024. じゃあさっそく、やって見せてもらおうかな
( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)
「――おおよそのところは……理解できたかと存じますわ……」
「おっ? 思ったより早かったね」
俺から紙を受け取りながら、シオンさんは意外そうに言った。
「じゃあさっそく、やって見せてもらおうかな」
「かしこまりましたわ、では……」
そう言って俺は目を閉じ、深く深呼吸をした。
――まずは……体の中を流れる魔力を、体表に集めるんだっけか? 布を一枚羽織る感じで、全体的に……。
んで、それをゆっくり外側へと押し出していくイメージで、範囲を体の外へ拡張していくと……うわ、これめちゃくちゃムズいな……。魔力が体から離れた瞬間に、感覚が薄れちゃうっていうか……蒸発してっちゃう感じだ……。なんとか集中して、コントロールを失わないように……。
それから……体の外側へ広げた魔力を、レンガみたいに固めて組み立てていく、と。……要はドーム型にバリアを張れってことでしょ? そんなん、言われなくてもわかっとりますがなって感じだな。俺がどんだけバリアに憧れた少年だったか、小一時間語ってやろうか?
ってか、固める形状についてもなんか書いてあったな。たしか……『魔力の消費を減らしつつ面積を最大化することができる、六角形がおすすめだよ。これは強度の面でも非常に優秀で、衝撃や圧力を効率的に分散できる形でもあるんだ。雪の結晶がそうであるように、安定を求めるものは自然と、六角形を形取るようにできているのかもしれないね』だとかなんとか。……なるほどね、ハニカム構造だっけ? 蜂の巣がその形なんだよね。見栄えも良さそうだし、そうするかぁ。
あ、でもなんか横にもう一個書いてたな。んーっと……『ただし、六角形だけを敷き詰めて球状にするのは不可能なんだ。詳細は省くけど、もし気になるなら、学園長にでも聞いてみるといいよ。それで、その解決方法だけど……いくつか五角形を混ぜてみたり、隙間ができたらそれに合うような形のものを用意したりして、上手いことやるしかないから、そこだけ少し頑張ってね』だとか……。うーん、最後だけ適当だったなぁ……。
(あっ、わぁ……! エイト様! 周囲に何か、ガラスのようなものが……!)
俺の周りを囲うように敷き詰められた、無数の半透明な六角形。それを見て、アリアさんは感嘆の声を上げた。
「ふぅ……! シオン様、どうでございましょうか……?」
「……うん、綺麗に展開できてるね」
バリアの外側で、シオンさんは微笑みながら頷いている。
「魔力密度も申し分なし。これなら、物理的な攻撃に対しても十分耐えられるだろうね」
俺のバリアを、指でコンコンとノックしながら彼女は言った。
「……ところで、足元に落ちてるそれは何かな?」
「えっ? 足元、ですの……?」
視線を下ろすも、そこには何もなく。
――その瞬間、バリアに一斉にヒビが入った。
「あっ、わっ……!」
気付いたときにはもう遅く、ガラガラと音を立てながら、バリアが崩れ落ちていく。
(あぁっ……! き、消えてしまいましたわぁ……)
細かい粒子となって消滅していくバリアを見て、アリアさんは残念そうに呟いた。
「意識が離れたせいだね。展開し続けるのも、楽ではないということだよ」
なぜか満足そうに微笑みながら、シオンさんは言った。……なんでそんなイジワルするの!
「それで、どうかな? キミが覚えた初級魔法たちと比べて、この防御魔法は」
「その……非常に、難しく感じましたわ……。これまでのものとは、次元が違うと申しますか……」
さっき『そんなに複雑じゃないから大丈夫』とか言ってたけど、正直めちゃくちゃムズかったんだよなぁ……。
「次元が違う、か……。その感覚は正しいね」
そう言って彼女は不意に、怪しげな笑みを浮かべた。
「――なぜなら、僕がキミに教えたのは、純行式での発動方法だったからね」
「……ふえっ?」
久々に聞く単語の登場に、思わず鳴き声が漏れた。
(純行式……たしか、魔法発動における二つの方式のうち、古来より伝わる難しいほう……でございましょうか……?)
おっ、正解だよアリアさん! 勉強の成果出てるねぇ! あとでセルフなでなでしてあげようねぇ!
「その証拠に、さっきのキミは呪文も魔法陣も、使ってはいないからね」
「た、たしかにそうですわ……!」
そういえばシオンさんにもらったあの紙には、魔法そのものの原理と、どうやって発動するかの手順しか書かれていなかった。……どうりでムズいと思ったわ……なんでいきなりそんな試練与えるかなぁ……。
「これでハッキリしたよ、アリア王女。キミは、『高等部』へ進級するといい」
「……ふえぇ!?」
(こっ、高等部、ですの!?)
あまりの驚きに、今度は大きな鳴き声を上げてしまった。
「ちょうど今年の高等部進級試験が、今キミがやった『純行式での基本防御魔法発動』だったんだよ。つまりキミは、その試験に合格したも同然というわけだね」
「な、なるほど、ですわ……」
……てっきり、一段飛ばして中二からのスタートくらいだろうとか思ってたのに、まさかそんなとこまで一気に上がれてしまうとは……。
「……『初級魔法での魔法陣多重展開』と、『純行式での基本防御魔法発動』。以上の成績を鑑みて、この僕、『セントリアル王立魔導院魔法研究開発局局長』シオン・シュレディンガーが、キミの高等部進級を推薦するよ」
「あ、ありがとうございます、シオン様!」
なぜか急に、シオンさんが改まった態度で言ったので、慌ててお礼を言った。が、彼女の視線は俺ではなく、俺の背後に向けられていた。
「――なるほど、わかりました」
背後から聞き覚えのある声。振り返るとそこには、学園長が立っていた。
「では、『セントリアル王立魔導院教導養成局局長』、および『学園長』コール・チョーク・バンブルビーの名において、アリアさんの高等部進級を、承認します」
「学園長先生! ありがとうございます!」
お礼を言った俺を、学園長は笑顔で見つめていた。
やったぜ……! これでさらに上位の、ド派手でかっこいい魔法が覚えられる!
