041. うんうん、今日もかわいい!
第二章、これにて終章となります。
今後は不定期での更新となりますので、あらかじめご了承ください。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました……!
鏡に映る、幼気な少女の姿。ふわりと広がった金色の髪が、輪郭を縁取るように腰まで流れている。前髪はカチューシャで留められ、ぱっちりと開いたサファイアブルーの瞳が、キラキラと輝いている。長いまつげと、張りのある肌、ぷっくりとした唇。纏うローブのサイズが少し大きいせいで、より可愛らしさが増している。『まるでお人形さんのよう』とはよく言ったものだ。
「うんうん、今日もかわいい!」
身悶えしそうなほどのその愛らしさに、俺は鏡に向かって笑顔でそう言った。
『ふ、ふえぇ……!』
首にかけた小さな石が軽く震え、そこから恥ずかしそうな鳴き声が聞こえてきた。
――クローディウスがアミュレットさんからの報告を受けるために使っていた『念話石』。あの時拾ったそれに、紐を括りつけてネックレスにした。原理はわからないままだが、俺の脳内でしか流れていなかったアリアさんの声を、こいつは外に出力できるみたいなので非常に便利だ。常に魔力を流し続ける必要があるものの、アリアさんのスキルで魔力は無限になっているので、何の問題も無い。あと単純に、キラキラしててかわいい。いい拾い物をしたぜ。
「ポニテとかも似合いそうだな~。……おっ! この角度だとさらに盛れる!」
『も、盛れる……って、なんですのぉ……!?』
鏡の前で何度もポーズを変え、自分の姿がいかに可愛らしいかを確かめていく。
――アリアさんの体を乗っ取ってしまってから、今日でだいたい二週間くらい。もはやすっかり女の子の体に慣れてしまい、今はどれだけ可愛く振る舞えるかを研究中だ。なぜなら、『かわいいは正義』だから!
「……エイト、その辺にしておけ。編入初日から遅刻など、いずれこの国を背負い立つ者としてふさわしくない失態だぞ」
「ふえっ!? もうそんな時間っすか!?」
すっかりアリアさんみたいになってしまった鳴き声を上げながら、部屋の隅の時計に目をやった。
――長かった進級休暇もようやく終わり、今日からついに高等部デビューだ。一気に上がっちゃったのをアミュレットさんに怒られると思ってたけど、「今の私に、お前を咎める資格など無い。それに、高位の魔法を学べば身を守る術も磨けるだろう。お嬢様の面目を潰すような真似さえしなければ、私は何も言わん」って言ってくれた。ので、存分に暴れるとしよう……!
「いっそげ、いっそげ! ……いつっ!?」
『あうっ……!?』
教科書を取ろうと伸ばした指先に、鋭い痛みが走った。
「……紙の端に引っかけたのか? まったく、誰の体だと……」
ため息混じりにアミュレットさんは俺の手を取り、取り出したハンカチで傷口を押さえてくれている。
「ご、ごめんアリアさん……」
『だ、大丈夫ですわ……! 傷も、浅いようですし……!』
俺のミスを庇おうと、アリアさんは強がってくれているが……指先に心臓ができたみたいに、じくじくと痛む。……なんで紙で指切ったときって、こんな大げさに痛いんだろうか。
「え、エイトさん! 大丈夫ですか……?」
その時、アミュレットさんの脇に控えていたチャームくんが、心配そうな表情でこちらにやってきた。長かった髪をバッサリと切り揃えた彼は、今はメイド服に身を包んでいる。彼の細く小さな体つきと、あどけない顔立ちが相まって、メイド姿が非常によく似合っている。……その見た目は、もはや男の子とは思えないほどに、可愛らしい……。
――本来なら王家のメイドという職に就くためには、厳しい採用試験を勝ち抜く必要がある。にもかかわらず、なんの経験も無い少年が就くことができたのは、アリアさんからのお願いに加え、アミュレットさんの実績があったからだろう。真面目に働くって大事だな。……まあ、ほんとは裏切り者なんだけど。
「手、借りますね……! んっ……」
彼は俺の手を取り、優しくキスをした。その瞬間、指先が淡い光に包まれ――そしてその光が消えるとともに、傷と痛みはすっかり消えてしまっていた。
「……えへへ、治りました……!」
「はうっ……!」
俺に向けられた、にへっとした笑顔。そのあまりの可愛さに、胸がきゅんきゅんと痛む。……今度はこっちも治してくれぇ……。
『チャームさ……こほん! チャーム、ありがとうございます!』
「よくできましたね、チャーム」
「あわっ……! え、えへへぇ……!」
二人に褒められ、チャームくんは頬を赤く染めながらも、嬉しそうに笑っている。
――チャームくんがメイドとして仕える以上、主人であるアリアさんは彼を呼び捨てにするのが自然だ。しかしまだ慣れていないようで、彼女は毎回言い直している。そしてアミュレットさんは、メイド長として彼を指導する立場にある。だから他のメイドに接するときと同じ口調で、彼に接するようにしているらしい。一見堅苦しくも思えるが、それが王家の秩序を守るため、必要な礼儀作法なんだ。
「……さて、そろそろ出るぞ」
チャームくんの頭を撫でながら、アミュレットさんは言った。
「はーい! んじゃ行こっか、アリアさん!」
『かしこまりましたわ、エイト様! 本日も、よろしくお願いいたします!』
首元の石から、アリアさんの声が聞こえる。俺は鏡に向かって、にっこりと笑いかけた。
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