↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/51

048. 僕は別に、どこへも行く気はないのに……

 自習会のため、ヨゾラさんとともに師匠の研究室へ。ドアの上部には、『魔法研究開発局』と書かれている。魔法学園は『教導養成局』の附属らしいが、他にはどんな局があるんだろうか。


「途中入学か……できないことはないだろうけど……」


 マグカップを手に、研究室内をうろうろと歩き回りながら、師匠は言った。


 ――昨日の夜、一緒に学園に通おうというアリアさんからの提案に対し、チャームくんは『大丈夫』と言っていた。だが……正直あの流れで、本当に大丈夫だとは到底思えない。たぶんチャームくんは、アミュレットさんがなぜか反対ぎみだったのを察して、空気を読んだんじゃなかろうか。


 そしてそれにはアリアさんも気付いていたようで、昨日の夜、寝る前に俺たちは二人で相談して、彼が学園に通うためにはどうすればいいのかを調べることにした。


 問題は、アミュレットさんがなぜか乗り気ではないことだが……まあ、外堀さえ埋めておけばたぶん大丈夫だろう。あの人結構、押しに弱いし。


「あいにく、僕はそこまで学園の制度に詳しくなくてね……。大した助言もできそうにないなぁ……」


 ……仮にも高等部の担任が、この体たらくである。


「ま、師匠も半ば無理やり教師にさせられたようなものだし、しょうがないわね……」


 隣で机を拭いていたヨゾラさんが、手を動かしたままそう言った。


「おぉ……わかってくれているようで助かるよ……。おかげで、研究も滞ってしまって……」


 向こうの机に置かれた石を眺めながら言った師匠の顔は、しょぼしょぼになってしまっていた。


『む、無理やり……でございますか?』


「そうなんだよ……。あれは、半年ほど前のことか。放課後、この子たちの面倒を見ているところを、学園長が目にしてね。せっかくなら教師になってくれないかと言われて、その時は断ったんだけど……教員不足を理由に、結局押し切られてしまったんだ……」


 しょぼくれた表情はそのままに、師匠の肩がどんどん落ちていく。


「僕は技術屋だし、そもそも教導養成局……学園の人間でもないというのに……。魔導院に入ってからというもの、あの人の無茶振りに振り回されてばかりだよ……」


 机に軽く腰掛け、愚痴を語る師匠のそのうんざり感は、周囲にどんよりとしたエフェクトを幻視するほどだった。


『そ、そうでしたのね……』


「まあまあ……。元気出してください、師匠。研究なら私、また手伝いますから」


「ありがとう、ヨゾラ……。卒業したらぜひ、うちの局に来てくれ……」


 今にも泣きだしそうな師匠に対し、ヨゾラさんは苦笑いを浮かべていた。


『そっ、そういえば……! 他の局員の方々は、どちらにいらっしゃるのでしょうか……? 研究室にお邪魔させていただいていることですし、一度ご挨拶を……』


「いやぁ、それが……」


「『魔法研究開発局』のメンバーは、局長である師匠、一人だけよ」


『ふえっ……!?』


 ……いやいや、じゃあ人手不足なの学園じゃなくてこっちじゃね?


「毎年数人は入局してくれるんだけど……なぜかみんな、一年も経たないうちに辞めていってしまうんだよ……」


『そ、それは、どうしてなのでしょうか……?』


「それが……みんな口を揃えて、『ついていけない』と言うんだ……。僕は別に、どこへも行く気はないのに……」


「そういう意味じゃないと思いますけど……」


 ヨゾラさんが苦笑いのままツッコミを入れた。


「……師匠、研究が佳境に入ってくると、平気で何日も徹夜したりしますよね? そのせいなんじゃないですか?」


「い、いや! だけどそれは、他の子たちに強要したりはしていないよ……!? むしろ、皆が遅くまで残ったりしなくていいように、データの計測なんかは自分でやってるし……!」


 ……ほへー、めっちゃいい上司じゃん。研究所的なとこってなんだかハードなイメージだけど、ここは結構ホワイトな職場なんだな。


「じゃあもうアレですね、何度片付けても師匠が散らかしちゃうから。それで嫌になって、みんな辞めていくんですよ」


「うぐっ……! そ、それは……」


 ヨゾラさんからの指摘に、師匠はまるで苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らした。


「まずは身の回りの整頓から、始めてみるといいですよ」


 そう言って、ヨゾラさんは立ち上がった。


「さ、アリアさん、行きましょ」


『ふえっ……!? どどっ、どちらに、でしょうか……!?』


「学園長に聞きにいくの。それが一番、手っ取り早いでしょう?」


「たっ、たしかに、ですわ……!」


 そうして俺たちは、しょんぼりとした顔で手を振る師匠を置いて、研究室をあとにした。

読んでいただきありがとうございます!

少しでも「おもしろい」と思っていただけたなら幸いです……。

応援、リアクション、感想、ブックマーク、なんでもお待ちしております!


今後とも、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。