる……!)
「アリア様、申し訳ございません。少々問題が……」
外套をアミュレットさんに預け、案内されたテーブルに腰を下ろすと、彼女は目線を合わせるように屈みながら、そう言った。
「これはこれは……! 王女殿下ではございませんか……!」
その時、店の奥から一人の男が姿を現した。
「これほどの高級店を貸し切ってしまうほどのVIP、いったいどれほどの権力をお持ちの方なのかと思っておりましたが……まさか王国のトップが参られていたとは……!」
コツコツと革靴の音を響かせながら、彼は妙に芝居がかった口調で話す。
「お初にお目にかかります。ワタクシはしがない奇術師……名を、マーク・ドルフと申す者。以後、お見知りおきいただけますと幸いにございます」
黒いスーツに身を包み、大げさな身振り手振りを交えながら語った、顔半分を仮面で隠した謎の男……マークは、被っていたシルクハットを片手で取り、その手を胸元に添えながら恭しくお辞儀をした。
「え、えーっと……」
いかにも怪しげな男の登場に、俺もアリアさんも何も言えないまま固まってしまった。
「彼はこの店のオーナーの知人らしく……我々が秘密裏にこの店を貸切る条件として、自分のショーをぜひ見てもらいたいと申しておりまして……」
「もちろん、お時間は取らせません。料理が来るまでのほんの数分……ワタクシにお恵みいただけませんでしょうか?」
シルクハットを被りなおし、キザにウインクを飛ばすその姿は、男の俺でもドキッとさせられてしまうほどにかっこよく見えた。
(奇術ショー……なんだか楽しそうですわね……!)
アリアさんも結構乗り気みたいだし、俺も少し興味がある。魔法が存在する世界での奇術……マジックとはいったい、どういうものなのか。しかも、料理を待つ間の暇つぶしになるってんだから、一石三鳥だぜ!
「それでは、ぜひお願いいたしますわ!」
「おぉ……! 寛大なお心遣い、感謝いたします……。それでは……!」
そう言って彼は一歩後ろに下がると、両手を左右に広げて天井を仰いだ。
「これから披露します奇術に! タネも仕掛けも、もちろん魔法もございません!」
どこかで聞いたことのあるような口上を、彼は高らかに宣言した。
「まずは手始めに……こちらの、カードを使った奇術をお見せいたしましょう!」
すると彼の手の中には、どこから取り出したのかカードの束が乗せられていた。
(わっ!? い、いつの間に取り出したのでしょうか……!?)
頭の中で、アリアさんは素直に驚き声を上げた。が、カードマジックか……。なんか、異世界って感じが全然しないな……。
それでも、プロのマジシャンというのはすごいもので、終わるころには俺もすっかり心を掴まれていた。それこそ、アリアさんの口調に合わせるのが難しくなるくらいには、しっかりと驚かされてしまっていた。
「――と、お楽しみいただいているところ申し訳ないのですが……どうやらお時間が来てしまったようです」
そう言って彼は、不意にテーブルのほうを指差した。するとそこには、いつのまにかコース料理の一品目、スープが配膳されていた。
(はわわっ!? い、いつのまに……!)
「わぁっ! す、すごい……ですわ!」
「本日の一品目は、今朝水揚げされたばかりの甲殻類を殻ごと煮出し、香味野菜の旨みを重ねて丁寧に仕上げたものとなっております。どうぞ存分に、ご堪能くださいませ……」
料理の登場までショーに組み込むなんて……その完璧な設計に、俺もアリアさんも夢中になっていた。
「さて、ワタクシのショーは……どうやら、気に入っていただけたようですね」
そして彼は微笑み、その場でくるりと後ろを振り向いた。
「普段はワタクシ、各地をぐるぐると巡業しております。ですがもし、またワタクシのショーが見たいと思っていただけたのなら……その時はそちらの、お膝元にございますカードに記載の連絡先に、いつでもご用命ください……」
「……カード? うえっ!?」
(あ、ありますわ!? カードがっ!!)
膝の上、いつのまにか置かれていたカードには、連絡先らしき文字の羅列が書かれている。さすがに電話番号とかではなさそうなので、手紙の宛先とかだろうか。
……ってか、すごすぎない……!? マジでいつの間に置いた……!?
(エイト様! こんな素晴らしいショーを見せてくれた彼に、お礼を言いましょう! 内容は……)
絶対そうすべきだと思う。こんなんタダで見れていいのかよって感じだぜ……。
(……あら? マーク様は、どこに……?)
お礼を言おうとマークさんのほうを見るも、彼の姿がどこにも見当たらない。
「……ふふっ、アリア様がカードに気を取られているうちに、どこかへ消えてしまったようですね」
隣に立っていたアミュレットさんが、微笑みながら教えてくれた。
(なんてこと……! お礼を言いそびれてしまいましたわ……!)
立ち去るところまでを含めてショーだったということか……プロすぎる……。
「さ、アリア様? スープが冷めないうちに、お召し上がりくださいませ」
そして俺は、奇術ショーの興奮冷めやらぬうちに、スプーンを手に取った。
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