040. 一件落着、ってやつかな!
王宮の門前に着いた頃には、城の向こうに太陽が昇りはじめていた。眩しさと眠たさに目を細めながら、マークさんに感謝を伝えて一旦別れる。ここまで送ってもらった謝礼については、また後日相談させてもらうということになったからだ。ついでに馬車は持ち主が死……いなくなってしまったので、マークさんにあげた。
あとは誰にも見つからないように部屋に戻るだけ。そこで俺は、ある妙案を思いついた。それは、『アミュレットさんのスカートの中に隠れる』ことだった。それを伝えると、アリアさんは恥ずかしそうに鳴き声を上げ、アミュレットさんはすげー冷たい目で俺を睨んでいた。
バタンと扉の閉じる音。そしてアミュレットさんの、「いいぞ」という言葉を合図に、俺は彼女のスカートから抜け出した。
「ぬあああぁぁぁ……! ちゅかれたぁ……!」
ベッドにうつ伏せに倒れ込む。全身を襲う凄まじい疲労感と、なんとか無事に戻ってこられたという解放感で、なんだかどこかへ飛んでいっちゃいそうだ……。
……ちなみに、アミュレットさんのスカートの中は、とってもフローラルな香りがして大変居心地が良かったです。
『一時はどうなることかと思いましたが……無事に帰ってこられて……本当に良かったですわぁ……』
手の中の石が震え、そこからアリアさんの、疲れ切ってふにゃふにゃになってしまった声が聞こえた。
「申し訳ございません……。本日のご予定は全てキャンセルしておきますので、どうかごゆっくり、お身体をお休めくださいませ……」
気まずそうに顔を伏せながら、アミュレットさんは言った。
馬車の中で寝たとはいえ、運動不足のこの肉体にはめちゃくちゃハードでキツいスケジュールだったからな。今日だけじゃなく明日も休みにしてもらいたいくらいだぜ。……といっても学園は春休みみたいなもんだし、ポンコツ王女のアリアさんに課された公務なんて、ほとんど無いんだけども。
「あ、あの……!」
その時、アミュレットさんの後ろに控えていたチャームくんが、おそるおそる口を開いた。
「ぼ、ボクは、これからどうしたら……?」
「チャーム、大丈夫だ。私に任せておけ」
そう言って、アミュレットさんは彼に優しく微笑みかけた。そして俺のほうへと向き直り――。
「お嬢様、厚かましいお申し出であることは、重々承知の上……それでもお願いいたします……。どうか弟を、この王宮に置いてやってはいただけませんでしょうか……?」
――深く、頭を下げた。
「私たち姉弟にとって、帰るべき故郷はすでに無く……頼れるのはもはやお嬢様だけ……。そして私にとって、この王宮こそが唯一の居場所であり、心安らげる場所なのでございます……」
そんな姉の姿と、向かいあう俺のことを、チャームくんは不安そうな目で交互に見つめていた。
「もちろんその分、より一層働くと誓いますわ。ですから、どうか……」
『こ、これ以上働くだなんて、体を壊してしまいますわ……!』
慌てた様子で、アリアさんは彼女の言葉を遮る。
『それに、そんな誓いを立てていただかなくたって……わたくしは喜んでチャーム様のことを、歓迎いたしますわ!』
声を弾ませ、どこか楽しげに、アリアさんは言ってのけた。
「……お嬢様、心より、感謝申し上げます……」
「あっ、わっ……! お、王女様……! ありがとうございます……!」
そしてもう一度、頭を下げた姉に倣うように、チャームくんも慌てて頭を下げた。
「……え!? じゃあチャームくんもメイド服着るってことっすか!?」
「へっ……!?」
俺の気付きに、チャームくんは目を丸くして驚いている。……青髪ロングの垂れ目の男の娘メイド……そそるぜぇ、こりゃ……!
「いや……他に行くあてがないから、ここに住まわせてやってくれというだけで……べつに、メイドとして仕えさせるつもりは――」
「あ、あの……!」
不意に、チャームくんが声を上げた。
「メイドって……ボクにもできますか……?」
「ち、チャーム……?」
唐突な申し出に、アミュレットさんは怪訝な表情を浮かべている。
「その……ボクとお姉ちゃんを助けてくれた、エイトさんとアリア王女に、お礼がしたくて……!」
「おぅふ……!」
もじもじと、恥ずかしそうな上目遣いで見つめられたせいで、たまらず変な声が漏れた。……待って可愛すぎるわこの子。無理かも。
『お、お礼だなんてそんな……! エイト様はまだしも、わたくしは何もしておりませんのに……!』
「気持ちはわかるが……なにもお前が、そんな無理をする必要はないんだぞ……? 長い間監禁されていたせいで、体も弱っているだろうし……何よりこの仕事は、見た目以上に過酷なもので……」
「……ありがとう、お姉ちゃん。でも大丈夫! ボク、がんばれるよ!」
「し、しかし……」
「それに、ね……? ボクも、お姉ちゃんと一緒に……メイド、やってみたいなぁって……!」
「はうっ……!?」
どうやらアミュレットさんにも、チャームくんの可愛さがクリティカルヒットしたようで、珍しく変な声を上げている。
「だ、だからっ、その……! お、王女様……ボクのことも、メイドにしてくれませんか……?」
『ふふっ……! かしこまりましたわ!』
楽しそうに笑いながら、アリアさんは返事をした。
『あぁでもっ、わたくし一人で決められるようなことではありませんので……またあとで、一緒にお父様にお願いしに行きましょう!』
「あっ、はい!」
そして返事をしたチャームくんの顔に、柔らかな笑顔が浮かんだ。
「……まあ、せっかく自由になったんだ。お前の好きにするといい……」
ぶっきらぼうに呟いたアミュレットさんも、口元が綻んでいる。
「あはっ! 一件落着、ってやつかな!」
その和やかな雰囲気に、俺もつられて笑ってしまった。
――二人が生きてきた地獄の日々。それは、平和な世界に産まれた俺には想像もできないくらい、辛いものだっただろう。だからせめてこれからは、姉弟揃ってなんの憂いも無く、幸せに過ごせることを祈るのみだ。
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