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026. 魔法というものは本当に、素晴らしいものですのね……!

( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)

 特別試験も無事パスできたということで、他の学園生たちもすでに入っているという進級休暇に、俺も加わることとなった。期間はだいたい二週間ほどで、それが終わればいよいよ高等部だ。……高位の魔法を学べるようになるのが、今から楽しみだぜ……!


 進級に伴う詳しい説明は、アミュレットさんに同席してもらったほうがいいと思ったので、今日のところはひとまず帰ることにした。見知らぬメイドと運転手に迎えに来てもらい、そのまま王宮へ。……その間、何を話せばいいのかわからず、気まずい道中となった……。


 部屋で昼食をとったあとは自由時間となったので、そこからしばらくはアリアさんに、魔法の勉強を教えて過ごすことにした。……しまった。予習用に新しい魔法の教材、もらっとけばよかったな……。




(――ではその隣にあります、『対象を眠らせる魔法』……? は、いったい何に使うものなのでしょうか……)


「こんなんめちゃくちゃ強いよ!? 戦闘中だと当てるのすげームズいだろうけど、それでも当たりさえすれば、相手を簡単に無力化できちゃうからね!」


 机に向かい、初級魔法事典を(めく)りながら、アリアさんに魔法の魅力について語っていた。


「戦闘に限らなくたって、例えばアリアさんがすごく寝つき悪いなーって悩んでたとしても、これ一発でスヤスヤだからね!」


(そ、そんな使い道が……!)


 元の世界ではこんなことばっか考えてたからなぁ……。もはやこの世界の誰よりも、魔法を上手く使う自信あるわ、俺。


(改めて考えますと、魔法というものは本当に、素晴らしいものですのね……! 不眠に悩む方を、救って差し上げることもできますだなんて……!)


「でしょ? 最高なんだよ、魔法って……!」


 みんなもっと大騒ぎしたほうがいいと思うな。マジなんでもできるんだぜ? 魔法って。


(……決めましたわ! わたくし、次はこちらの……『凪ぐ意識(ヒプノーシス)』に、挑戦してみようと思いますわ!)


「ん、そうなの? 攻撃魔法とかじゃなくて?」


(はい! これならもし、エイト様やアミュレットが寝付けずに困る夜があったとしても、わたくしが力になって差し上げることが、できるかもしれませんので!)


 あぁ……! アリアさん、君はなんていい子なんだ……!


「オッケー! んじゃまずは、この魔法の原理から、だけど……」


 改めて見直した、『凪ぐ意識(ヒプノーシス)』の原理についてのページ。そこに書かれていた単語のほとんどが、医学書でしか見ないようなものばかりだった。


(……あ、あの、エイト様……? こちらに書かれていることが、ひとつも理解できそうにないのですが……)


「だよねぇ……。うーん……」


 ざっくり言うと、『魔力で特殊な磁場を発生させ、生じた電流によって大脳皮質内のニューロンの発火を抑制、同時に発生させた低周波によって、脳波を睡眠時の周波数へと引き込む』魔法らしい。……これをどうやって小六に教えろと?


(……はっ!? こっ、ここから一番下までっ、全てが呪文……!??)


 そしてアリアさんも気付いたとおり、呪文が鬼のように長ぇ! やってることがめちゃくちゃ高度な分、しょうがないとは思うが……『火の弾丸(エンバー)』の四倍くらいはありそうだ。初級魔法の難易度じゃねえだろ……。


(ま、魔法陣の形も、すごく複雑で……! これを全てっ、同時に思い浮かべなければなりませんの……?!!)


「あー……まあ、うん、そうだね……」


 体の中の魔力を移動させ、頭の中で呪文を唱えつつ、魔法陣の形を思い浮かべる。しれっと成功させておいてアレだが、自分がそれに適応できてるのが不思議なほどに、この世界の魔法は難しいと思う。


「じゃあ……とりあえず、原理を理解するところからいこっか……?」


(はぅっ……! お、お手柔らかにお願いいたしますわ……!)




「……おっ、今度は間違えずに全部言えたね」


(よ、ようやく……やりましたわぁ……)


 疲れ切ったようなへにょへにょ声で、アリアさんは言った。


「ふふっ、今日はこの辺にしとく?」


(そ、そうしていただけますと……幸いですわぁ……)


「おっけー! ふっ、んぐぐっ……!」


 椅子に腰かけたまま、大きく体を伸ばす。横目で覗いた窓の外は、すっかりオレンジ色に染まっていた。


 ――ちょくちょく休憩を挟みつつではあるものの、昼ごはん食べてからずっと魔法のお勉強をしてたわけで、そりゃ疲れるか。にしても、アリアさんもよく頑張るよなあ。元に戻る方法がわかってない以上、魔法を覚えたところで使えるようになるかはわかんないってのに……。


「アミュレットさん、夜には戻るって言ってたっけ? もうすぐ帰ってくるかなぁ」


(ふえっ……? そ、そういえば……いつもより戻りが遅い気がしますわ……)


「ん、そうなの?」


(いつもでしたら、日が暮れるころにはすでに戻っているはずなのですが……)


 となると、だいたい半日くらいの休暇ってことか。……月一しか休みないんだから、丸一日休んだっていいと思うけどなぁ。


 ――ちょうどその時、ノックの音が部屋に響いた。


「お嬢様、アミュレットでございます……」


 噂をすればなんとやら。俺はドアに向かって「どうぞ」を返した。


(おかえりなさい、アミュレット! ゆっくり休めましたか?」


 スピーカーモードで声をかける。が、彼女はなぜか俯き加減で、後ろ手にドアを閉めた。


(あ、アミュレット……? どうしましたの……?」


 不安げにアリアさんが呟くも、アミュレットさんは無言のまま。やがて彼女はゆっくりこっちに歩み寄ると、そのまま俺が座る椅子の背後に回り込んだ。


「あ、あの……? アミュレットさん……?」


 体を捻って様子を伺うと、彼女はどこか思い詰めたような顔で、俺を見つめていた。


 ――直後、その横顔が俺の目の前にまで急接近してきた。


(ふえぇっ!?」


 わけもわからず、アリアさんと二人揃って声を上げる。同時に、彼女の両手が優しく包み込むように、俺の胸元へと回されていた。


(あ、アミュレット……!?)


「えっ!? ちょっ、なんすか!?」


 ……はっ!? もしや俺が高等部まで一気に飛び級してしまったことを知って、怒りがマックスになった結果、この場で仕留めようと……!?


「――すまない、お嬢様……」


 不意に、彼女は俺の目を手で覆い隠したかと思うと、耳元でそう囁いた。ひんやりとしたその手によって、視界が暗やみにつつまれ……はれ……? にゃんか……あたまふわふわして……ねむく――。

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