038. いや~、無意識にやっちゃってただけなんで……はは……
「あー、あー……。ははっ、喉枯れてんじゃん。アリアさん、泣きすぎだよ」
(ふ、ふえぇ……!)
少し掠れてしまった声で、俺は言った。
「しかし奇妙だな……どんな原理でこうなっているんだ……?」
不思議そうに、アミュレットさんが呟いた。
「日常的な睡眠では何も起きず、魔法や私のスキルによって強制的に眠りに落ちたときにのみ、人格が入れ替わる……。いったい何が作用しているのか……。まあ、そもそもが『憑依』というわけのわからん状況から始まっている以上、考えてもしかたなさそうだな……」
彼女はなにやらぶつぶつと呟いているが、正直あんまり、頭に入ってきていなかった。何故なら俺は今……アミュレットさんの胸の柔らかさを、後頭部で味わっている最中だからだ。
――自分が表に出ている間、俺の声が聞こえなくなってしまうのが嫌だからと、アリアさんがまた代わってくれることとなった。しかし眠りが切り替わりのスイッチになっている以上、交代の瞬間はどうしても体が脱力してしまう。よってそのままでは、倒れて頭を打ったりする危険がある。それを防ぐため、アミュレットさんの胸にもたれかかるように、アリアさんが身を預けていたのだ。
……メイド服越しではあるが、それでもこの沈み込むような柔らかさは、至高と言ってもいいだろう……。アリアさん、代わってくれてありがとう……。
「……ってか、アミュレットさん、なんで俺に手伝ってって言ってくれなかったんすか?」
「ん……? あぁ、いや、それはだな……」
最初っから俺に頼んでくれてりゃ、上手く演技して油断したところを、後ろからズドーンで簡単に解決できたかもしれないってのになぁ……。
「……そうだな。やりようは、いくらでもあったのかもしれないな……」
反省するかのように、彼女の声のトーンが落ちる。
「あの男に……すぐに連れてこいと言われて、気が動転していたせいで……そこまで頭が回っていなかったんだろう……。それに、逆らうための牙を、すっかり折られてしまってもいた……。完全に、冷静さを欠いていたみたいだな……」
そう言って、彼女はひとつため息をついた。
(アミュレット……それほどまでに、追い詰められてしまっていたのですね……)
「それから……一刻も早くチャームを助けたいという気持ちで、頭がいっぱいになってしまっていたからな……」
「えへっ……! えへへ……お姉ちゃぁん……!」
不意にアミュレットさんに微笑みかけられ、チャームくんは嬉しそうに、彼女の肩に頭をこすり付けている。……なにを惚気てんだこの姉弟……。
(ふふっ……! お二人とも、とっても仲が良いのですね……!)
「……ところでエイト、さっきお前が『魔力収束砲』を撃つときにやっていた、あの動きはなんだったんだ?」
「……え?」
「こう……体の横で、丸い何かを両手で持ったようにしたあと、それをドラゴンに向けて突き出していただろう? その時も、手のひらを横じゃなく縦に重ねていたように見えたが……なぜあんな無駄な動きを?」
(そ、そうなのですか……? わたくし、気付きませんでしたわ……)
おっと……よく見てるな、アミュレットさん。でもこれを説明するには……七つの球を巡る物語について、一から語る必要があるんだよな……。
「……いや~、無意識にやっちゃってただけなんで……はは……」
「そうか。てっきりああすれば、制限解除がやりやすいのかと思ったんだが」
……実際、手からビーム出すってなったらああするべきだと、無意識に思った結果体が勝手に動いてただけなんだよな。もはや遺伝子に刻み込まれてるというか……。
「それにしても、よく考えたな。まさか体内に直接叩き込むことで、あの硬い甲殻を攻略するとは」
「あぁ、まあ、硬いやつは中から叩くべきかなって……」
毒とかでちまちま削ってくのも嫌いじゃないけど、そんな魔法まだ覚えてないし。
「あとまあ、上から撃てば少なくとも、いろんなとこに迷惑かけずに済むかなって……」
石の壁を溶かすほどの熱量を持った、ほぼ無限射程のビームなんて、薙ぎ払うだけで森が全焼しちゃうからな。気をつけないと、地図を書き換えなくちゃならなくなっちゃう。
「ほう……あの状況においてなお周囲を気遣っていたとは。殊勝な心がけだな」
(まあ……! そんなことまで考えていておいでだったのですね……! さすがですわ、エイト様!)
「いやぁ、それほどでも……! ふへへ……!」
ストレートに褒められたのが恥ずかしくて、また変な笑い方になってしまった。こればっかりは慣れそうにないな……。
「――おっと……チャーム、眠いのか?」
「んぅ……うん……」
見ると彼は、アミュレットさんの肩に寄りかかったままウトウトと船を漕いでいた。
「ふあぁっ……んじゃ、帰りますかー」
後頭部の柔らかさを名残惜しく思いつつも、俺はあくび混じりに立ち上がった。
――その時、視界の端で何かが光った。
(あら? なんでしょう、あれ……)
気になったので近付いてみる。しゃがみ込んで拾い上げたのは、綺麗な菱形の宝石だった。
「アミュレットさーん、これなんすか?」
眠そうに目を細めるチャームくんの手を引き、こっちにやってきたアミュレットさんに声をかける。
「ん……それは、『念話石』だな。おそらくあのゲス男が、私の報告を受けるために使っていたものだろう……。ドラゴンから振り落とされた時に落としたのかもしれんな」
「ねんわせき……?」
「簡単に言うと……離れた相手とも話ができる魔道具だな。魔力を込めて話しかければ、対応する石がその魔力を拾って声にしてくれるんだ」
「な、なるほど……?」
よくわかんないけど、こっちの世界の電話みたいなもんだろうか。
『これが念話石……キラキラしていて綺麗ですのね……』
「魔鉱石を加工したものですから、光の加減で様々な色に輝いて見えるのですわ」
『ほへー……素敵ですわね……』
……あれ? 俺いまアリアさんの声をスピーカー出力してたか?
「あの~……もしかしてこれ、アリアさんの声拾ってません……?」
『ふえっ? ど、どういうことですの……?』
俺の手のひらの上で、石がかすかにブルブルと震えている。
「た、たしかに反応している……。お嬢様、もう一度何かお話いただけますか?」
『な、何か、と言われましても……!』
……間違いない。頭の中で聞こえる声とは別に、石からアリアさんの声がする。
「ふむ……原理はよくわかりませんが……どうやらこの念話石、お嬢様の声を出力することが可能なようです」
『ふえっ……!? あっ、じゃあ、これも……!?』
「ええ、聞こえておりますわ」
驚くアリアさんに、アミュレットさんはどこか嬉しそうな声で微笑みかけた。
――あのゲロカス野郎からドロップしたアイテムだと思うとちょっとキショイが……とはいえ、便利な物を手に入れたみたいだ。やったね!
『で、ではっ、この石さえあれば、わざわざエイト様に真似ていただかなくとも、わたくしの思いを周囲に伝えることが……!?』
「可能、でございますが……私といたしましては、お嬢様が常に表に出ていていただけますと……」
『そ、それはダメですわ! エイト様とお話ができなくなってしまいますもの!』
「ふへへ……どうもすいませんねぇ……」
照れて思わずコソ泥みたいになってしまった。そんな俺に、アミュレットさんは軽くため息をついた。
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