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030. これ、どうすりゃいいんだろうなぁ……

 外はすっかり日が落ちていた。闇に紛れるように王宮を出たアミュレットさんに、俺はぷかぷかと浮かびながらついて行く。


 小高い丘の上に建つ王宮から、城下町へ繋がる道。少し高度を上げて見渡してみると、大通りに等間隔で並ぶ街灯が、石造りの大きな建物たちを煌々(こうこう)と照らし出しているのが見えた。目線を上げると、遥か向こうまでそれが続いており、セントリアル王国の王都というものがどれだけ大きな都市なのかが、はっきりとわかった。


 途中で細い脇道へ逸れ、アミュレットさんは人目を避けるように路地へと入った。そして五分ほど歩いたところで、大きな壁にたどり着いた。高さ十メートルほどのこの壁は、大昔に魔物除けのために建設されたもので、王都をぐるっと一周、囲うように建てられているらしい。この前学園に向かう馬車の中で、アリアさんにそう教えてもらった。見上げていると、夜の闇の向こうから突然、超大型の巨人が覗き込んできそうでちょっと怖くなる。まあ、そこまでの高さはないが。


 壁伝いに、さらに歩くこと数分。外へと通じる門のような建物が見えてきた。そこにいた警備兵らしき人に、アミュレットさんは軽く会釈(えしゃく)する。すると間もなく、門が開かれた。どうやら王家のメイド長ともなると、手続きもなしに顔パスで通れるらしい。


 門の向こうはまっすぐ道が続いており、周囲には人の気配がない。左右に広がる深い森が、待ち構えているかのように静かに枝葉を揺らしている。街灯はないが月が妙に明るく、それがかえって、不気味に感じられた。




 少し歩いたところに、一台の馬車が停めてあった。その荷台にもたれかかるようにして立っていた男が、アミュレットさんの姿を見るなり声をかけてきた。


「なんだ、来たのか。てっきり逃げたのかと思ってたが」


 そこそこ身長が高いアミュレットさんを、さらに上から見下ろすほどに長身なその大男は、彼女を睨み付けながらぶっきらぼうに言った。背中には、鉄の塊と見紛うほどに無骨な大剣を背負っていて、すげーマッチョだった。


「そろそろ引き上げるつもりだったんだが……運が良かったな」


「黙れ、さっさと行くぞ」


 そんな男に、アミュレットさんは目も合わせずにそう吐き捨てると、荷台を開けて勝手に乗り込んでいった。男は舌打ちをしつつも、運転席のほうへと向かっていった。


 そしてゆっくりと、馬車が動き出した。


(こいつがクローディウス……? もっと陰湿そうなやつだと思ってたけど……)


 手綱を操る男を見下ろしながら呟く。イメージとはちょっと違ったが、まあロクな奴ではなさそうだ。こいつはいったい、アリアさんを使って何をするつもりなんだろうか……。


 『王国転覆のため』と、アミュレットさんは言っていた。メイドとして潜伏していたのも、内部事情を探って弱みを探すためだと。だとしたらそれは、アリアさんを人質にすればすぐに叶えられるものなんだろうか? 交換条件として、国王の座を要求したりするのだろうか。


 いや、取引材料にされるだけならまだマシだ。アリアさんのスキルがバレている以上、それを活かす方面で利用される可能性だってある。無限の魔力を活かした兵器としてや、無限バッテリーとして酷使される危険も十分あり得るだろう。そして最悪の場合、実験体として体を(いじくり)りまわされるなんてことも、フィクションではよくある話だ……。


(……そんなこと、させてたまるかよ……!)


 せっかく俺という存在から解き放たれて自由になったアリアさんを、てめぇの目的のためだけに利用しようだなんて、そんな吐き気を催すほど邪悪な行為、許していいわけがない。なんとしてでも阻止しなければ。


 ――そしてもう一人、許せない奴がいる。


(あんなに仲良さそうだったのにな……)


 アリアさんは俺のことを、兄のように感じていると言ってくれた。だがそれ以前からきっと、彼女はアミュレットさんのことを、『姉』のように感じて接していたんだろう。ほんの数日見ていただけの俺がそれに気付けるほどに、アリアさんはアミュレットさんのことを(した)っていた。


 その好意を、アミュレットさんは裏切ったんだ。


(……弟のため、かぁ……)


 しかし、彼女が裏切った理由も決して、理解できないものではない。たった一人残された家族のため、自分たちの自由を取り戻すため、仕方なかったんだ。生前の俺も、同じ境遇だったとしたらおそらく、同じことをしただろう。


 ……泣きわめくアリアさんを、アミュレットさんは無理やり押さえつけていた。(そば)で見ていた俺ですら、胸が張り裂けそうなその光景を前に、彼女はどんな思いを抱えていたのか。


(……全部演技だったなんて、そんな悲しいこと言うなよな……)


 実際のところ、彼女はアリアさんのことを、どう思っていたんだろうか。時折見せる慈悲深い眼差しや、包み込むような優しさは全て、彼女の言うとおり偽りだったんだろうか。


 ……少なくとも俺には、そうは見えなかったが。


(アリアさん、大丈夫かな……)


 ふとアリアさんの様子が気になったので、荷台の屋根をすり抜けて中へ入った。


 そこは縦横三メートルもないくらいの狭い空間で、板張りの床には座席すら設置されていなかった。吊り下げられた照明も薄暗く、頼りない。学園の送迎で乗せてもらっている馬車とは違って、内装は驚くほど質素だ。


 その端に、アリアさんは転がされていた。シーツは外してもらえたようだが、相変わらず手足と口は縛られたままだ。疲労からか、心なしかぐったりしているようにも見える。


 そしていまだ、彼女はすすり泣き続けていた。


(かわいそうに……なんとかしてあげたいけど……)


 残念ながら、現状俺にできることはなにもない。もしまた俺が、彼女の体に入ることができたなら、魔法で全てを解決してあげることもできる……かもしれないのに。


(んで、こっちは……)


 その反対側、アミュレットさんは顔を背けるように、小窓の外を眺めていた。その顔を、俺はおそるおそる覗き込む。


(あぁ、そっか……。やっぱりそうだよなぁ……)


 眉根を寄せながら、彼女は何かをこらえるように、必死で歯を食いしばっていた。頬には涙の筋がしっかりと刻まれており、そしてかすかに、彼女は震えていた。


 ――きっとアミュレットさんも、アリアさんのことを大切に思っていた。だからこうやって涙を流しているんだ。それでも弟のため、自分自身のために、アリアさんを差し出さなければならない。そんなジレンマに、彼女は追い詰められてしまっている。


(これ、どうすりゃいいんだろうなぁ……)


 一番いいのは、黒幕であるクローディウスをぶっ殺すことだろうけど……実は武闘派なアミュレットさんがやってないってことは、やれない理由が何かあるのかもしれない。あいつめちゃくちゃガタイ良かったし……。


(まあ、今の俺にはどうすることもできないけど……)


 馬車の中でふよふよと浮かびながら、俺は深くため息をついた。

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