(まさか、一気に高等部までお進みになられるだなんて……! さすがですわ、エイト様!)
ありがとうアリアさん! 君の応援もあってこそだよ!
「それにしても……これが巡り合わせというやつかしら?」
そう言った学園長の手元には、黒い布のようなものがかけられていた。
「実は、発注ミスで高等部用のローブに余りが出てたのを、さっき偶然見つけたの。すぐに処分するのはもったいないと思って、持ってきてしまったのだけど……」
言いながら、彼女はふわりとローブを広げた。その内側は緑色に染められている。
「少し着てみてちょうだい? 一番小さいサイズだから、もしかしたら合うかもしれないわ」
彼女に促され、まずは今着ていたローブを脱ぐ。手を出してくれたシオンさんにそれを預け、学園長に新しいローブを着せてもらった。
「あら、ちょっと大きかったかしら……?」
「いいんじゃないかな、これから成長期だろうし」
袖の部分は指先しか出ないくらい長いし、裾は地面スレスレだ。でも、これはこれで……可愛さが増すんじゃなかろうか?
「どう? アリアさん。着心地が悪ければ、特注で作ってもらうこともできるわよ? 少し時間はかかってしまうけれど……」
「いえ、せっかくですから、こちらをいただきますわ!」
オーバーサイズでぶかぶかなのを、あえて着るのが流行ってたりしたし、こっちのほうがかわいいっしょ!
「わかったわ! じゃあ、それは今からアリアさんのものね! ちなみに、内側の色の意味については、覚えているかしら?」
「色、でございますか……?」
緑色のローブというと……純血主義、とか……?
(ふえっ!? え、えとっ……! たしかっ……その……!)
おっと。こりゃいくら待ってても出てこなさそうだな……。
「申し訳ございません、失念してしまいましたわ……」
(はうぅ……! 申し訳ございません……!)
「あぁいいのいいの! そんな謝る必要ないのよ! 何回だって教えてあげるんだから!」
学園長は笑顔のまま、俺を気遣うように両手をひらひらと振った。
「ローブの内側の色は、『魔導士階級制度』に基づいて決められているの。一番下の階級が赤色で、これは初等部に在籍していることを表すと同時に、初級魔導士であることを意味するわ。つまり、学園に入学した時点ですでに、初級魔導士として認められているということになるわね」
ふーん? ってことは、俺もすでに魔導士だったってことか。……魔導士ってなに? 魔法使いとどう違うの?
「その次は橙色で、これは中等部に在籍していることを意味するわ。その次が黄色なんだけど、これは中等部に上がって一年後にある、『中級魔導士』試験に合格した子だけが着ることができるの」
ほえー、中等部の中でも階級が分かれてるのか。
「そしてその次が、今アリアさんが着ている緑色ね。これは、高等部に在籍していることを意味するわ」
……ん? じゃあ俺、三段飛ばしで飛び級したってこと? え、すごくない?
「その次は青色で、これは高等部在籍中に受けることになる、『上級魔導士試験』に合格すれば着られるわ。当面はこれを目標にして、しっかり頑張ってもらいたいわね」
……赤、橙、黄、緑、青……?
(あ、あのっ……! その次はもしや、『藍色』なのでは……?」
どうやらアリアさんも、その並びに心当たりがあったらしい。彼女の言葉を、そのまま口に出した。
「あら! 素晴らしい、正解よ! ちゃんと覚えてるじゃない!」
(あっ、わっ……! え、えへへぇ……!)
学園長に褒められ、嬉しさを噛み締めるように、アリアさんは照れ笑いしている。
「あなたの言うとおり、次は藍色になるの。これは学園を卒業したあと、『国家魔導士』として王立魔導院で働くことになった子たちが着るものね。ちなみに、私やシオンも藍色なのよ?」
そう言って学園長は、ローブの前を留めていたボタンを外し、内側の藍色を見せてくれた。
「本当はその上にも、もう一つだけ階級があるんだけど……」
「……紫、でございますか?」
「そのとおり! 紫色の『特級魔導士』という階級が、現行の魔導士階級制度の頂点なの。けれど……今はそこまでたどり着いた人はいないのよね……。歴代でも数えるほどしかいないということから、相当狭き門であることがわかるわね」
特級……! 魔導士ってのが魔法使いとどう違うのかはまだわかってないけど、最高にアガる響きだぜ……! よし決めた、絶対にそこまで上り詰めてやる!
「ちなみにだけど、どうしてこの七つの階級がその色になったか、わかるかしら?」
(あっ、えとっ……! に、虹の色に、合わせているから……で、ございますか……?」
おそるおそる答えたアリアさんの声を、俺はスピーカーとして出力した。
「大正解! よくわかったわね!」
(あっ、はっ……! はうっ、ふゆぅぅ……!)
さすが学園長、上手いな。そしてアリアさんは、褒められ慣れてないんだろう、照れくさそうに謎の鳴き声を漏らしていた。
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