003. わたくし、精一杯ご支援させていただきますわ!
『――魔力とは、生物が生み出す未知の生命エネルギーのことである。それは、血液や空気と同じく我々の内に流れるものでありながら、いまだ完全には解明されていない。現行の理論によれば――』
……はーいもういいでーす。そんな難しいこと言われたって頭に入んないっつーの。なんか面白そうなこと書いてないの?
『――魔法の発動には、魔力を適切に変換・安定化させるための一定の手順が必要である。古来より、魔法行使には二つの方式が存在する。ここではまず、「純行式」と呼ばれる――』
……うげぇ、思ってるよりややこしいぞ、これ……。車の免許取るより難しいんじゃね……?
『――一方、魔法陣と呪文を用いることで、上記工程を簡略化した方式が存在する。この方式を「定法式」と呼び、現代においては一般的な魔法行使のほとんどが、この方式で行われ――』
なるほど……マニュアルとオートマみたいな感じか? とりあえずは……そっちでお願いします。
(……その……非常に難解でございましょう……? 暗記するだけでも大変ですのに、理論そのものまで理解しておかねばならないらしく、わたくしはいつまで経っても身に付かず……)
「んー……? そうかな……。結構……面白い気が……」
思ったより、内容がするすると頭に入ってくる。やっぱり興味のある分野ってのは、とっつきやすいもんなんだな。
(そ、そうなのですか……? であればやはり、エイト様には魔法の才覚が……)
「……よし、だいたいわかった! 試しになんかやってみてもいい?」
パタンと本を閉じ、本棚へと戻しながら問いかける。
(あっ……! え、えと……申し訳ございません……。城内は、その……攻撃魔法の使用は、禁止されておりまして……)
「げ、そうなんだ……。まあでも、バレないくらいの威力のやつで……」
(いっ、いけませんわそんなこと! それに、城内全域に検知用の結界が張られておりますので、使った途端に警備の者が駆けつけて来てしまいますわ……)
うーむ、セキュリティは万全ということか。せっかく魔法使いになれると思ったのに……。
(――あっ! え、エイト様! 今、何時でございますか……!?)
「え? 何時……って言われても、時計がどこだか……」
(あちらでございますわ! ……あっ! えとっ、右手側の隅にございますの……!)
彼女に急かされ、部屋の隅に目をやる。そこには、大きなのっぽの古くない時計があった。
「すげ、実物初めて見た。じゃなくて、えーっと……十時前、かな」
(わわっ……! もうこんな時間ですの!? 式典が始まってしまいますわ!)
「式典? なんかあるの?」
(先日、隣国との国境付近にあったダンジョンがようやく踏破されまして、主として君臨していた魔物を討伐した冒険者パーティーの皆様を表彰するため、式典が開かれるのです!)
ダンジョンに、魔物の主……ボスってことか!? ずいぶんとそそられる響きじゃないか……!
(あぁでも……! わたくしの体にはエイト様が入っておられて……! ど、どうしましょう……!)
「なんか、スピーチとかする予定だったの?」
(い、いえ……! わたくしは……未熟者ですので……ただお父様のお隣で、大人しく座っているだけでよいのですが……)
「んじゃあ大丈夫なんじゃない? 俺が気を付ければいいだけでしょ?」
(よ、よろしいのですか……? エイト様は無関係ですのに、わたくしの代わりに……)
「体、乗っ取っちゃってるしね。それぐらいはやるよ」
(本当でございますの……? それでは……お願いしてもよろしいでしょうか……?)
「もちろん! あ、でも、言葉遣いとかはわかんないし、サポートは任せてもいい?」
(も、もちろんでございます! わたくし、精一杯ご支援させていただきますわ!)
こうして、成り行きでプリンセスになりきることになってしまったが……これが俺の異世界生活、記念すべきファーストミッションだな!
張り切って臨んだはいいものの、記念式典自体はつつがなく執り行われ、何事もなく終了した。俺のやったことはというと……アリアさんの道案内どおりに歩いて、国王様の隣でニコニコしたままじっと座って、アリアさんの道案内のとおり部屋に戻る。これだけだ。
「ほんとになんもやることなかったね」
(はい……申し訳ございません……わたくしが未熟なばかりに……)
ベッドに腰かけながら問いかけると、しょんぼりとした口調で、アリアさんが呟いた。
「ま、まあおかげで怪しまれたりはしなかったし、よかったんじゃないかな……?」
バレたところでなんだという話ではあるが。……というか、誰かに相談してでも早急にこの不思議現象を解明すべきでは……?
