042. 入学早々あなた、何をしでかしたの?
馬車を降り、見送ってくれたアミュレットさんとチャームくんに手を振る。そんな俺に、周囲の生徒たちがチラチラと視線を向けながら通り過ぎていく。なんだかむず痒く感じるが、じろじろ見られてしまうのは王女として仕方ないことなのだと、この前アリアさんが恥ずかしそうに言っていた。ので、我慢する。
好奇の目に晒されながら、人の流れに沿うように学園内へ足を踏み入れた。
「どうかしたの?」
廊下の真ん中でキョロキョロしていると、魔女のような大きなとんがり帽子を被った少女に、声をかけられた。
「あら、あなたもしかして、新入生?」
彼女は軽く身を屈め、俺の顔を覗き込んだ。
パッチリと大きく、目尻がきゅっと吊り上がっていて、まるで猫のような印象を受ける目。胸元に流れたセミロングの髪は真っ黒で艶があり、丁寧に手入れされているであろうことが分かる。
そして彼女の肌は、日焼けしたかのように健康的な小麦色をしていた。
「初等部の子よね? 教室ならあっちよ?」
『あああっ、あのっ……! じ、実は……』
――ネックレスから発せられるアリアさんの声に合わせ、俺は適当に口パクをする。これで彼女はようやく、俺というワンクッションを挟まずに、他人と会話ができるようになった。その分、体の主導権を持つ俺がリアルタイムで表情を作らないといけなくなってしまったが……まあそれくらいは、家賃代わりにやらせてもらいますよ。
……よく考えたらこれ、ちっちゃくなった名探偵のやり方と似てるな……現状、見た目は子供で頭脳は大人なわけだし……。
『わっ、わたくしっ……! がっ、学園長室を、探しておりまして……!』
――休み明けの初日は朝一で来るように、と言われていたのだが、肝心の場所を教えてもらっていなかったのだ。……案内板くらい、どっかに置いといてくれよ……。
「学園長室? それなら三階よ、案内してあげるわね」
『ふえっ!? よっ、よろしいのですか……!?』
……そういやこの子、他人と話すの苦手なんだったわ……。新学期早々、先が思いやられるぜ……。
「もちろんよ! さ、ついて来て?」
振り返り、歩き出したその後ろに、俺はついて行った。
「ついたわ、ここが学園長室よ」
彼女が指差す先、扉の上部には、『学園長室』と書いてあった。
「それにしても、朝から呼び出されるだなんて……入学早々あなた、何をしでかしたの?」
『ふえっ!? そっ、そういうわけでは……!』
……人を不良扱いすな! 俺はまだしも、アリアさんはそういう行為からは程遠いところにいるんだぞ!
「まあいいわ。案内も済んだことだし、私は行くわね」
『はわっ……! え、えとっ……! あっ、ありがとうっ、ございましたっ……!』
アリアさんのコミュ障さに合わせ、挙動不審気味に頭を下げる。……これ、モノマネしながらスピーカーになってた時のほうがよっぽど楽だったな……。適当でもなんとかなる口パクはまだしも、身振り手振りが遅れないようにするのにすげえ神経使うわ……。
『親切な方でございましたね……』
「ん、ああ、そうだね」
周囲に誰もいないことを確認し、ネックレスからの声に返答する。
「他の人みたいにジロジロ見てもこないし、いい人だったね」
『た、たしかにそうですわね……。王女としてではなく、一人の人間として、接してくださったのでしょうか……』
「……案外、気付いてなかったりしてね」
「そっ、それはそれで、複雑ですわぁ……!」
――アリアさんとの、こういったやり取りも、他人から見ればひとり言にしか見えないだろう。あるいは、多重人格者だと思われるかもしれない。
奇妙な状態ではあるが、俺自身はなんだか、愉快に感じていた。
「……んじゃ、行こっか」
『はい! かしこまりましたわ!』
そして俺は、学園長室の扉をノックした。
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