049. いらっしゃい、私の可愛い生徒さんたち!
「いらっしゃい、私の可愛い生徒さんたち!」
二日連続で訪れた学園長室。俺とヨゾラさんは、揃って笑顔で迎えられた。
「今日は何のご用かしら?」
「すみません、少し聞きたいことがあって……」
『その……! と、途中入学のような制度は、こちらの学園にはございますのでしょうか……?』
俺からの問いかけに、学園長先生は笑顔をそのままに、怪訝そうに軽く首を傾げた。
『じ、実は……わたくしのもとでお仕えいただいている見習いメイドが、こちらの学園に、興味を持っているようなのです……』
「あら、そうなの? ……従者の想いを主人が汲むなんて、偉いわねアリアさん」
『ふえっ……!? あっ、ありがとう、ございます……!』
突然の褒められに、俺は慌てて照れた表情を作る。
「……でも、ごめんなさいね。それは少し、難しいことかもしれないわ……」
そう言って、学園長先生は目を伏せた。
「その見習いメイドさんは、どこか他のお家から奉公に来ている方なのかしら?」
『い、いえ……。彼は、アミュレットの弟君で……』
「アミュレット……あぁ、あのメイド長さんね。ではそのお二人は、どこか名家の出であったりは?」
『そっ、それは……! その、そういうわけでは……』
「そう……」
アリアさんの言葉に、学園長先生はひどく申し訳なさそうに答えた。
「なら残念だけど、入学は許可できないわね……」
『そ、そんな……!』
「いくら王家のメイドさんとはいえ……しかるべき家柄の出でなければ、受け入れることはできないのよ……」
……なんということだ。アリアさんの詭弁が、振りかざす間もなく潰されてしまった。
「……それは、どうしてなんですか?」
そう問いかけたヨゾラさんの声は、あからさまな苛立ちを含んでいた。
「あなたたちが学んでいる『魔法』……。これは、とっても扱いの難しいものなの」
対する学園長先生は、あくまで優しく、諭すように答える。
「暴発という危険が常に付きまとう以上、一歩間違えば自分だけじゃなく、周囲の人たち大勢を傷つけてしまうことだってあるわ。逆に、極めれば一人で世界を滅ぼしてしまえるほど、危険な魔法をも使えてしまうかもしれない……。だからこそ、しっかりと管理しなければならないの」
俺とヨゾラさん、二人の目を交互に見つめながら、彼女は続ける。
「そのために私たちは、『誰に教えるか』をとても重く考えているの。どんな人間で、どんな家で育ち、誰が責任を持つのか……。それがはっきりしていない人に、魔法を教えるわけにはいかないの。だから現状、学園の入学資格を『貴族の血縁者』に限っているわ」
そう言って、学園長先生はひとつ息をついたあと、椅子に深くもたれかかった。
「……この学園が、上流階級の子たちしか受け入れないということで非難を受けているのは事実よ。けれどそれには、それ相応の理由があるの……」
そしてうなだれるように、軽く目を伏せた。
『な、なるほど、ですわ……』
――初等部で習う『火の弾丸』ですら、生身の人間に直撃させれば殺してしまえるほどの威力はあるだろう。また、『魔力収束砲』によって魔力を使い果たしてしまった人間は、魔力欠乏によって命を落としてしまうこともあると。
それほどまでに危険と隣り合わせな、『魔法』という技術。しっかりとした管理下に置くため、魔導院や学園は『独占』という手を取っているようだ。現に、昨日支給された『上級魔法辞典』は、これまでの物とは違って『学園外持ち出し禁止』とされており、今も強制的な置き勉中だ。これもおそらく、万が一にでも流出してしまわないための対策だろう。
……学園長先生が語った『独占』の理由。それが理解できないほど、俺は子供じゃない。けれども……。
「……じゃあ、貴族でもなんでもない普通の人たちは、魔法を習うことすら許されてないってことですか?」
俺の心情を代弁するかのように、ヨゾラさんは言った。不満を隠す気もないのか、どこかふてくされたような口調で。
「……そうね、今の学園の方針では、そうなってしまうわね」
そう言って、学園長先生は顔を上げた。
「けれど、わかってちょうだい? 大いなる力には大いなる責任が伴い、それを授ける者には、見極める義務があるの……」
……なんか聞いたことあるセリフだな。なんだか、手首から糸出せそうな気がしてきたぞ。
「それに、貴族ではない子たちも、全く習うことができないというわけではないのよ?」
「……『魔法塾』のことですか?」
「そう! 王国の認可を受けていない、いわば民間の魔法教室ね。私たちのように、統一された教本や教育課程があるわけではないけれど、魔法の基礎を学び、生活や冒険に役立てるには十分な場所よ。実際、近年は魔法塾出身の……いわゆる『魔術師』たちが、冒険者として活躍しているという話を、よく聞くもの」
……いや完全に独占してるわけじゃないんか~い。まあよく考えりゃそうか、照明すら魔力で動くんなら、一般庶民にも扱える程度の知識や技術は必要だもんな。独占してるのはそれこそ上級魔法とかの、大規模高威力で扱いが難しい部分だけってわけね。
「……仮にも魔導院のトップを任されている以上、無認可の魔法塾のことなんて口にするべきではないんでしょうけど……」
苦笑いを浮かべながら、学園長先生は言った。
――結論、チャームくんも魔法を習うこと自体は可能ではあるみたいだ。ただこの学園では受け入れてもらえないから、民間の魔法塾ってとこに通う必要があると。……せっかくなら、みんな一緒のとこで勉強したいよなぁ。
そしてもう一つ。ようやく、魔導士ってのがなんなのかわかった気がする。たぶん魔法を使える人間のうち、学園出身者が『魔導士』で、それ以外が『魔術師』なんだ。例えるならみんな料理はできるけど、免許を持ってる人だけが調理師を名乗れる、みたいなことだろう。……思ったよりどうでもいい違いだったな。
「というわけで、ごめんなさいね? どうにも力になってあげられそうにないわ……」
『い、いえっ! こちらこそ、無理を申し上げてしまい、申し訳ございません……』
アリアさんの謝罪に合わせ、困り顔を作ってから頭を下げた。
「また何かあったら、いつでもいらっしゃい?」
『あ、ありがとうございます……! それでは、失礼いたしますわ……!』
そうして俺たちは、学園長室をあとにした。
『……あ、あの、ヨゾラ様……? 大丈夫……でございますか……?』
無言で隣を歩くヨゾラさんに、たまらずアリアさんは声をかけた。ちらっと覗いた彼女の横顔には、不服さがありありと浮かんでいる。
「……ええ、大丈夫よ。少しだけ、納得がいっていないだけだから」
そう言って、ヨゾラさんは軽く息をついた。
「生まれだけを理由に、学ぶ資格すら与えてもらえないだなんて、そんなの間違ってるわ。そう思わない?」
『ふえっ……!? あっ、その……!』
「……あぁ、そっか。『あの人』はきっと、このことを言っていたのね……」
戸惑う俺をよそに、彼女はそう呟いた。
「アリアさん、あなた王女なんでしょ? 王族の特権で、制度ごと変えてしまえばいいんじゃない?」
『ふえぇっ!? そっ、そんな力は、わたくしにはございませんわぁ……!』
……とんでもねえこと言うなこの子。でもまあ、ありっちゃありかもな……。
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