(そうですわね……。数年前、メイドの中に他国の間者が紛れ込んでいたことが発覚して以来、お父様は非常に神経質になっておられますので……)
間者……ってたしか、スパイのことだよな……。ひょっとしてこの国、あんまり平和じゃないのか……?
(今のお父様に怪しまれてしまったら、牢に放り込まれてもおかしくはありませんわ……。最悪の場合、問答無用で処刑される可能性も……)
「しょっ!? い、いくら偽物かもしれないからって、実の娘を、いきなり!?」
いくらなんでも野蛮すぎるだろ……。これからはバレないよう、本気でプリンセスになりきらないと……。
(とはいえ黙って抜け出すのも、それはそれで怪しまれてしまいそうですわね……。きちんとお父様に外出許可をいただかないと……)
「抜け出す……って、もしかして、俺が魔法を試せるように……?」
(ええ。今ならまだお父様も、来賓の方々への対応で忙しいはずですわ。ですので、ある程度の違和感は見逃される可能性が高い……。であれば、外出許可を得るなら今のうち、ということに……)
「ちょっ、ちょっと待って! そんなリスク冒してまでやるようなことじゃないよ! ちょっとした好奇心で言っただけだし……!」
(そ、そうなのですか……?)
いや、魔法使いになりたいのは山々なんだけど……処刑と天秤にかけられるほどかと言われると……。
(……いえ、エイト様の魔法の資質を確かめるためにも、やはり外出はすべきだと思いますの。それに……魔法の才が無いせいで活かすことのできなかった、わたくしの『スキル』……もしかしたら、日の目を見られるかもしれませんし……!)
「す、スキル……!?」
これまた興味深い単語が……! 俄然やる気が湧いてきてしまったなぁ!
「じ、じゃあ……またサポートしてもらっていい?」
(ええ、もちろんですわ!)
「へ、陛下……! 少々、お時間をいただけますでしょうか……?」
頭の中で聞こえたアリアさんの声を、そっくりそのまま、俺は繰り返す。
「……アリアか。なにか用か?」
重低音の響く渋い声色で、振り返りながら答えたのはアリアさんの父、ジルローラン王だ。巨大な宝石がいくつもあしらわれた王冠と、白髪混じりの立派なヒゲ、鋭く突き刺すような視線が、一国の王としての威厳を醸し出し過ぎている。……はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。
「その……! が、外出の許可をいただきたく……!」
「……外出?」
途端に王の視線がより厳しく、声色に怪訝さが混じる。なんか、めっちゃ怪しまれてない……!?
「さ、先ほどの冒険者様のお話をお聞きして……! わ、わたくしっ、ダンジョンというものに興味を持ちましたの……! で、ですのでっ、ぜひ自分の目で、調査をしてみたく……!」
アリアさんの言葉を繰り返せばいいだけなのに、王のプレッシャーに気圧され、思わず言葉がつっかえてしまう。この人、迫力あり過ぎだよぉ……。
「剣術も魔術もからっきしな……お前が、か?」
(うぐっ……!)
まるで見下すように投げかけられたその冷たい言葉に、アリアさんはかすかに呻き声をあげた。……あー、アリアさん? 貶されて凹んでるところ悪いんだけど、次はなんて返せばいいの……!?
「お前が自分から外に出たいと言い出すなど、初めてのことだな」
しかも今まで引きこもりだったのかよ!? そんなん絶対怪しまれんじゃん!!
「……なにがあったのかは知らんが……少なくとも、良い傾向ではあるのだろうな」
もうダメだ……。牢屋直行からの斬首エンドだ……。つい数時間前に死んだばっかりなのに……。
「いい機会だ、その目でしっかり見てくるといい。この世界が、どれほど危険なのか……」
……あれ? なんかいつの間にかオッケーの雰囲気になってない?
(感謝いたします……! しっかりと、学んでまいりますわ……!)
「……かっ! 感謝いたします! しっかり学んでまいりますわ!」
やべっ、ちょっとミスったかも。まあなんにせよ、無事に許可は得られたか……。
「護衛にはアミュレットを付ける。道中は全て奴に従うように」
(……あっ)
……アリアさん? あっ、じゃなくて。返事しなきゃ怪しまれちゃうんだけど? 適当に返事しちゃうよ!? いいのね!?
「わかりま……か、かしこまりましたわ! それではわたくしっ、行ってき……まいりますわ!」
そう言って頭を下げ、逃げるように俺はその場を去った。
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