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044. 勝手に首を突っ込んだだけだもの

 高等部から習うことになる『上級魔法』では、新しく魔法のジャンルが増えるらしい。中等部から追加された『防御魔法』に加え、その発展形である『結界魔法』や、様々な魔法を組み合わせた『複合魔法』なんてものもあるという。その分、難易度は跳ね上がるようだが……むしろ望むところだぜ……!


 そして一年後、どんな魔導士になりたいかによって、極める魔法のジャンルを絞ることになるとのこと。そのおかげで、戦闘が苦手な子でも、医療や魔導技術といった分野で力を伸ばしていけるのだそうだ。……文理選択みたいなもんだろうか。


 ――そんなようなことを、シオンさんが手元のカンペをガン見しながら話していた。




「デコ出しかわいい~!」


「ねね、王女様ってホント?」


「どうやって飛び級したのー?」


 休み時間になるとほぼ同時に、女子たちが俺(アリアさん)に群がりはじめた。


 ……男子がいないな。この世界では男が魔法使いになるのって、そんなに難しいのか。


『ふ、ふえぇ……!』


 同じクラスの子たちではあるが飛び級してしまっている以上、アリアさんからすれば彼女たちは、年上のお姉様ということになる。そんなお姉様方に囲まれ、アリアさんは狼狽えてしまっているようだ。……すげー華やかな良いにおいがする……。


「ストップ! そんな大勢で詰め寄ったら、迷惑でしょう?」


 その時、俺の隣の席に座っていたはずのヨゾラさんが、女子たちをかき分けながら現れた。どうやら彼女たちの勢いに、外に追いやられてしまっていたようだ。


「まったく……。アリアさん、大丈夫?」


『だ、大丈夫でございますわっ……! おお、お気遣い、ありがとうございます……!』


 アリアさんの返答に合わせ、ヨゾラさんに向けて俺は微笑みかけた。


「キャー! 笑顔かわいいー!」


「お礼言えるなんてえらーい!」


 おいなんかちょっとバカにしてないか!? こちとら王女やぞ!?


「その……さっきは失礼したわね……。まさか、この国の王女だっただなんて……」


 ……公務で顔を出すことだってよくあるはずなのに、王女の顔も知らないのか、この子たちは。


『ととっ、とんでもございませんわ……! むっ、むしろ、親切にご案内いただけたことに……! 改めて、お礼を……!』


「お礼なんていいわよ。なんだか困ってそうだったから、勝手に首を突っ込んだだけだもの」


 さも当然といったような表情で、ヨゾラさんはそう言ってのけた。


「ヨゾラっちばっか喋ってんのずるぅい!」


「アタシらもアリアちゃんと喋りたい~!」


「はいはい、順番よ?」


 ってか、良いとこの子しか入れない学園のはずなのに、ずいぶんギャルっぽい子たちがいるな……。


『……皆様、とても仲が良(よ)いのですね……』


 ぽつり、アリアさんは呟いた。


 ――クラスメイトからイジメを受けていたアリアさんにとって、和気あいあいとしたこのクラスの雰囲気は、きっと羨ましく、そして眩しく映っているんだろう。


「そうね。離学しちゃった子もいるけど、基本的には初等部からずっと一緒なわけだから」


 離学……たしか、『家を継ぐために自主退学すること』をそう言うんだったか。ずっと魔法の勉強ばっかやってるわけにもいかないだなんて……貴族って大変ね。


「あたしら、ズッ友だもんねぇ?」


「ね~」


 顔を見合わせ、声を揃えるクラスメイトたちに、ヨゾラさんは微笑みつつも、やれやれといった様子で首を横に振っていた。


 ……いや、ズッ友て。俺のいた世界じゃ、とっくの昔に死語だぜ、それ……。




 五十分の授業ののち、十分の休憩。それを三セットで、一日の授業は終わる。楽勝な時間割なのに加えて、授業内容はずっと魔法についてだから、楽しくってしょうがない。おかげで時間が進むのが早い早い。


 気付けばもう下校の時間だった。


『……授業の内容が、何一つ理解できませんでしたわぁ……!』


「あ、あはは……」


 小声で呟かれたアリアさんの嘆きに、思わず苦笑いが出た。


 ……まあ、初等部の内容すらついてけなくて落第寸前だった子が、いきなり高等部放り込まれて、大丈夫なわけないよなぁ……。帰ったら、わかりやすく教えてあげるからね……。


「ししょ……先生! 今日も放課後、いいですか?」


 隣でヨゾラさんが立ち上がり、教卓に向かって声をかけた。


「ん、ああ、構わないよ。研究室で待ってるね」


「はい! ありがとうございます!」


 シオンさんは手を挙げて答えたあと、教室を出ていった。


「ヨゾラっちマジ真面目〜」


「高等部なっても変わんないねぇ」


 後ろの席のギャルコンビが、ヨゾラさんを茶化している。


「当然でしょう? むしろ進級したばかりの今こそ、しっかりと復習に努めるべきだわ。あなたたちも、久しぶりに来ない?」


 振り返り、彼女は周囲のクラスメイトたちに向けて言った。しかし、その誰もが気まずそうな表情を浮かべていた。


「ごめんね〜……。アタシらも、行きたいのは山々なんだけど……」


「パパがさぁ、家のことも勉強しとけってうるさくてさぁ……」


「そ、そうよね……! みんなそれぞれ、家業があるものね……!」


 慌てた様子で呟いたヨゾラさんの表情は、どこか寂しげに見えた。


「――危ない危ない、忘れるところだった」


 ちょうどそのとき、なぜか戻ってきたシオンさんが、廊下からひょっこり顔を出した。


「アリア王女、あとで僕の研究室まで来てくれるかな?」


『わっ、わたくしですか……!?』


 アリアさんが驚くのに合わせ、俺は立ち上がる。


「飛び級のせいで、習わなかった範囲があるだろう? 補習……というと聞こえは悪いが、まあ、そんなようなことをしておかないといけないからね」


『な、なるほど、ですわ……』


 ……まさか成績優秀すぎて、逆に補習を受ける羽目になるとは……。


「というわけで……ちょうどいいや。ヨゾラ、悪いけどアリアさんを連れて来てくれるかい?」


「わ、わかりました!」


 慌てて返答したヨゾラさんの声は、どこか嬉しそうだった。


「アミュレットさんには連絡済みだから、安心して居残るといいよ。では、またあとで」


 そう言って、彼女は首をひっこめた。


「……自習会のメンバー、増えたねぇ」


「よかったじゃんヨゾラっち~」


「……ふふっ、そうね! じゃあアリアさん、行きましょ!」


『はわっ……! かっ、かしこまりましたわ!』


 ――弾けるように笑ったヨゾラさんの口元には、小さな八重歯が、愛らしく覗いていた。

読んでいただきありがとうございます!

少しでも「おもしろい」と思っていただけたなら幸いです……。

応援、リアクション、感想、ブックマーク、なんでもお待ちしております!


今後とも、よろしくお願い申し上げます。

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