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034. 見なさい!! この雄々しき姿をォ!!

 積み重なる瓦礫の間から、()い出るようにアミュレットは顔を出した。


「クソッ……なんだ今のは……! チャーム、無事か……!?」


「だ、大丈夫……! ありがとう、お姉ちゃん……!」


 チャームが伸ばした手を取り、瓦礫の上へと引き上げる。そして破片で怪我をしないよう、外したロングスカートで彼の体を(くる)んだ。


 ――その時、彼らの頭上に浮かぶ月を、大きな影が吞み込んだ。


「う、うわああぁっ!?」


「なんだ、こいつは……!?」


 見上げた二人の視界に映ったのは、巨大なドラゴンだった。


 二十メートルはあろうかという巨体が、大きな翼を力強く羽ばたかせ、宙に留まっている。鱗が積層してできた甲殻が、月明りを反射して赤く輝き、その口元では炎が揺らめいていた。


 その背中に、クローディウスはいた。


「見なさい!! この雄々しき姿をォ!!」


 静まり返った夜の森に、高らかな叫び声がこだました。


「『紅炎の赤竜(レッドドラゴン)』!! こいつを手に入れるためにィ!! 手持ちの魔物はもちろん、せっかく育てたエルフのガキ共も、軒並み消費させられてしまいましたからねェ!!」


「う、うそ……!? そんな……!?」


 青ざめた顔で、チャームは呟いた。


 ――同じ村で生まれ育った者たちではあるものの、早々に引き離されてしまったアミュレットにとって他の子供たちは、遠い過去の存在であり、もう名前すら覚えてはいない。


 だが、チャームは違った。治療要員として何度も顔を合わせ、交流こそ許されてはいなかったが、同じ境遇に置かれた者としての親近感を、密かに抱いていた。


 そんな彼らも、クローディウスによって使い潰されてしまった。その事実は、チャームの心をさらに深く(えぐ)った。


「しかァし!! それを差し引いてもなお余りあるほどの破壊力ゥ!! 身をもって知りなさァい!!」


 その叫びに合わせ、ドラゴンは大きく首をくねらせたかと思うと、その口から灼熱の炎を吐き出した。


「わ、わああぁっ!!」


「クソッ!!」


 悲鳴を上げるチャームを、アミュレットは急いで抱きかかえる。そして、身に付けたブーツの底から炎魔法をジェット噴射させることで、爆発的な推進力を生みだし、その勢いでその場を飛び去った。


 ――間一髪、二人が居た場所では瓦礫が赤く溶け落ち、黒煙がもうもうと立ち上っていた。


「ひっ……!? い、石が溶けっ……!?」


「あんなもの……当たったらひとたまりも……!? ぐあっ!!」


 (おののく)く二人の前にドラゴンが降り立つ。その風圧と衝撃で吹き飛ばされそうになるのをなんとかこらえ、アミュレットはチャームを強く抱き締めた。


「こいつさえいれば王国はもう落ちたも同然……! ですがその前に、邪魔者は焼き尽くしておくとしましょう……!」


 クローディウスは恍惚の表情を浮かべている。ドラゴンの口内では、すでにブレスの準備が整っていた。


「骨すら残しませんよォ!! やれィ!! ドラゴォン!!」


「ひぃっ!?」


「チャーム!!」


 近距離で放たれた炎のブレス。吹き飛ばされまいとその場に伏せたのが災いし、回避行動を取れそうにもなかった。


 咄嗟(とっさ)にアミュレットは、その身を盾にしようと弟に覆い被さった。石材が溶けるほどの高熱。無駄だとわかっていても、彼女はそうせざるを得なかった。


 そして二人を、轟音とともに炎が飲み込んだ。




「――ふえぇ!? 全力で固めたのにこれかよ?! あっぶねぇなぁ!!」


 空気を引き裂くようなブレスの噴射音に混じり、聞き覚えのある可憐な声が耳に届く。アミュレットは恐る恐る、振り向いた。


「お、お嬢様!? なぜっ、こんなところに!?」


 言いながら、彼女は気付く。何度も見てきたはずの小さな背中。しかしその立ち姿や口調には、慣れ親しんだ違和感があった。


「アミュレットさん!! 怪我ないっすか!?」


「エイト!? お前っ、どうやって戻って……!?」


「説明は後っすかね!? とりあえずあのクローディウスとかいうクソ野郎と、このクソデカドラゴンなんとかしましょ!!」




◇ ◇ ◇

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